生物学
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還元主義と複雑系共生関係にあるクマノミイソギンチャク: 生物と環境が作り出す生態系は複雑である

20世紀半ばの分子生物学の台頭以降、その周辺分野では、一つの遺伝子・タンパク質の機能に注目する還元主義的なアプローチが主体だった。この手法は強力で、さまざまな生命現象を解き明かしてきた。しかし、分子レベルで明らかにしたことを組み合わせるだけでは、脳の活動や行動など複雑な現象は理解しがたく、還元主義のみでは限界があることもわかってきた。このことへの反省もあり、物理学的還元主義への傾倒から抜け出し、21世紀に入ってからは生物を複雑な系としてそのままあつかうオーミクスシステム生物学等のアプローチも盛んになっている。一方、生物多様性をあつかう伝統的な生物学や生態学では、生物の作りだす系が複雑であることは自明だったため、複雑系のような全体論は目新しいものではない。生物学の両輪である、生物の多様性と普遍性に関する知見は、ゲノム解析によって結びつけられつつある。


大きなパラダイムシフト

生物学のパラダイムを大きく変えたものには細胞の発見、進化の提唱、遺伝子の示唆、DNA の構造決定ゲノムプロジェクトの実現などがある。細胞の発見やゲノムプロジェクトは主に技術の進歩によってもたらされ、進化や遺伝子の発見は個人の深い洞察によるところが大きい。ボツリヌス菌: 顕微鏡は、微生物や細胞を見る「目」となった

17世紀に発明された顕微鏡による細胞の発見は、微生物の発見をはじめとして、動物植物がいずれも同じ構造単位から成っていることを認識させ、動物学植物学の上位分野として生物学を誕生させることになった。また自然発生説の否定によって、いかなる細胞も既存の細胞から生じることが示され、生命の起源という現在も未解明の大きな問題の提示につながっている。

進化はチャールズ・ダーウィンをはじめとする数人の博物学者によって19世紀に提唱された概念である。それまでは経験的にも宗教的にも、生物種は固定したものとされていたが、現在では、同じ種の中でも形質に多様性があり、生物の形質は変化するものとされ、種の区別が困難なものもあるという指摘がされている。単純な生物から多様化することで現在のような多様な生物が存在すると考えることが可能になり、生命の起源を研究可能なテーマとすることができるようになった。進化論は社会や思想にも大きな影響を与え、近代で最も大きなパラダイムシフトの1つだった。なお、俗に進化は進歩とよく混同されるが、進化の本質は多様化であり、より高等・複雑な状態への変化はその一面にすぎない。複製されるDNA: 二重らせんがほどけて複製されることは、遺伝の最も根源にある物理的現象である

遺伝自体は古くから経験的に知られていた現象である。しかし、19世紀後半、メンデルは交雑実験から遺伝の法則を発見し、世代を経た後にも分離可能な因子、すなわち遺伝子が存在することを証明した。さらに染色体が発見され、20世紀前半の遺伝学・細胞学による研究から、染色体が遺伝子の担体であることが確証づけられた(染色体説参照)。この過程において古典的な遺伝学が発展し、その後の分子生物学の誕生にもつながった。

1953年ジェームズ・ワトソンフランシス・クリックらが、X線回折の結果から、立体模型を用いた推論により遺伝物質 DNA二重らせん構造を明らかにした。DNA構造の解明は、分子生物学の構造学派にとって最大の成功である。相補的な2本の分子鎖が逆向きにらせん状構造をとっているというモデルは、染色体分配による遺伝のメカニズムを見事に説明しており、その後の分子生物学を爆発的に発展させた。

ゲノムという概念は、ある生物種における遺伝情報の総和として提唱された。ゲノム genome という語は遺伝子 gene と、総体を表す接尾語 -ome の合成語である。技術発展によりゲノムプロジェクトが可能になり、ゲノム研究は、生物学における還元論と全体論、普遍性と多様性を結びつける役割をもつようになった。生物種間でのゲノムの比較により普遍性と多様性理解への糸口を与え、還元的な研究に因子の有限性を与えることで、個々の研究を全体論の中で語ることを可能にした。他にも様々な総体に対する研究が始まっている(オーミクス参照)。


生物学の今後

生物学が自然史学の一部だった時代には、記載生物学が主体だった。現代生物学は、実験が主体になっている。さらに将来は、ゲノムやプロテオーム研究などで蓄積された膨大なデータをコンピュータで処理し、そこから生命の原理に迫る生物情報学が主体になるかもしれない。急激なコンピュータの高速化と並行して、実験や観察技術、新たな分析手法の発見など技術発展も進むだろう。

純粋生物学に残された大きなテーマには生命の起源、ヒトの精神心理地球外生命体などがある。すでに起きてしまった生命の起源や進化は、実験で再現できない。しかし、生物物理学的・生化学的に生命(細胞)の誕生を再現する試みがされていてる。いずれ人工生命が誕生し、生命誕生を解明する手がかりとなるだろう。

ヒトの精神や心理は、複雑すぎて生物学の範囲を超えている。しかし、脳科学研究などが進めば、いずれは精神も物理法則で説明できるようになり、心理学精神医学と生物学は、現在よりも密接な関係になるかもしれない。

地球以外に生命は存在するかという問題は、まだ生物学のテーマではないと、現在の多くの生物学者は考えている。しかし、火星やその他の惑星、衛星の探索が進み、生命やその痕跡が発見されれば、重要なテーマの一つとなるだろう。宇宙生物学も参照。

また、医学や農学などへの応用の重要性は今後も増加していくだろう。



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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Smilegreen