同位体の存在比を同位体比という。(質量比では無い。)
この同位体比は、放射性物質の影響および同位体効果を除くと、太陽系内の安定同位体の存在比(同位体比)は極めて一様である。これは太陽系誕生時に、物質が高温で熱せられ拡散したことにより、それ以前に各物質が保有していた固有の同位体比が平均化されたためと考えられている。
しかし、太陽系内の天然物であってもパーミルのオーダー(0.1%=1‰)では同位体比は異なる。その同位体比の差異には、その試料の起源や、同位体効果による変遷が反映されている。
そのため、精密な同位体比の測定は、その試料の起源、変遷を探る上で重要な役割を果たし、地球惑星科学などで広く活用されている。
また、単に天然物を測定するだけでなく、人工的に同位体比に大きな差異を持たせた水などの化合物を、生体や環境、あるいは工学部材に指標として投入し、同位体比の経時変化等を測定することにより、物質の動態を調べる研究に応用されている。
同位体比の測定は質量分析法で行われることが主である。他にはNMRや赤外分光法で測定されることもある。星雲などの宇宙空間の物質の同位体比を測定には、電波観測や赤外線観測が利用される。
同位体の製造は、核合成により直接合成する方法と、同位体を天然中の物質から分離する方法(同位体分離)で行われる。特にkg単位以上で同位体を製造する場合は、同位体分離で行われる事がほとんどである。
同位体分離は、同位体の蒸気圧などの微小な物性差や質量差を利用して行われる。同位体分離には、蒸留分離、拡散分離、遠心分離、レーザー分離といった方法がある。水素は最も大きく速度論的同位体効果が現れる為に重水素を濃縮する場合は、水の電気分解の速度差が利用されている。
日本国内ではホウ素10、ホウ素11、炭素13、窒素15、酸素18が民間企業(東京ガス、大陽日酸など)において製造されている。
炭素13の製造
日本国内では東京ガスが製造している。原料はLNGであり、最終製品は13Cメタンである。
酸素18の製造
日本国内では大陽日酸が酸素18を製造している。酸素の主要同位体核種は16Oであるが、深冷での蒸留技術を応用することにより、同位体同士の微小な蒸気圧差を利用し、工業用酸素ガスから18Oを分離している。そこで分離された18O2ガスを水素ガスと反応させることにより、水-18Oを最終製品として製造している。その水-18Oは下記のPET診断用として主に利用されている。[1]
製造された各同位体は、用途に合わせて目的化合物に取り入れて利用する。このことを、同位体標識といい、同位体標識された化合物を同位体標識化合物(正式には同位元素標識化合物)という。一般的には、単に「マークする」とか、化合物を称してマーカーと呼ぶことも多い。
同位体標識化合物の名称は、化学名の後に、標識部位、標識核種名が続く。例えば、化学式13CH3COOHの酢酸は酢酸-2-13Cとなり、化学式CH13COOHの酢酸は酢酸-1-13Cと、化学式13CH313COOHで部位の特定が必要ない場合は、酢酸-13C2と表される。また、同位体標識化合物ごとのCAS登録番号も存在する。
同位体標識化合物の合成は、特にその分子の一部分の原子だけを標識する場合、その化学合成による標識は非常に困難である。
利用方法
ポジトロン断層法(PET診断)
ガン診断に用いられるポジトロン断層法の試薬には、放射性同位体フッ素18(半減期約108分)で標識した18F-FDGが用いられている。またその原料として、酸素の安定同位体、酸素18原子で標識した水-18O (H218O) が製造されている。
NMR構造解析
同一原子であっても同位体核種により核スピンが異なる。このことを利用して、高分子のタンパク質のNMR構造解析には、安定同位体で標識したアミノ酸や溶媒の利用が欠かせない。重水素、炭素13、窒素15などの安定同位体が用いられている。
地球惑星科学
前述の通り、地球惑星科学の研究分野では、物質の同位体比を質量分析器で測定する事により、物質の起源、変遷の解析や、年代測定を行う事ができる。そこから、地球の古環境やマントルなどの地球深部の物質の移動などが解き明かされてきた。また極微量ながら、保持する希ガスなどの同位体比が太陽系物質ではありえない粒子が、原始的な隕石から発見されている[2]。その同位体比から超新星爆発や赤色巨星星周など太陽系外に起源を持ち、原始太陽系の高温時代を生き残った粒子だと考えられている。
代謝測定
重水、水-18Oあるいは13Cで標識した試薬を生体内に投入すると、生体内で代謝が進むことにより、呼気や尿などから13C、18O、重水素(D)を天然存在比よりも多く含んだ二酸化炭素や水分などが採取できる。この採取した物質の同位体比を測定する事により、生体内の代謝状況を解析できる。この安定同位体を用いた代謝測定の技術は、胃内にその存在の有無が確認できるピロリ菌の呼気検査や、エネルギー代謝測定が不可欠な肥満科学やスポーツ科学などに利用されている。同様に、炭素の放射性同位体で生成した二酸化炭素をマーカーとして代謝測定することは、動物のみならず、植物の光合成に関する試験等でも用いられる。
ホウ素中性子捕捉療法 (BNCT)
ホウ素の同位体10Bの原子核に中性子を照射すると、核反応により高エネルギーのリチウムの同位体7Li原子核とヘリウム4He原子核を放出する。そこで、このホウ素10を特定の化合物に標識しガン細胞に選択的に取り込ませると、ガン細胞を選択的に中性子照射により破壊することができる。このガン治療法をホウ素中性子捕捉療法 (Boron Neutron Capture Therapy, BNCT) といい、日本国内では京都大学原子炉実験所[3]、武蔵工業大学原子力研究所[4]、日本原子力研究開発機構の3箇所で実施できる施設があったが、現在(2007年段階で)は京都大学と日本原子力研究開発機構の2箇所にこの治療法が行える原子炉が存在する。BNCTの課題として、中性子源に原子炉が必要ということで、汎用性に乏しかったが、NEDO-PJに参加する京都大学・森義治教授が、原子炉を使わずに中性子線を発生する小型加速器(百平方メートル程度の大きさ)のアイデアを2006年イタリアで開かれた国際学会で発表。[5][6][7]