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発生要因

「がんの発生機序」の項で述べたように、悪性腫瘍(がん)は、細胞のDNAの特定部位に幾重もの突然変異が積み重なって発生する。突然変異が生じるメカニズムは多様であり、全てが知られているわけではない。突然変異は、通常の細胞分裂に伴ってしばしば生じていることも知られており、偶発的に癌遺伝子の変異が起こることもありうる。それ以外に、発癌の確率(すなわち遺伝子の変異の確率)を高めるウイルス、化学物質、環境因子などの要因もいくつか明らかになっている。

しかし、DNA修復機構や細胞免疫など生体が持つ修復能力も同時に関与するので、水疱瘡が、水痘・帯状疱疹ウイルス (Varicella-zoster virus) の感染で起こるといったような1対1の因果関係は、癌においては示しにくいことが多い。

なお、発癌機構については発癌性の項に詳しい。


遺伝的原因

大部分のがんは偶発的であり、特定遺伝子の遺伝的な欠損や変異によるものではない。しかし遺伝的要素を持ちあわせる、いくつかのがん症候群が存在する。例えば、

女性のBRCA1遺伝子がもたらす、乳がんあるいは子宮がん

多発性内分泌腺腫( ⇒multiple endocrine neoplasia) - 遺伝子MEN types 1, 2a, 2bによる種々の内分泌腺の腫瘍

p53遺伝子の変異により発症するLi-Fraumeni症候群( ⇒Li-Fraumeni syndrome)、(骨肉腫、乳がん、軟組織肉腫、脳腫瘍など種々の腫瘍を起す)

(脳腫瘍や大腸ポリポーシスを起す)Turcot症候群( ⇒Turcot syndrome

若年期に大腸がんを発症する、APC遺伝子の変異が遺伝した家族性大腸腺腫症( ⇒Familial adenomatous polyposis

若年期に大腸がんを発症する、hMLH1, hMSH2, hMSH6などDNA修復遺伝子の変異が遺伝した遺伝性非腺腫性大腸がん(Hereditary nonpolyposis colorectal cancer)

幼少期に網膜内にがんを発生する、Rb遺伝子の変異が遺伝した網膜芽細胞腫( ⇒Retinoblastoma

若年期に高頻度に多発性多嚢胞腎を発症し、後に腎がんを発生する、VHL遺伝子の変異が遺伝したフォン・ヒッペル・リンドウ病( ⇒von hippel Lindau disease


病因微生物

一部の悪性腫瘍(がん)については、ウイルス細菌による感染が、その発生の重要な原因であることが判明している。現在、因果関係が疑われているものまで含めると以下の通り。

子宮頸部扁平上皮癌 - ヒトパピローマウイルス16型、18型(HPV-16, 18)

バーキットリンパ腫 - EBウイルス(EBV)

成人T細胞白血病 - ヒトTリンパ球好性ウイルス

肝細胞癌 - B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)

カポジ肉腫 - ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)

胃癌および胃MALTリンパ腫 - ヘリコバクター・ピロリ(疑い[2]

なお、癌に関与するウイルスは腫瘍ウイルスの項に詳しい。

これらの病原微生物によってがんが発生する機構はさまざまである。ヒトパピローマウイルスやEBウイルス、ヒトTリンパ球好性ウイルスなどの場合、ウイルスの持つウイルスがん遺伝子の働きによって、細胞の増殖が亢進したり、p53遺伝子やRB遺伝子の機能が抑制されることで細胞ががん化に向かう。肝炎ウイルスやヘリコバクター・ピロリでは、これらの微生物感染によって肝炎や胃炎などの炎症が頻発した結果、がんの発生リスクが増大すると考えられている。またレトロウイルスの遺伝子が正常な宿主細胞の遺伝子に組み込まれる過程で、宿主の持つがん抑制遺伝子が欠損することがあることも知られている。ただしこれらの病原微生物による感染も多段階発癌の1ステップであり、それ単独のみでは癌が発生するには至らないと考えられている。


環境と食事

喫煙と数多くの部位のがんとの間に強い相関があることが、数十年にわたる調査での一貫した結果によって明らかになっている。数百の疫学調査により、たばことがんとの関係が確認されている。アメリカ合衆国における肺がん死の比率とたばこ消費量の増加パターンは鏡写しのようであり、喫煙が増加すると肺がん死比率も劇的に増加し、近年喫煙傾向が減少に転じると、男性の肺がん死比率も減少している。日本の政府が日本たばこ産業の株の半数以上を保有しているため、喫煙規制や禁煙に関する動きが進みにくかったという指摘が渡邊昌によってなされており[3]、がんの死亡率の1位が肺がんとなっている。肺がんの発生率は喫煙と高い相関がある。食事は大腸がんの発生率と相関する。

米国国立がん研究所 ( ⇒National Cancer Institute) の公開資料によると、「食事の違いはがんの危険を決定づける役割を持っている。タバコ、紫外線、そしてアルコールは著明な関係が識別できるのに対して、食事の種類とがんに罹る危険性との関係づけを明らかにすることは困難がある。脂肪とカロリーの摂取制限はある種のがんの危険率を減少させる可能性のあるやり方であると明らかとなっている。(脂肪に富んだ)大量の肉と大量のカロリーを摂取する人々は、特に大腸がんにおいて、がんの危険が増大することが図より見て取れる。」と著している[4]

いわゆる「食生活の欧米化[5]」は、乳房や前立腺や大腸のがんとの関連が強いと考えられ[6]、実際に部位別の死亡率は増えている[1]

WHOとIARCによる、「生活習慣とがんの関連」についての報告がある[7]

生活習慣とがんの関連[7][8]
(WHO/IARC)関連の強さリスクを下げるもの(部位)リスクを上げるもの(部位)
確実身体活動(結腸)たばこ(口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、肺、膵臓、肝臓、腎臓、尿路、膀胱、子宮頸部、骨髄性白血病) 他人のたばこの煙(肺)過体重と肥満(食道<腺がん> 結腸、直腸、乳房<閉経後>、子宮体部、腎臓) 飲酒(口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房)、アフラトキシン(肝臓)、中国式塩蔵魚(鼻咽頭)
可能性大野菜・果物(口腔、食道、胃、結腸、直腸)身体活動(乳房)貯蔵肉(結腸、直腸)塩蔵品および食塩(胃) 熱い飲食物(口腔、咽頭、食道)
可能性あり データ不十分食物繊維 大豆 魚 N-3系脂肪酸 カロテノイド ビタミンB2, B6, 葉酸、B12, C, D, E カルシウム、亜鉛、セレン非栄養性植物機能成分(例:アリウム化合物、フラボノイド、イソフラボン、リグナン)動物性脂肪 ヘテロサイクリックアミン 多環芳香族炭化水素 ニトロソ化合物


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki