被曝
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生物学的半減期

体内に取り込まれた放射性物質は、それ自身の放射物理学的に原子核崩壊して減っていくのとは別に、生物学的な作用により、排泄されるなどして体外に排出されることで減っていく。いずれのメカニズムも、体内にあるその物質の量に対し一定の割合が 減少していくので、その減り方は指数関数的であり、一定の時間ごとに半分に減っていく。原子核崩壊によって半分に減る時間を物理学的半減期(または単に半減期)、生物学的な排出によって半分に減る時間を生物学的半減期という。

両方を合わせた実効半減期は、以下の式で計算される。


預託実効線量

体内に入った放射性物質が生物学的半減期により減っていくことを織り込み、50年間の被曝線量を積算したものが預託実効線量である。内部被曝による被曝は長期にわたるため、生涯の健康リスクを評価するには預託実効線量を用いる。


被曝の影響


確定的影響

アルファ線ガンマ線のような電離放射線を水に照射すると、電離作用によりラジカル過酸化水素やイオン対等が発生する。ラジカルは激しい化学反応を起こす性質を持つ。人体の細胞中の水にラジカルが生じると、細胞中のDNA分子と化学反応を起こし、遺伝情報を損傷する。DNAはある程度の損傷に対しては自己修復する機能が備わっているが、損傷が修復できる限度を越えると、細胞分裂不全となり自死してしまう。こうして細胞が必要なときに補充されないと、放射線障害としての症状が現れるのである。

また細胞分裂の周期が短い細胞ほど、放射線の影響を受けやすい(骨髄にある造血細胞、の内壁などがこれに当たる)。逆に細胞分裂が起こりにくい骨、筋肉、神経細胞は放射線の影響を受けにくい。

これ以下では健康への影響が現れない線量、しきい値があるのは、このDNAの自己修復機能があるためという考えもある。ただし、しきい値は専門家の間でもあるのかないのか、あるとすればどこなのかについては長年論争の的になっており、21世紀初頭現在も確定していない[2]

ある程度多量な放射線を浴びたときには皮膚粘膜障害や骨髄抑制(造血細胞が減少し白血球赤血球が減少すること)、脊髄障害は必発となる。また、線量が上がるごとに症状の重篤度が上がる。こうした性質を持つ放射線障害を総称して確定的影響と呼ぶ。


確率的影響

放射線障害の内、白血病突然変異の一種であり、上記の確定的影響とは異なるメカニズムで発生する(詳しくは悪性腫瘍を参照)。このため、明確なしきい値はなく、線量に比例して突然変異の確率が上がると考えられている。こうした性質を持つ放射線障害を総称して確率的影響と呼ぶ。

1990年のICRP勧告60号によると、放射線に起因する発がんの確率は被曝線量に対する二次式の形で増えると評価されている。線量が低いときには二次項は一次項よりずっと小さくなるので、実用上は一次式で表される(すなわち線量と発がんの確率は比例している)。その比例係数は0.05、すなわち被曝1シーベルトごとにがん発生の確率が5%あるとしている。なお、線量の大小とがんの重篤度の間には関係が無い[要出典]。

また、生殖細胞が突然変異を起こした場合は、遺伝的影響を起こす恐れがある。遺伝的影響にも重篤度はさまざまあるが、線量の大小と重篤度は関係が無く、発生確率が線量に比例している。

農作物を高い線量率の場に暴露する事により、突然変異を高い確率で発生させ、品種改良する試みがなされている。これも確率的影響を利用している。


直線しきい値無し仮説

広島、長崎の被爆者の追跡調査データから、200mSv以上の被曝については被曝線量と発ガンの確率が比例していることが分かっている。それ以下の領域については、50mSv以上の急性被曝については被曝線量と発ガンの増加が関連しているらしいことが知られているが、相関関係は明瞭でない。ある因子が健康に影響を与えているかどうかを検証するのは疫学の範疇であるが、放射線以外の理由によるガンが一定数ある中で、それより少ない数について影響があったのか無かったのかを疫学的・統計学的に確認することは極めて難しいためである。

原子力と放射線の利用を管理する上では、保守的な側(最も慎重な立場)を採用するという考え方から、疫学的に実証が難しい極めて低い線量についても線量と確率的影響の確率は比例すると考えるのが直線しきい値なし(LNT)モデルと呼ばれる仮説である。LNTモデルはICRP勧告第26号(1977年)において、人間の健康を護る為に放射線を管理するには最も合理的なモデルとして採用された。なお、各国の国内規制もICRPの勧告に準じていることが多い。

この勧告では、個人の被曝線量は、確定的影響については発生しない程度、確率的影響についてはLNTモデルで計算したリスクが受容可能なレベルを越えてはならず、かつ合理的に達成可能な限り低く(as low as reasonably achievable, ALARA)管理するべきであり、同時に、被曝はその導入が正味の利益を生むものでなければならないことを定めている。

しかし、この仮説を墨守することに対しては批判もある[3]。「これ以下なら確率的影響の確率が全く増加しないというしきい値を持たない」、というこの仮説の特性は、原子力と放射線の利用に反対するグループの宣伝材料として利用された。この結果、原子力と放射線のパブリックアクセプタンスを遅滞させたばかりか、医療の上で必要な放射線利用に対しても患者が恐怖感を抱きあるいは拒否するという事態も発生し、医療の現場に混乱が生じた[要出典]。また、チェルノブイリの事故の際には、殆ど考慮の必要が無いとの意見もある極微量の実効線量の増加であるにも関わらず、妊娠中の胎児を中絶してしまう者が続出するなど[4]、放射線に関する知識を持たない人々を、必要以上に怖れさせる結果を招いているとの批判もある。

一方、逆の立場からの批判もある。欧州緑の党が設立した欧州放射線リスク委員会 (ECRR) は2003年勧告の中で、セラフィールド再処理施設の小児白血病の発生率がICRPの基準からの予測値より100倍以上多いと報告している。その上で現在のLNT仮説は内部被曝や低線量の被曝を過小評価しているため、放射線防護基準はICRPの基準より少なくとも10倍厳しくするべきだと主張している[5]


集団積算線量

直線しきい値無し仮説を敷衍すると、大集団が微小な放射線量に被曝した場合も、小人数が多めの放射線量に被曝した場合も、どちらも発生する健康被害は変わらないという結論になる。その為、例えば、100ミリシーベルト(一般公衆の年間線量限度の100倍)を200人が被曝する場合と、1マイクロシーベルトを2000万人が被曝する場合では、各個人の受ける被害が異なるが、全体では癌死する人数が同じになると評価される(これは科学的に実証されているわけではなく、現在では仮説の一つであることに注意)。このとき、被ばく線量の分布を積分したものが、集団積算線量であり、単位は人・Svである。2つの例では、いずれも集団積算線量は20[人・Sv]になり、ICRP勧告60の比例係数0.05を用いると1人が癌になる被曝である。

原子力施設を設計するに当たっては、仮想的な過酷事故時の集団積算線量が受容可能なレベルを超えてはならないことが定められている。

直線しきい値無し仮説は保守的評価(リスクを多めに見積もる手法)であるため、実際に発生した原子力事故の集団積算線量から健康被害を計算すると、直線しきい値無し仮説によって算出されたリスクは、実際のリスクよりも過大になるとする説もある。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki