内部エネルギーのうち仕事として取り出すことのできる分として「自由エネルギー」(条件によってギブズエネルギーあるいはヘルムホルツエネルギーを用いる)が定義される。熱力学第一法則から、
「自発的変化は自由エネルギーが減少する方向へ進む」
「自由エネルギーが一定であれば系は平衡状態にある」
ことが導かれる。このことは特に化学反応にも適用され、化学平衡定数Kは基準状態での自由エネルギー変化 ΔGと
ΔG = ?RTlnK (Rは気体定数、Tは温度)
の関係にあることが示される。
なお、化学反応の時間的変化については別分野「反応速度論」として発展しているのでその項目を参照のこと。
以上の理論は平衡状態に近い「準静的変化」の考察に基づくものであり、変化の方向性を示すことはできるが、時間のファクターは入っておらず、具体的な変化の様子を示すにはさらなる理論的枠組が必要である。この非平衡熱力学の基本的概念は1930年代からオンサーガーやプリゴジンによって発展した。
基礎的な理論として線形非平衡熱力学がある。ここでは、「局所的平衡」(局所的には上記の平衡熱力学の理論と熱力学変数の関係式が成り立つ)を仮定する。また、時間的変化を示す「流れ」と、流れの原因となる「力」(あるポテンシャルの空間的勾配)という概念を導入する。具体的には次のようなものである:
「流れ」 ・・・・・・ 「力」の原因
電気(電荷)・・・・・・ 電位
密度(質量)・・・・・・ 圧力(物質全体)と化学ポテンシャル(各物質)
熱 ・・・・・・ 温度
ここで「力」は、流れと力の積が局所エントロピー生成(エントロピー密度の時間微分)となるようにとるものとする。すると各流れJと力Xの間には
J = L X (Lは定数)
が成り立つ。しかし上に示したような各要素の間には一般には交差があって、現象論的方程式
J1 = L11 X1 + L12 X2 + ・・・
J2 = L21 X1 + L22 X2 + ・・・
・・・
で書き表される。ここで定数Lのあいだに L12 = L21 、L13 = L31 、・・・の関係があることが統計力学的に示されている(オンサーガーの相反定理)。
なお、化学反応(流れ)と親和力(反応前後での化学ポテンシャル差)の間も上記と同様の流れ・力の関係が書けるが、これはスカラーであるため、ベクトルである上記の流れ・力とは一般には交差しない(キュリーの原理)。ただし非等方的な系ではこの限りでなく、生体膜(化学反応と物質移動の共役)や界面などの例がある。
このような流れの様子が時間変化しないのが定常状態であるが、その条件として「流れによるエントロピー生成が極小である」ということがイリヤ・プリゴジンにより示されている。
その後さらにプリゴジンの「散逸構造論」など、非線形の領域に拡張された非平衡熱力学が研究されている。
参考文献
高林武彦; 熱学史 ; 海鳴社 ; ISBN 4-87525-191-2 (第2版 1999).
山本義隆; 熱学思想の史的展開 ; 現代数学社 ; ISBN 4-7687-0301-1 (1987).
カテゴリ: 物理学 | 熱力学
更新日時:2008年8月12日(火)17:23
取得日時:2008/08/30 22:24