誤想防衛
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留意点

客観面での構成要件該当性
錯誤論で故意を議論する上では、犯罪として客観的構成要件要素が満たされていることが大前提となる。したがって、例えば、人がいると思って拳銃を撃ったが、実は捨てられたマネキンだったという場合、まず、客観面で殺人罪の実行行為があるかは実行行為に関する危険説(具体的危険説)で判定されるし、客観面で器物損壊罪の構成要件要素が満たされるかについては器物損壊罪は「他人の物」への犯罪であるから目的物が他人の所有物であることが必要である(捨てられた物であれば無主物であり、他人の物に当たらない。野良犬・野生の熊の例も無主物であり、他人の物に当たらないが、この例では動物愛護法の複雑な問題が生じる。)。

未必の故意
錯誤の問題とする以前に、未必の故意が認定できる場合がある。

未遂罪の故意
錯誤論は原則として、既遂罪の故意についての議論である。錯誤論で故意が否定された場合でも未遂罪の故意が成立している場合がある。

小さい罪を犯す意思
小さい罪を犯す意思(認識・認容)で客観的に大きい罪を犯した場合(例 占有離脱物横領のつもりで窃盗にあたる行為)に、小さい罪の故意があることも錯誤論の問題である(なお、この場合占有離脱物横領罪が成立することを論じるうえでは、客観面で窃盗行為は占有離脱物横領行為を含むことに言及されるのが望ましい。)。

故意の数
AがBを狙って拳銃で撃ったところ、弾がBを貫通して、たまたま後ろにいたCにも当たり、Bが負傷しCが死亡したという場合、Bに対する故意とCに対する故意を認めるのが判例及び有力説である(数故意犯説)。AがBを狙って拳銃で撃ったところ、Bには当たらなかったが、たまたま横にいたCに当たり、Cが死亡したという場合、判例は錯誤論を経てCに対する故意だけを認めるが、有力学説はBに対する故意とCに対する故意を認める(実行行為の数についても同様の議論がありうる)。このように、1人を殺すという1つの意思から複数の故意を認めることについては、故意の創設にあたるとの批判もあるが、意思は事実であり故意はそれを法的に評価した結果であって、1つの事実に複数の法的評価が成立しうることには問題はないとする説が有力である。

因果関係の錯誤
因果関係の錯誤の場合は、錯誤の問題とする前に、客観的要素としての因果関係の成否が問題となることが多い。因果関係の錯誤の場合、客観的に結果との因果関係(条件関係と相当因果関係)が存在しないなら、錯誤論において故意は成立しない とする説が有力である。因果関係がない場合、構成要件の範囲を逸脱し構成要件の範囲内での符合がないからである。ただし、この場合でも、未遂罪としての故意は成立しうることに注意を要する。

ウェーバーの概括的故意
因果関係の錯誤の事例で2つの行為があった事例では、どの行為と結果の間の因果関係を検討すべきかの問題がある。これについては、第一の行為と結果の因果関係がないから未遂罪の故意にすぎないとするのではなく、第一の行為と第二の行為を一体(一連の行為)としてとらえて一連の行為と結果の間の因果関係があれば既遂罪の故意が認められるとするのが判例・通説である。この場合の故意をウェーバーの概括的故意という。


違法性に関する事実の錯誤(違法性阻却事由の錯誤:誤想防衛、誤想避難)

違法性に関する事実の錯誤ないし違法性阻却事由の錯誤とは、その名の通り、自分の行為には違法性阻却事由があるため違法ではないと勘違いしていた場合をいう。

違法性阻却事由とは、通常なら違法とされる行為でもこれを備えていれば例外的に違法とはされず、犯罪として処罰されないという条件のことをいう。典型的には正当防衛緊急避難のことである。つまり、ある人を殴ってもそれが自分の生命を守るためにされた正当防衛であるならば暴行罪は成立しない、という場合の正当防衛が違法性阻却事由にあたる。この違法性阻却事由がないのにあると勘違いして行動した場合が違法性阻却事由の錯誤であるが、これを事実の錯誤と考えるのか、違法性の錯誤と考えるのかについては争いがある。まずはこれが問題となる事例を挙げる。

Aが道を歩いていたところ、向かいから歩いてくるBが突然手を振り上げた。Aは襲われたと思って反撃し、Bの顔面を殴りつけた。しかしBはたまたまAの後ろを歩いていた友人に手を振っただけで、Aが襲われたわけではなかった。

