病変の位置によっては食道や十二指腸を合併切除する必要もある。
幽門側胃切除
本項では胃癌に対し開腹で行われる根治的手術を例に挙げて説明する。
手術は全身麻酔下で行われる。術後鎮痛のために硬膜外麻酔を併用することもできる。
全身麻酔導入後皮膚切開を加え開腹する。
腹水や腹腔内の洗浄液を採取し病理検査に出す。目に見える転移巣以外にも癌細胞が浮遊していないか顕微鏡で確かめるためである(細胞診)。もし腹水細胞診が陽性(癌細胞が発見された場合)であれば腹腔内播種があることを意味し、根治的な手術は望めない。
腹腔内臓器、腹壁、大網、腸間膜に転移巣がないか確かめる。
胃癌の原発巣を検索し切除範囲を決定する。
胃に血液を供給する動脈と、胃から血液が流れ込む静脈を切除範囲にあわせて結紮処理する。同様に大網も切除する。胃の周囲にはリンパ節が多数存在しリンパ行性転移を起こしている可能性がある。そのため周囲のリンパ節も摘出しこれも病理検査に出す(リンパ節郭清)。
胃本体を切断する。切断と縫合を同時に行える器械(自動吻合器)を使用することが多い。通常胃を切除するためには口側と肛門側の2回この作業が必要である。
摘出された胃を開き、原発巣から切除断端まで充分な距離があるかどうか確認する。また切除した胃の組織は顕微鏡で断端に腫瘍細胞の浸潤がないか検査する。不十分であった場合追加切除が必要となる。
周辺臓器が切除・摘出されることもある。摘出対象となるのは胆嚢、脾臓、膵臓が多く、結腸や肝臓も含まれる。
消化管の再建を行う。再建の方法については後述する。
腹腔内を洗浄し止血を確認して排液用のドレナージチューブ(ドレーン)を留置し閉腹する。
患者を全身麻酔より覚醒させる。
手術室を退室する。
古典的にはBillroth I法(ビルロートまたはビルロース いっぽう)およびII法(-にほう)が用いられてきた。これは幽門側胃切除を行った後の再建方式で、ビルロート I法では残胃と十二指腸を直接吻合する。残胃が十二指腸に届かない場合II法が用いられる。これは残胃と空腸を端側吻合するものである。
胃を大きく切除すると残った消化管を単純に引き寄せてくることができなくなってしまう。これは十二指腸が靭帯で腹腔内に固定されているからである。このようなときには代わりに空腸を引き寄せてくる。Roux-en-Y法(ルー・ワイ[1] ほう)や空腸間置法、double tract法(ダブル トラクト ほう)がそれである。 また、小胃症状(後述)を改善するために空腸を袋状に形成し胃の機能を一部持たせようとする試みがなされている。空腸パウチ法(空腸嚢法)と呼ぶが手術手技が煩雑になり手術時間が延びることや熟練を要すること、従ってすべての施設で行われているわけではないことが欠点である。
再建方法によって術後障害の発生率が異なるとされている。これについては後述する。
胃全摘後のダブルトラクト法による再建
入院期間の短縮、手術後の生活の質(QOL)向上を目指し縮小手術が取り入れられる傾向にある。 幽門輪温存手術 (pylorus preserving gastrectomy) などである。
腹腔鏡や胃内視鏡を利用した手術も行われている。とくに、リンパ節郭清を要しない場合有効な選択肢となる。
手術自体は部分切除の場合3?4時間だが切除範囲、リンパ節郭清の程度や再建の方式により前後する。また癒着により所要時間が伸びる場合もある。リンパ節郭清を要しない手術の場合短くなる。 手術の前後に麻酔の導入と覚醒をするためさらに1時間程度を要する。 出血量は部分切除で200ml程度、全摘出で600ml程度で輸血の必要はほとんどない、もしくは自己血輸血が行われるが、合併症や原疾患によっては増加する。例えば腹部の外傷や癌や潰瘍などの病変部から出血があり術前から貧血を伴っている場合は、手術中または術後に輸血が行われることがある。
術後早期に問題となるのが縫合不全、吻合部狭窄である。手術中に膵臓の周囲を操作するため、目に見える範囲で損傷がなくても膵臓から消化酵素を含む膵液が漏れだし、膵液漏という状態になることがある。これらは術後2週間ぐらいが目安である。長期的に見ると内臓(おもに小腸)が癒着し癒着性イレウス(腸閉塞)を引き起こす可能性もある。
これに加えて一般的な開腹手術と麻酔の危険性が伴う。
消化管手術であるため、吻合部からの食物の漏出が起こらないように注意する。術後数日は絶食とし、末梢静脈からの点滴で栄養を補給する。術後5日程度で消化管造影X線写真を撮影し、吻合部よりの漏れがないことを確認しペースト状の粥から経口摂取を開始する。問題がないようであれば粥の固形物の割合を多くしていき徐々に普通食に戻していく。吻合箇所が多い術式の場合はさらに時間がかかる。吻合部は手術前より狭くなっているため食が進まないと訴える患者も多い。
ドレナージチューブは術後7日から10日程度留置するが排液が多い場合や汚染が見られた場合は期間が延長される。抜糸は創傷治癒のはやさにもよるが術後7日頃に行う。
痛みは点滴より鎮痛薬を静脈投与することで鎮痛を行う。硬膜外麻酔を併用した場合術後3日間程度硬膜外カテーテルから鎮痛薬を投与する。
胃の機能が失われることにより起こるさまざまな障害が胃切除後症候群として知られている。体調変化が劇的で、驚く患者も少なくない。これには単純に胃の大きさが小さくなる(「小胃症状」と呼ぶ)こととそれに伴う機能の低下のみならず、迷走神経切除や内分泌機能の低下による消化管の協調不全といった総合的な問題が介在していると考えられている。さらに切除後の再建法式による影響も報告されている。ビルロート II法、ルーワイ法では食物が十二指腸を通過せず、正常の通過経路とは異なってしまう。このため特に消化管ホルモンの分泌調節に異常をきたすという考え方である。
消化、吸収不良