楽譜は、ことばを記録する文字と役割が似ているが、文字が必ずしも朗読されることを目的として書かれるのでないとの対照的に、楽譜はほとんどの場合演奏されることによって目的が達成される所が大きく異なる。
文字に筆記者の意図を書き記したものと語られている内容を書き取ったものとがあるのと同様に、楽譜にも、筆記者(作曲家、編曲家など)の意図を書き記したものと、演奏を書き取ったものがあり、楽譜の作られ方に若干の相違が生じる。
また、音楽の記録のためには、音そのものを録音するという方法があり、この方法は音楽の微細な表情を記録するのに非常に有効である。しかし、録音が演奏の記録にすぎないのに対して、楽譜には音を使わずに読むことができるので演奏しながら読むことができる、演奏のためのさまざまなヒントを記すことができる、時間の流れを越えて視覚的に把握することができる、といった特徴があり、録音に取って代わられるものではない。
現在最も広く用いられている西洋音楽発祥の楽譜を五線譜といい、五線記譜法によっている。音高軸と時間軸とを持った点グラフの一種とみなされる五線には、音符や休符以外にも、音部記号や拍子、調号、臨時記号、また、文字を用いて示すものと、それ以外のマークやシンボルによる演奏記号、言葉による標語などがある。これの発展した形にはクラウス・カール・ヒューブラーの楽譜のようにすべてのパラメーターを数段に分けて書いたものがある。完全に記譜できる反面演奏には極度の難解さを持っている。
楽譜の種類
フルスコア(総譜・スコア)
管弦楽や吹奏楽など合奏用の楽譜で、各パートのすべての音が記載されているもの。普通は指揮者用のA3以上の大型スコアを指すが、作曲家や音楽学者の研究用にミニチュアスコア(Taschenpartitur・独)の方が多く存在し内容は全く同じである。
コンデンススコア(ミニスコア)
総譜を、見やすいように、ピアノでも弾けるようにまた指揮のレッスンでも使えるようにコンパクトにまとめたもの。
パート譜
管弦楽や吹奏楽など合奏用の楽譜で、それぞれのパートを演奏するのに必要な楽譜だけが抜き出してある楽譜。総譜の対義語。ヨーロッパには合唱の楽譜にも各パート譜がありボーカルスコアを使わないことが多い。
ボーカルスコア
声楽の含まれるオーケストラのフルスコアから、オーケストラのパートをピアノに直したもの。声楽のためのパート譜として使ったり、声楽がピアノで練習するときに使う。
ピアノ譜
ト音記号、ヘ音記号の2段(大譜表という)からなる楽譜。総譜をコンパクトにまとめたり、鍵盤楽器用の曲を記したりするときに使われる。
リード・シート(Cメロ譜)
原曲のメロディとコード・ネームとが書かれている単純な楽譜。ジャズなどのポピュラー音楽で、アドリブ演奏をされることを目的としている。
五線譜以外の楽譜
文字譜
タブラチュア
奏法譜と訳され、一般にはタブ譜と呼ぶ。現在ではギターの奏法(弦の押さえ方が記されている)を示すために多く使われる。
一線譜(一本線)
明確な音程を持たない打楽器の記譜に用いる。明確な音程がない打楽器は必ず一線譜で記譜されるというわけではなく、音部記号を持たない五線譜で記譜されることもある。
図形楽譜
時間と音程を表した空間の中に線や幾何学図形などの図形で音を表す楽譜。芸術性のある視覚効果を狙ったものや、固定した時間軸と音程軸で表した空間に長い四角の図形を使い音を表したものまで様々。この手法を用いる作曲家としてはジョン・ケージやスティーヴ・ライヒ・モートン・フェルドマンなどの前衛的音楽家が多い。MIDIなどの電子音楽では細かい演奏データを忠実に再現できるために、五線譜より精細な記法として図形楽譜的な視覚化を行って作曲・編曲されることがある。ピアノロールは楽譜として見るよりも実際にピアノに押し込んで演奏させる演奏媒体として見られる。現在では図形楽譜を用いる目的は五線譜で表現できないパッセージや雑音のみを記譜する場合が多い。
文字楽譜
ケージの「4分33秒」やシュトックハウゼンの「7つの日々」の音楽のように演奏すべき事柄をすべて文章によって記述した「楽譜」。「絵による楽譜」のように不確定要素が多く、演奏者の完成によって全く違う音楽が奏される一種の即興音楽として見られる。
日本
工尺譜
博士(声明)
文化譜(三味線)
弦名譜(箏)
尺八の楽譜
9世紀頃、ネウマ譜と呼ばれる楽譜が現れた。これはキリスト教ローマ典礼で用いられるグレゴリオ聖歌のためのもので、最初は左から右に曲線と直線のみで音の長さと高さを表していたが、次に基準となる音程の位置を水平の線1本で標記する様になり、更に、それが4本、5本となり現代の楽譜と同じ形式になった。ちなみに現代のカトリック教会で使用されるネウマ譜は音の高さを表す線が4本のものである。
15世紀まで、楽譜は手で書かれており、大量の楽譜を綴じて保管していた。機械で印刷された楽譜が初めて出てきたのは1473年のことで、これはヨハン・グーテンベルクによる印刷技術の開発から20年後にあたる。1501年にオッタヴィアーノ・ペトルーシが96曲を印刷して収録した Harmonice musices odhecaton を発行した。ペトルーシの印刷技法による楽譜はきれいで読みやすかったが、楽譜が出来るまでに3度の印刷が必要となり、時間も手間もかかる作業だった。1520年頃のロンドンで、楽譜の印刷が1度の印刷でできるようになり、1528年にピエール・アテニャンはこの技術を広めた。