アントワーヌ・バラールは1826年にフランス学士院へ臭素発見に関する論文を提出している。フランスモンペリエにおいて、海水と塩素の反応によって発見された。バラールは後述するムラサキガイの名称 murex から、新元素の名称として muride を提案した。しかし、フランス学士院は muride ではなく、ギリシャ語の悪臭 (bromos) に基づく bromine に決定した。なお、ドイツのカール・レーヴィヒは1825年に鉱泉から新元素を発見していたのだが、論文を提出する前にバラールの論文が発表されてしまった。
20世紀初頭、ドイツでは海水から臭素を得ていた。プールに導き入れた海水を塩素で酸化して、わずかに生じる臭素をアニリンと反応させて得られる2,4,6-トリブロモフェノール(フェノールに臭素原子が3つ置換したもの)の沈殿を分解して臭素単体を得ていた。当時の価格は同質量の金より高価であったという。米国においては、ダウ・ケミカル創業者のハーバート・ダウが開発した電気分解法を鹹水鉱床に用いることで、臭素生産が始まった。後に海水にもダウの手法が適用された。
精神的な興奮状態、性欲を鎮める作用があるため、19世紀においては興奮性の精神病の治療薬、鎮静剤、性欲抑制剤として臭化カリウムなどの臭化物を用いた。ただし、毒性があるため、現在ではほとんど用いない。
後にイスラエルの死海周辺の井戸から産する臭化マグネシウム水溶液から得られるようになった。臭素の価格は中東和平が達成されると下がり、軍事的緊張が続くと高騰していた。そののちアメリカのアーカンソー州ユニオンカウンティの地下水から得られるようになり、現在ではこちらが最大の産出地である。
工業的には臭化物イオンを含む水溶液を酸性条件下で塩素を吹き込み、酸化された臭素単体を蒸留精製する。臭素は海水中には65ppm (0.0065%) 含まれ、推定資源量は100兆トン存在し、多くの国で海水を原料として臭素を生産している。一方、死海あるいは臭素の含有量が高い鉱水が知られており、合衆国やイスラエルなどの国では鉱水や死海の水を原料にして同様に塩素で酸化して臭素は生産される。
米国地質調査所の2005年版統計[1]によると、全世界の臭素の生産量は約590,000トンである。その内訳は、1位の合衆国が222,000トン、2位のイスラエルが206,000トンであった。国連統計局の2002年度統計[2]によると、輸出量はリサイクルされたものも含めて1位のイスラエルが94,141,000ドル、2位のベルギーが34,412,092ドルであった。
2002年輸出金額(ドル)2002年生産量(トン)
合衆国16,820,987225,000
イスラエル94,141,000206,000
中国-40,000
英国15,922,61350,000
日本国-20,000
ベルギー34,412,092-
オランダ19,297,583-
その他13,877,1649,000
計194,471,439550,000
ムラサキガイ Murex Brandaris が分泌する無色の液体が空気中で酸化すると、紫色(皇帝紫)の成分である6,6'-ジブロモインジゴが得られる。この貝は現在のレバノン沿岸ティルスに産したため、染料はチリアンパープル (Tyrrian purple) とも呼ばれた。19世紀にアニリン染料(モーブなど)が開発されるまでは、もっとも優れた紫色の染料として用いられていた。
工業的には、有鉛ガソリンの添加剤であるジブロモエタン、消火に用いる CBrClF2, CBrF3 などのハロン、土壌燻蒸剤の臭化メチルが主な用途であった。しかしながらいずれも環境に与える影響が大きいとされ、生産・消費量は減少している。航空機、新幹線車両などの内装材にも用いられ、難燃剤として優れるポリ臭素化ジフェニルエーテルはそのほかの主な用途である。
写真の感光材として、臭素の化合物臭化銀 (silver bromide) が用いられている。このため、印画紙のことを英語では bromide paper と呼ぶ。これが転じてアイドル等の写真であるプロマイドの語源となった。
臭素の化合物ウィキメディア・コモンズには、 ⇒臭素 に関連するマルチメディアがあります。ウィクショナリーに ⇒臭素の項目があります。
詳細はCategory:臭素の化合物を参照。
臭化カリウム KBr
臭化銀 AgBr ? 写真の感光材料
臭化水素 HBr
臭化マグネシウム MgBr2
詳細はCategory:有機ハロゲン化合物を参照。
ブロモホルム CHBr3
四臭化炭素 CBr4
臭素系ダイオキシン類
N-ブロモスクシンイミド (NBS)
臭素のオキソ酸は慣用名を持つ。次にそれらを挙げる。
オキソ酸の名称化学式
(酸化数)オキソ酸塩の名称備考
次亜臭素酸
(hypobromous acid)HBrO
(+I)次亜臭素酸塩
( - hypobromite)
亜臭素酸
(bromous acid)HBrO2
(+III)亜臭素酸塩
( - bromite)
臭素酸
(bromic acid)HBrO3
(+V)臭素酸塩
( - bromate)臭素酸塩は危険物第1類。
過臭素酸
(perbromic acid)HBrO4
(+VII)過臭素酸塩
( - perbromate)
オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。
脚注^ ⇒http://minerals.usgs.gov/minerals/ Mineral Commodity Summaries