Aの行為は暴行罪の構成要件にあてはまる。事実BがAに襲いかかってきたのだとしたら、その行為は自己を守るための正当防衛であり、違法性が阻却され、犯罪は成立しない。しかし現実には正当防衛になるような状況がなかった(正当防衛を規定した刑法36条1項にいう「急迫不正の侵害」がなかった)のであるから正当防衛にはなり得ないと解するのが一般である(藤木説、川端説、井田説のように行為無価値一元論の立場から正当防衛とする見解もある)。ただAが正当防衛の要件があるという誤った想像をしていただけなのである。これを誤想防衛といい、違法性阻却事由の錯誤における典型例である。

事実の錯誤説
誤想防衛では自分の行為が違法であると認識するための事実について勘違いがある。上記の例でいけば正当防衛の要件である「急迫不正の侵害」という事実があると誤認している。これは違法性に関する事実の錯誤であって前述した事実の錯誤にほかならず、違法性はあるが故意を阻却し、犯罪は成立しないと考えるのが通説である。ただしここでいう故意とは責任の段階における故意(責任故意)であり、ここでいわれる錯誤も構成要件に関する事実の錯誤で展開された複雑な錯誤論とは異なる単純なものである。つまり、責任故意においては違法性に関する事実の表象が要件とされ、違法性に関する事実の錯誤がある場合にはこの要件が欠けるため責任故意が阻却されるにすぎない。

違法性の錯誤説
これに対して、誤想防衛においては構成要件的事実の認識はあり、ただ単に自己の行為が違法であるかどうかという評価を誤っただけなのであるから違法性の錯誤(法律の錯誤)の問題であると考える立場もある。これは前述した厳格責任説を採る論者の立場から主張されている。厳格責任説を採るこの論者は責任故意の概念を認めず、責任能力期待可能性の他には違法性の意識(の可能性)のみが責任要素を構成すると考えるので、故意といった場合には構成要件段階における故意(構成要件的故意)のみを指すとする。そして構成要件に該当する事実(殺人罪なら「人を殺す」ことであり、窃盗罪なら「他人の物を盗む」ということ)を認識している以上構成要件的故意が認められ、責任段階での責任故意を否定するので、違法性阻却事由に関する事実の錯誤は故意を阻却せず、違法性の錯誤の問題にすぎないという結論になる。

誤想防衛には3つのパターンがある。
「急迫不正の侵害」がないのにあると思い込み、相当な手段で反撃した場合。

「急迫不正の侵害」がないのにあると思い込み、相当な手段で反撃したと思ったが実は過剰な手段であった場合。(有名な「勘違い騎士道事件」がこれに該当する)

「急迫不正の侵害」がないのにあると思い込み、過剰な手段で反撃した場合。

これを具体的に考えると、以下のようになる。
木の杖で襲われたと思い込み、その場にあった木の棒をとっさにつかんで反撃した。

木の杖で襲われたと思い込み、その場にあった木の棒をとっさにつかんで反撃したつもりだったが、実際につかんだのは斧だった。

木の杖で襲われたと思い込み、その場にあった斧を斧であると承知した上で反撃した。

1は誤想防衛、2と3は誤想過剰防衛と呼ばれ、特に2は「急迫不正の侵害があった」ということと「反撃手段が相当である」ということの二つについて事実誤認があるため二重の誤想防衛と呼ばれる。 誤想過剰防衛については、結論としては、過剰性について認識があった場合には過剰防衛とし、過剰性について認識がなかった場合には誤想防衛とする説が有力である。


法律の錯誤(違法性の錯誤)

違法性の錯誤とは、発生した違法な事実については認識があり認識通りの結果が発生しているが、自分の行為は「違法ではない」と思い込んでいた場合である。これには法の不知と当てはめの錯誤という二つの類型がある。以下、具体例を挙げて説明する。

法の不知
大麻を所持することが一定の条件の下において合法とされている国に育ったAが、出身国で合法的に大麻を入手し、それを持ったまま日本へ入国した。Aは日本において大麻を所持することが処罰の対象になるということを知らなかった。Aは大麻の所持を禁止する法律の存在それ自体を知らなかった。これが法の不知による違法性の錯誤である。

当てはめの錯誤
Aは自転車を盗まれて悲嘆にくれていたところ、数日後に自分の自転車がBの家のガレージにおいてあるのを発見した。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki