事件の解明に必要な要素、犯人、犯行方法、動機のうち、どれの解明を重視するかによる分類。この3つの分類は、推理小説の興味の対象が、単なる犯人当てからトリックの面白さへと移り変わり、そして社会派へつながる動機重視に変わっていく、という推理小説の発展史と重なる。
フーダニット (Whodunit = Who (had) done it)
誰が犯人なのか
ハウダニット (Howdunit = How (had) done it)
どのように犯罪を成し遂げたのか
ホワイダニット (Whydunit = Why (had) done it)
なぜ犯行に至ったのか
推理小説のなかではもっとも一般的でかつもっとも古典的なジャンルである。事件の手がかりをすべてフェアな形で作品中で示し、それと同じ情報をもとに登場人物(広義の探偵)が真相を導き出す形のもの。第二次世界大戦前の日本では、「本格」以外のものは「変格」というジャンルに分類された。なお、本格という呼び方は日本独自のもので、欧米ではパズラーや上述のフーダニットと称される。
本格であるためには、解決の論理性だけではなく手がかりが全て示されること、地の文に虚偽を書かないことが要求される(わざと決定的な事実を明示せず曖昧に表現したり、登場人物の視点から登場人物自身の誤解を記述するのは問題がない)。たとえば、ある作品では列車に乗り合わせた子供の性別が問題になるが、題名にも地の文にも「男の子」「女の子」といった記述は一切なく、伏線として子供の振るまい(特定の玩具に興味を示す)が記述されている。もちろん作家はそれが伏線であることを隠蔽する努力も怠っていない。ただし、現代の視点では、ポオの『モルグ街』には若干アンフェアな記述がある他、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』はフェアかアンフェアかについて、有識者の間で議論を醸した。
エラリー・クイーンの国名シリーズのように「ここまでの部分で、推理に必要な手がかりは全て晒した。さあ犯人(もしくは真相等)を推理してみよ」という「読者への挑戦状」が明示的に含まれる作品もある。密室殺人を始めとした不可能犯罪を扱った作品の多くはこのジャンルに含まれる。
詳細はクローズド・サークルを参照
なんらかの事情で外界とは隔絶された状況下で事件が起こるストーリー。過去の代表例から「嵐の孤島もの」「吹雪の山荘もの」などとも呼ばれる。 アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』が代表作。
孤立した環境下ということで現実的な警察機関の介入、科学的捜査を排し、また容疑者の幅を作中の登場人物に限定できることから、より純粋に「犯人当て」の面白味を描ける利点があり、本格派(上述)志向の作者や読者から好まれる傾向がある。一方で探偵役やワトスン役も含めて、登場人物はみな、警察機関の保護を頼れないまま殺人犯(かもしれない人物)と過ごすことになり、そうした心理サスペンスを盛り込んだ作品も多い。
「犯人が自分の犯行に気付いた相手をやむをえず殺害することになる」などの理由付けによって、連続殺人事件へ発展する場合が多い。その場合、犯行が進むにつれ、生存者が減少し、その中に犯人がいる(はずである)こともサスペンスを呼ぶ。
逆に言えば犯人にとっては「容疑者が限定される状況」で犯行を繰り広げるということであるため、なぜわざわざそうした危険を冒すのかという批判もあるが、それにいかに「合理的な動機」を与えるかもこのジャンルの醍醐味といえる。ストーリーによっては途中で殺害された人間のなかに自殺した犯人がいて、その後の犯行は機械的なブービートラップなどによりおこなわれた、といったものもある。
"誰が犯人なのか"も醍醐味のひとつであるが、クローズド・サークル最大の特徴は大きな恐怖やスリル感であるために、それを如実に表すことのできる映画やテレビドラマなどの映像作品でも多用される。また、「素人探偵が警察をさしおいて犯人探しに取り組む」ことの理由付けが安易であることもあってか、「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」など、少年探偵の活躍するコミック作品にも多く見られる。
事件そのものの推理よりも暗号やパズルなどの謎解きに重点が置かれるもの。論理クイズ(ロジックパズル)をそのまま小説にしたような作品も多い。そのため、舞台設定や状況は謎解きのオマケで重要な要素ではなく、謎を成立させるために非現実的なことがしばしばある(たとえば、1人は必ずうそをつき、もう1人は必ず真実を話す双子など)。多くの作品は本格派に含められる。アイザック・アシモフの『ユニオンクラブ奇談』シリーズが代表的である。
通常の推理小説では、まず犯行の結果のみが描かれ、物語の後半で探偵によって犯人と犯行の様子が暴かれる。しかし倒叙形式では、はじめに犯人の側から犯行の様子が描かれ、その後、探偵の側から捜査の進展や真相の看破に至る過程が描かれる。読者には予め犯行過程が判っており、犯人側のどのようなミスから足がつくのか、その論理とサスペンスが興味の対象になる。また犯人が最初から判っているので、犯人側の内面描写を丹念におこなえる利点や犯人対探偵の一騎討ちといった楽しみがある。英語ではinverted detective story(逆さまの推理小説の意)と呼ばれる。
オースティン・フリーマンの短編集『歌う白骨』で初めて用いられた。1920年代から1930年代に全盛期を迎え、なかでもフランシス・アイルズの『殺意』、F・W・クロフツの『クロイドン発12時30分』およびリチャード・ハルの『伯母殺人事件』は倒叙三大名作と呼ばれた。テレビドラマ作品では刑事コロンボシリーズや古畑任三郎シリーズが特に有名である。
詳細は安楽椅子探偵を参照
探偵が事件現場に赴くことなく、情報として与えられた手がかりのみで事件を解決する作品のこと。構造的にメロドラマ要素を描く必要がなく、論理的推理に特化することができるため、推理小説の極北とも言われるが、厳密にデータのみで勝負している作品は少ない。バロネス・オルツィの「隅の老人」シリーズ、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズ、都筑道夫の「退職刑事」シリーズが代表作。
詳細はハードボイルドを参照
主人公があまり感情を表に表わさず、全体に非情さ・シニカルさを強調した作品。謎解きよりも謀略・サスペンス、活劇の要素が強い。ダシール・ハメットの作品を嚆矢とする。