機械式の腕時計には振り子の代用をするテンプが仕込まれており、その振動数が高ければ高いほど時計の精度は上がる。並級腕時計のテンプは振動数が4?6回/秒のロービートだが、高精度型腕時計では8?10回/秒の多振動となっており、ハイビートとも呼ばれる。現代の機械式時計のうち、スイス製の多くはハイビートであり、また日本製でも上級品はハイビートが多い。ただし、ハイビート仕様とすると部材の疲労や摩耗が早まり、耐久性ではやや不利である。
電池エネルギーで作動する腕時計は、アメリカのハミルトンが開発し、1957年に発売したのが最初である。これは超小型モーターで駆動する方式で、調速の最終段階には機械式同様にテンプを使っていたが、電源をトランジスタで整流して駆動力の安定を図っていた。ボタン状の小型電池を使う手法は、以後の電池式腕時計に踏襲されている。
1960年にはやはりアメリカのブローバが音叉式腕時計「アキュトロン」を開発した。超小型の音叉2個を時計に装備して、電池動力で一定サイクルの振動を得る。この振動を直接の動力に、ラッチを介して分針時針を駆動するものである。振動サイクルは毎秒360回と、クォーツ腕時計以前では最高水準の精度であったが、ブローバが技術公開やムーブメント供給に積極的でなかったこともあり、クォーツショック以降は速やかに廃れた。
1969年、セイコーは世界初のクォーツ腕時計(水晶発振式腕時計)「アストロン」を発売する。当時の定価は45万円と、大衆車よりも高価であった。
水晶は電圧をかけると一定サイクルで振動する(水晶振動子を参照)。水晶発振器の信号を15回分周して1秒間に1回の信号に変換し、この信号をステッピングモーターに与えることで、1秒ごとに秒針を回している。この原理自体は第二次世界大戦以前に着想され、大型置時計は天文台等で使用するために古くから存在していたが、腕時計に使えるサイズに超小型化したのはセイコー技術陣の努力によるものであった。
それ以前の機械式や電池式の腕時計は、秒針が連続して滑らかに動くスウィープ運針だったが、クォーツ時計では省電力のために、秒針が1秒刻みで動くステップ運針となり、容易に見分けられる。
クォーツ腕時計は通常、発振周波数を32.768kHz(=215)に調整された水晶を使用する(この周波数が計時設定上使いやすいためで、それ以外の数値に設定される例もある)。振動数の高さは圧倒的で、機械式はおろかブローバの音叉式「アキュトロン」をも遙かに凌ぐ高精度を実現した。
機械式やそれ以前の各種電池式に比べ圧倒的に誤差が少ないことからクォーツ腕時計は1970年代に市場を席巻した。その結果スイスなどの高級機械式腕時計ブランドは壊滅的な打撃を受け、20世紀半ばまで全盛を誇ったアメリカの時計メーカーはほぼ全滅した。これを「クォーツショック」と言う。
もっとも、スイスのメーカーもクォーツの開発には余念がなく、セイコーの「アストロン」はタッチの差で登場したものであった。むしろ、スイスの時計メーカーにとってさらに深刻だったのは、オイルショックとドルショックであった。1973年のオイルショックによる生産コストのアップと国際為替の変動相場制への移行によるスイス・フラン高が、スイス時計の国際競争力を奪っていった。そこへ、日本製クォーツ時計がスイスでは不可能なほどに低価格化を推し進めていったのである。日本製クォーツの登場のみならず、この複合的な要因こそがスイス時計没落の真因であろう。
その後、アラーム機能、ストップウォッチ機能など、腕時計の高機能化が進む一方、クォーツ腕時計の低価格化が進み、かつては高級品であった腕時計が、子供でも小遣い銭で買うことのできるような身近な商品へと変貌した。
同時期の1970年、アメリカのハミルトンより世界初のデジタル腕時計が発売される。この腕時計ではLEDを用いて時刻を表示した。デジタル腕時計は当初は極めて高価なものであったが、液晶表示の導入と可動部品皆無な構造で大量生産に適するようになり、低価格化が促進された。現代では一般にアナログ式より廉価な存在となっている。
1980年代に入ると、スイス製の高級機械式腕時計が徐々に人気を取り戻してきた。精度ではクォーツに劣るものの、熟練工によって作り上げられた、いわば血が通った技術とも言うべきものが再評価され始めたのである。
この時代、欧州での機械式ムーブメント製造の事情は大きく変わった。クォーツ時計登場以降、機械式時計のメーカーやムーブメント製造を行う専門メーカーの再編と淘汰が進み、現在ではスイスのETAが、ヨーロッパの機械式腕時計業界へのムーブメント供給で大きなシェアを占めるようになった。その過程ではコストカットのため、各パーツの生産・加工において大規模に自動化設備が導入されている。
このため、現状では高級品と並級品とが同型のETAムーブメントを用いているケースも珍しくなくなったが、自動化生産が進んだといえども機械式ムーブメントは最終的に人の手によって組立せざるを得ない。組立(ケーシング)技術・仕上げの技術にはメーカー間の姿勢、熱意、技術等に差があり、同じETAムーブメントでもブランドによっては精度・仕上げに差が出る事も多い。
無論ETAムーブメントに頼らず自社開発・製造を行っているメーカーも残っている。一部の特殊なパーツを除きムーブメントの製造から組み立て、仕上げまでを一貫して行うメーカーをマニュファクチュールと呼んで特別視する。
このようにして、手軽かつ高機能なクォーツ時計と、高級な工芸品・嗜好品の機械式時計という位置づけで棲み分けがなされるようになった。
スイス製の機械式腕時計が右肩上がりの成長を始めるのと同時に、日本製のクォーツ式腕時計の業績が急激に悪化した。安価な人件費を武器にしたアジア製のクォーツ時計との価格競争に敗れ、大幅にシェアを失ったのである。また、かつては世界的に認められていた機械式時計技術のノウハウも特に人的財産の面で1970年代以降失われてしまっていた。皮肉なことに日本メーカーは自らが生み出したクォーツ技術に足をすくわれたのである。
時計製造を専門としない無名のアッセンブリーメーカーが、アジア製の廉価なクォーツムーブメントをやはり廉価なケースに収め、実売1000円-3000円程度の格安価格で流通させる事例は、1980年代以降の日本でも一般化した。この種の無名な廉価時計は中国などで組み立てられるものが多く、外観こそ粗末だが実用上支障ない精度と必要十分な防水性を備えているため、世界的にも底辺の量販価格帯を席巻している。
日本メーカーは復権をかけ、高級機械式腕時計として1960年代に名声を博した「グランドセイコー」、「キングセイコー」を復活させるなど、機械式腕時計の開発に再度力を入れるようになってきた。
また、日本メーカーは最新の技術を導入した新しいタイプの腕時計も投入している。セイコーの「キネティック」は自動巻き時計と同様にローターを内蔵し、腕の振りによって発電を行う、電池交換不要のクォーツ腕時計である。装着していない時には省電力のため針の動きが自動的に停止し、再び装着され振動が与えられるとそれを感知して自動的に現在時刻に復帰するオートリレー機能を組み込んだ「キネティックオートリレー」、小の月だけでなくうるう年においても正しい日付を示すパーペチュアルカレンダーの「キネティックパーペチュアル」、手巻き充電にも対応し、パワーリザーブ表示機能を持つ「キネティック・ダイレクトドライブ」もある。新コンセプトの腕時計「スペクトラム」の発売も注目されている。近年、セイコーは機械式ムーブメントに、テンプの代わりにクォーツの調速機構を組み込みクォーツ時計並みの高精度を実現した「スプリングドライブ」を開発している。
一方シチズンの「エコ・ドライブ」は光発電によって駆動する。また珍しいものに、外気温と装着者の体温の差を動力源にするものがある(Citizen Eco-Drive Thermo)。
標準電波を受信することにより、時刻を自動的に補正する電波式腕時計も発売され、2000年代に入ってから売れ行きを伸ばしている。電波時計は、基本的にはクォーツで時を刻むが、一日に数回、原子時計で管理された標準電波を送信局から受け取り、自動的に正しい時刻に修正するため、電波を受信できる環境にあれば誤差が蓄積せずいつまでも正しい時を刻むことができる。
またカシオは、腕時計は床に落とせばたやすく壊れる、という常識に反し、2?3階から落としても壊れないという耐衝撃性能を備えたタフな腕時計、G-SHOCK(Gショック)を1983年から発売した。