接着剤の歴史は人間が道具を使い始めた頃に始まった。石器時代、黒曜石などで作られた鏃を木の枝に固定するためにアスファルトが使われた。また、漆を使って修理された約6000年前の土器も見つかっている。古代のバビロニアでは彫像の眼を固定するためにアスファルトが使われ、古代エジプトでは棺や家具・パピルスなどを接着するためににかわが広く使われていた。旧約聖書にはバベルの塔の煉瓦接着や、ノアの方舟の防水処理用にアスファルトが使われたと書かれている。
中世になると接着剤は建築や木工といった分野で多く使われるようになった。12世紀頃のモンゴルで作られた高性能の矢は、動物の骨を薄く削った板を複数枚重ねてにかわで接着したもので、現代の集成材に通じる。古代から使われていた漆喰は石垣や煉瓦建築においてよく用いられ、デンプンのりは日本の寝殿造で使われた襖や障子を作る時に利用されてきた。
接着剤の大量生産は、18世紀のオランダに建設されたにかわ製造工場によって始まった。それ以後、天然ゴム・デンプン・カゼインなどの天然系接着剤が各国で製造され始めた。
20世紀に入ると合成系接着剤が続々と登場する。1915年に、初の合成樹脂のひとつフェノール樹脂を積層板製造時に接着剤として使用された事を皮切りに、化学工業の発展に伴って接着剤も開発された。1940年前後にはエポキシ樹脂系接着剤が金属接合に使われ始めた。以後、様々な種類の接着剤がいろいろな用途に使われるようになった。
接着剤の名称は、大正期にセメダインの社長であった今村善次郎が考案したといわれている。それまで「接合材」・「強力ノリ」などの呼称で呼ばれていたものに対して、今村が当時取引をよく行っていたのが文房具店のほかに薬局であったため、薬局で売りやすいように「材」でなく「剤」の文字を使うようになったとされる。
接着は、まず接着剤が被着材の表面を充分に濡らし、次いで硬化する事で成り立つ。
接着は一部を除いて、原子または分子が相互に拡散する溶接とは異なり、接合する界面(bond line)が存在する。そのため、接着力は被着材の表面状態に大きく左右されてしまい、事前に表面処理を施すことが望まれる。具体的には、洗浄や研磨で異物を取り除く、金属では防錆剤や油分・酸化物を除去する、プラスチックや成型ゴムでは残留離型剤を除去するなどがある。また、一部の被着材にはあらかじめプライマーを塗布し、接着力の向上を図るケースも表面処理のひとつにあげられる。
被着材を濡らすために、接着剤は初期に液体状またはそれに近い流体状になる必要がある。固体でも熱や圧力など外部作用により流動する状態に変化できていればよい。この流動性を持った接着剤が被着材の接合しようとする面全体に塗布されていなければならない。接着剤の塗布には、器具(はけ、ヘラ、ローラー、コーキングガンなど)を利用した手作業による簡易塗布手法と、大量生産に対応するために専用の設備(エア・スプレー、ノズルスプレー、ロールコーター、ビードなど)を使用した塗布方法などがある。
次に硬化し、接合に必要な強度を持つことで接着する。その過程は、重合や硬化剤などとの化学反応、溶媒の蒸発、固体ならば外部作用からの開放や反作用にて行われる。この時、被着材の接合しようとする面と接着剤が適切かつ充分に接触していなければならず、オープンタイムを過ぎているなど接触させるタイミングを逸している様では本来の接着力は発揮されない。また、ホットメルトや感圧型などを除き、接着剤が充分に硬化するまで静置し養生させる必要がある。
分類
反応系(Reactive adhesives、モノマー・オリゴマーなど)
初期状態は化学反応を起こす前の成分を主体とする液体状。混合により反応を始めるタイプは二液形または一方をマイクロカプセルなどに封止した状態。硬化剤によって反応が始まるタイプは液体と硬化促進剤(種類により液体または固体)が分離梱包された状態。熱や空気中の水分、エネルギー放射などの外的要因によって反応を開始するものは一液形となる。異なる物質の混合により重合反応・吸湿・縮合反応などを起こし硬化するタイプは化学反応型に分類され、溶媒の減損が無いため体積変化が小さく欠落部の充填肉盛りなどの役目も果たす。一液形の接着剤を加熱させることで硬化・接着するタイプは熱硬化型に分類され、接着剤に熱をかけるための設備が必要となる。反応系接着剤の中には加熱により接着速度や強度を向上させるタイプもある。
溶液系(Drying adhesives)
初期状態は合成樹脂やゴムなどの高分子固形分が水・アルコール・有機溶剤などの溶媒に溶け込んだ液体状。溶媒の種類によって溶剤系・水系などに分類される。水系のうちホルムアルデヒド(ホルマリン)を含むタイプを特にホルムアルデヒド系と区分する場合もある。水系接着剤のうち水分蒸発と再湿によって可逆的に硬化と溶融を起こすタイプ(再活性接着)のものはあらかじめ被着材に塗布しておき、必要な時に濡らした上で接着する使用法にも用いられる(例:切手の裏面)。 溶媒が気化した後に残留する溶質が硬化することで接着する。一液型。常温で接着し、種類によっては加熱により接着速度を早めることも可能。溶媒が蒸発するため、硬化すると体積が減損する。一般に初期接着性が劣るため粘着力を付与するなどの機能を加える場合がある。
水分散系(Latex & Emulsion、ラテックス・エマルジョン)
初期状態は高分子の固形分を水中で重合させた懸濁水溶液。コロイド状態の天然または合成ゴムが主体の場合にはラテックス系接着剤、本来水に溶解しない高分子が保護コロイドでエマルジョン化されて水に溶けることができる状態となっているものはエマルジョン系接着剤と分類される。これらは特性を付与するために異なる高分子成分を混合する場合もあり、物性を設計する上での自由度が高い。貯蔵性に優れるが凍結させると分解し本来の機能を発揮しなくなってしまう。常温で接着するが低温の環境では充分に固化せず白化した状態となるため、最低造膜温度(Minimun Film Forming Temperature)上での作業が求められる。