細胞膜を通しての拡散は単純拡散と促進拡散に分けられる。単純拡散は特異的なチャネルタンパク質を必要としない一般的な拡散である。一般に単純拡散において、膜の脂質部分を拡散する速度は、極性分子よりも非極性分子の方が高い。
促進拡散は、特定の物質が、それに特異的なチャンネルタンパク質を通して濃度の高い方から低い方へ移動する現象である。極性分子やイオンの拡散は主として促進拡散によって行われる。単純拡散と促進拡散を合わせて受動輸送と呼ぶ。それに対して、濃度勾配に逆行して移動する現象(エネルギーの供給を要する)を能動輸送という。
イオンの拡散は濃度勾配と膜電位に(あるいは電気化学ポテンシャル勾配に)依存する。イオンの正味の流束はイオンチャネルが開閉することで変化する。
動物の肺では肺胞において気体の単純拡散が起こる。肺胞膜の両側での分圧差により、酸素は内側の血液中に拡散し、二酸化炭素は外側に拡散することによってガス交換が行われる。
物質の拡散とは、各分子(または原子)の熱運動に基づく物質の運動であり、固体、液体、気体、また超臨界流体中でも起きる。以下のような例がある:
ヘリウムを詰めた風船は数日置くとわずかにしぼむ。これはヘリウム原子が風船の壁を通して拡散するからである。
スパゲッティをゆでると水分子が内部へ拡散し、スパゲッティは膨張し柔らかくなる。
におい物質は気体として拡散し部屋に充満する。
水中に入れた砂糖はかき混ぜなくてもゆっくり溶解し砂糖の分子が拡散して水全体に広がる。
これは、固体中の原子が熱によってランダムに跳躍し、結果として正味の原子の移動が起きる過程である。たとえば風船の中のヘリウム原子は風船の壁を通して拡散し逃げることが可能であり、そして風船は少しずつしぼむ。他の空気中の分子(たとえば酸素、窒素)は移動度がもっと低いので、風船壁を通しての拡散速度は低い。風船内にはヘリウムが詰められ、外気にはヘリウムはわずかしかないので、壁には濃度勾配ができている。移動速度は拡散係数と濃度勾配に支配される。カーケンドール効果も参照。
ブラウン運動は不連続的な粒子が液体中で拡散するときに起きる。熱エネルギーによるものであるから、運動が観測できる()ためには、対象粒子の質量は非常に小さいものでなければならない。運動の方向はランダムで常に変化している。ブラウン運動は原理的には気体中でも起きるが、気体中の微粒子の運動はふつう拡散のほか乱流に支配されているため観測しにくい。
ほとんどの導体において、電子の流れ(電流)は拡散によって起きる。電荷キャリアー(ふつうは電子)は電場がない場合にはランダムに動いている。電場をかけるとキャリアーは流れ出し、正味として電流になる。移動速度は導体の電気伝導度と電場に支配される。
固体の表面を流れる流体の層流では、運動量が表面近くの境界層を通して拡散する。この場合には、表面と接する流体(全く運動せず運動量はゼロ)と表面から離れた流体の間に運動量勾配ができ、運動量は流れの速度に比例する。運動量の輸送速度は流体の粘度と運動量勾配に支配される。
光学的深さが大きく平均自由行程が非常に短いような物質内を光子が進行するときには、そのふるまいは散乱に支配され、各光子の経路は事実上ランダムウォークとなる。
この状況では、光子のアンサンブル(統計力学的集団)としてのふるまいは拡散方程式で表現できる。
一般に拡散は勾配を下る方向(例えば濃度の高いところから低いところへ)の移動として起る。が、必ずしもそうとは限らない。相分離の過程では、物質が高濃度の方へ拡散することもある。これは2相間での濃度勾配が安定的に成立するからである。この現象を逆拡散という。
熱が温度勾配のある物質中を移動する(たとえばコーヒーを入れたカップの外側がだんだん熱くなる)場合、移動の速度は熱伝導率と温度勾配に支配される。熱拡散現象とは異なる現象である。
外部からの攪拌などによって拡散が生じることを強制拡散という。
脚注^ ⇒IUPAC Gold Book - diffusion
関連項目
熱力学
統計力学
流体力学
輸送現象
拡散方程式
フィックの法則
ブラウン運動
浸透圧
ミエログラフィー
拡散ポンプ
カテゴリ: 物理化学の現象 | 細胞生物学
更新日時:2008年9月16日(火)16:03
取得日時:2008/10/03 13:08