自傷行為
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背景となる疾患がどのようなものであるか(一例として境界性人格障害統合失調症知的障害などが挙げられる)によっても治療方針は全く異なってくるので患者本人および家族に自傷行為についての誤解を解いてもらうことなど、その評価が非常に重要である。

脳の器質的障害が原因とされる発達障害の一種の自閉症にも自傷と呼ばれる行動障害があり、自分の手を噛む、壁や床に頭を打ち付ける、自分の顔を叩くなどの行動が見られることがある。


用語の歴史

PattisonとKahan(1983)がDeliberate self-harm syndrome(故意に自分の健康を害する症候群)という概念を提唱し、その3徴候として、「薬物の乱用または依存」、「自傷」、「食行動異常」を挙げた。女性では摂食障害の60〜70%に自傷行為を、また男性では薬物乱用の50%以上に自傷行為を伴うとされており、共通の病理、または共通の行動化要素としての関連が考えられる。タトゥーボディピアスなどの「身体改造」も広義では自傷行為に含まれると考えられているが、社会的、文化的側面もあるため簡単には断言できない。

欧米では長らくself-mutilationという語が使われていたが、mutilation(切断すること)だけが自傷行為ではないことが認識されるに従い、現在ではself-injuryという語に置き換わりつつあるようである。


自傷行為と自殺企図の区別

自傷と自殺については厳密に区別されなければいけない。それどころか、自傷行為を「自殺行為」と誤解することは治療の妨げとなる(Lineham,1993a)とされている。Walsh(2005)は、自傷行為と自殺企図の区別について9つの項目で区別をすることを提唱している。

9項目による自傷行為と自殺企図との区別番号項目自傷行為自殺企図
1行為そのもので期待されるものどうにもならない感情の救済(緊張、怒り、空虚感、生気のなさ)。痛みから逃れること。意識を永久に終わらせること。
2身体的ダメージレベル、および潜在的に行為が死に至る確率身体的にはあまり強くないことが多い。致死率はあまり高くない方法を好む。深刻な身体ダメージを及ぼすことが多い。致死率が非常に高い方法を好む。
3慢性的、反復的であるかどうか非常に反復的である。反復的なことは少ない。
4今までにどの程度の種類の行為を行ってきたか2つ以上の種類の方法を繰り返し行う。主に1つの方法を選ぶことが多い。
5心理的な痛みの種類不快感、居心地の悪さが間欠的に襲ってくる。堪えられない感情が永続的に続く。
6決意の強さもともと自殺するつもりは強くないのでそれほど強くはない。他の選択肢を考えることもできる。一時的な解決を図ろうとして行ってしまうことが多い。決意が並外れて強い。自殺することが唯一の救いとしか思えない。視野が狭い。
7絶望、無力な感じがどの程度あるか前向きに考えられる瞬間と、自分をコントロールする感覚を少しは保っている。絶望、無力感が中心で、一瞬であってもその感情を外すことができない。
8実行することで不快な感情は減少したか短期的には回復する。間違った考え方も感情も行為そのものによっておさまる。「意識の変化」を起こす。まったく回復しない。むしろ自殺がうまくいかなかったことによってさらに救いがもてなくなる。即時の治療介入が必要。
9中心となる問題は何であるか疎外感。特に社会の中での自らのボディ・イメージ(アイデンティティにもつながる)が築けていないこと。うつ。逃れられない、堪えられない痛みに対する激しい怒り。

注意:以降の文章には自傷行為者の詳細な心理描写も含まれています。場合によっては読んでいるだけでフラッシュバックを起こし自傷行為に至る可能性があるので注意して下さい。


自傷行為の様相


世界的な自傷行為の様相

推測ではあるが、リストカッターの少なくとも半数が性的虐待の被害者であるともいわれる。リストカットは1960年代に主としてアメリカの女性に見られ、社会問題となった。自傷行為経験者は若い未婚の女性に多く、男性にも一定数存在する。常習性が高く、周囲の理解も得られにくいために長期間苦しむことも多い。カナダ放送協会(CBC)が500人のスクールカウンセラーに過去1年間に診た自傷者数を尋ねてみたところ、各校に2〜3人いるという回答結果が得られ、非公式な調査結果ではあったが、その発症率は女子250人に1人とされた。

また、近年は更なる発生率が示されており、英国のオックスフォード地区、ノーザンプトン地区、バーミンガムの学校41校の6000人の15歳と16歳の生徒を対象に2000年と2001年に行われた大規模な研究によれば調査が行われた年の前年に自傷行為をしたと報告したのは少女が11%、少年は3%であったという。スラッシュ(切り付け行為)(65%)が自己虐待の方法としてもっとも多く、過剰行為(31%)がそれに次いだ[1]

欧米の研究者によると大体6割程度に親からの虐待の事実が認められるとされるが、残り4割には認められない。


日本での自傷行為の様相

日本において自傷行為に関する研究は極めて遅れている。本項目でも日本における調査を参考までに多く取り上げているが、これらの調査に対して自傷症患者を取材してきた記者からは「そもそも自傷行為の定義がはっきりしていない」とか「本当に注目しなければならないのは中毒症状になってしまった場合であるのにその辺りが曖昧である」といった疑問が投げかけられており、調査は大まかな指針にはなっても実際には実態を表していない可能性が強いとされている。

日本での自傷行為は、欧米からの症例が紹介された1970年代頃から把握されだした。日本では、精神分析や精神関連の用語の普及と共に実際の症例が増す傾向がある。奈良教育大学の調査によると1999年頃から統計上は急激に増加したとされる。ただし、把握されていななかっただけの可能性もあり議論は慎重を要する。

自傷行為には伝染性があるとされ、インターネット上での自傷関連サイトとの影響も指摘された。2月6日の毎日新聞夕刊によると、2005年の首都圏のある公立中学校では、3年生の数人がリストカットをし始めたが、その後急激に増加し、200人足らずの3学年の中で学校が把握しているだけでも20人を超えたという。医師なども人間関係が苦手な場合、仲間意識を感じようと自傷行為をしてしまう事もあるようだという話をすることがある。

全国高等学校PTA連合会が、(独)福祉医療機構(子育て支援基金)の助成で、2003年度から3か年計画で実施している「高校生の心身の健康を育む家庭教育の充実事業」の第3年次の調査によると、高校2年生5755人からの回答を、木原雅子京都大学大学院助教授が集計・分析を担当した結果、自傷行為の経験があるのは男子5.3%、女子10%だった。また、同調査では「出会い系サイト」は男子3.9%、女子5.8%、「援助交際」は男子1.1%、女子1.5%が経験していると回答している[2]


自傷行為の経過


初期の症状

リストカットを含む自傷行為が始まるのは精神的に最も不安定であった時期より数年遅れることが多く、若ければ10歳前後から始まる。酒や薬などを用いて始めることもあるが、多くの場合は自然に発症する。当初の感覚は強い憤り、不安パニックなどである。前兆として、その感情を抑えようと物を投げたり壊したりすることもある。

当初は周囲に対する恥辱感から傷口を隠すことが多い。通常は腕時計リストバンド、長袖などで傷口を隠す。小学生など、年齢が若い場合は自傷行為についての知識がさほどないためか、刃物以外で自傷行為をすることが多い。


常習化

自傷行為をすることによって、一時的に当初の精神的な苦痛は緩和される。しかし、それは自分を傷つけた直後だけなので、止めたいと思っていたとしても、また新たな精神的苦痛を負うことによって何度も繰り返してしまい、常習化するケースがほとんどである。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki