政府専用機の記念すべき「乗客」第一号となったのは1993年2月14日に訪米した渡辺外相兼副総理だった。ところが渡辺は風邪で体調を崩しており、腹の具合が悪かった。やがて機が巡航高度に達し、客室乗務担当の山川二等空曹が「大臣、お食事はいかがなさいますか」と訊ねると、もとより食欲などない渡辺の答えは「すり下ろしたリンゴと、卵酒をくれないか」というもの。和食にするか洋食にするかを訊ねたつもりだった山川は、この思いがけないリクエストに弱ってしまった。幸いリンゴは積んでいたものの、おろし金などあるはずもなく、また訪問先での検疫事情が詳らかでなかった当時は生卵を積んでいなかったのである。しかし副総理からのリクエスト、それも体調の良くない者のたっての願いに、「あいにく……」とは言えない。そこで山川は一計を案じ、リンゴを包丁でスライスしてから丹念に叩いてペースト状にし、また和食の朝食用に積んであった温泉卵の黄身を解きほぐしてこれでなんとか卵酒を仕立て上げた。
その甲斐あってか渡辺の体調はワシントンに着く頃には大分回復し、ホワイトハウスにおけるクリントン大統領・クリストファー国務長官との会談を無事にこなすことができた。渡辺は日本の市場開放を再三にわたって強く求められてもなんら具体的な約束を与えず、発足したばかりのクリントン新政権に対する「とりあえずのご挨拶」という訪米目的は無事達成された。
山川は帰路、渡辺夫人から今度は思いがけない品を受け取っている。おろし金である。夫の我侭に何の問題もないかのように対応してくれた山川に対する感謝の意を込めて、夫人が大使館を通じてわざわざ調達してくれた心づくしのプレゼントだった。
政府専用機とほぼ同時期に購入したアエロスパシアルAS332Lヘリコプター(陸上自衛隊運用・現在新機種のEC225LPへ更新中)があり、近・中距離移動に用いられている。また航空自衛隊の多用途支援機U-4(ガルフストリームIV)も国内の高速移動に使用されている。
アメリカ・EU・ロシアなどの航空機製造国は自国の新造機を政府専用機としているが、その他多くの国では民間から中古の中・小型機を買い上げて改造する例が多く、非常に高価な新型機を新規に購入した例は、日本やブルネイなど、極僅かな国のみである。
また近年において中・小型機の航続距離、双発機(ボーイング737・ボーイング777・エアバスA330など)の燃費やETOPSなどが飛躍的に向上した結果、短い滑走路を持つ地方の空港からでも容易に離着陸できる小振りの機種の方が汎用性の面においてより優れた選択肢となった[17]ことも、こうした政府専用機小型化傾向の背景となっている。
実際、ボーイング747が安全な離着陸を行うためには最低でも2500〜2750mの滑走路が必要で、そのような長い滑走路を持つのは大都市の国際空港や空軍基地にほぼ限られてしまうことから大型機では運用が中途半端なものとなり、警備上の問題、経済性の低さなどが指摘されるようになっている[18]。その点、ボーイング737-600以降の新型機種などでは通常2000mの滑走路もあれば余裕を持って離着陸できるため、運用できる空港が非常に多くなる利点がある。
注釈^ “CYGNUS”(シグナス、意味は「はくちょう座」)は特別航空輸送隊所属機のコールサイン。
^ ボーイングのコードは 747-47Cで、末尾の「-7C」が「日本国政府」を表すカスタマーコード。自衛隊では B-747-400で、「B-」が「ボーイング」を表す(自衛隊輸送機は通常「C-」、要人輸送にも使う多用途支援機は通常「U-」ではじまる)。
^ a b 納入時は民間機として機体記号 JA8091 と JA8092 で登録されていたが、自衛隊への移管時に20-1101と20-1102の機体記号識別番号が与えられた。
^ 国籍標章は左右主翼の上下と垂直尾翼の両側の計6ヵ所につけられており、どこから見ても日本国政府専用機だということが一目で分るよう配慮されているが、これを見た細川総理は「どこかの七つ紋みたいだね」と漏らしたという。
^ この巨大な国籍標章から、航空マニアの間で政府専用機は「梅干しくん」とあだ名されている。
^ 法令で定められているのは 1) 天皇および皇族、2) 国賓およびこれにに準ずる賓客、3) 最高裁判所長官、4) 衆議院議長および参議院議長、5) 内閣総理大臣、6) 国務大臣。ただし実際には内閣総理大臣による使用がほとんどとなっており、その他の閣僚や三権の長は一般の定期便を利用している。
^ なお総理外遊の際には報道各社の同行記者が同乗し、機内で記者会見が行われることもある。
^ 特に、軽武装の陸上自衛隊北部方面隊普通科隊員の緊急輸送。
^ 通常約30分の間隔をとって予備機が主務機の後を追う。
^ 政府専用機には1機につき7人の航空機体整備員が同乗し、海外でも自力で機体整備ができるようにしている。また各機には予備のパーツから照明灯や窓磨きにいたるまで、あらゆる状況を想定した備品が搭載されている。
^ 航空自衛隊に客室乗務員業務のノウハウはないので、担当の自衛官は民間航空会社に約3ヵ月間出向してサービス技能の研修を受ける。
^ 1999年2月にヨルダンのフセイン国王が死去した際には、同国王が行政府の長を兼ねていたことから国葬には皇太子夫妻と小渕総理夫妻が共に参列することになり、両者が二機に分乗したため双方が主務機扱いとなった。