最近では声優の仕事は多岐に渡り、声あて・吹き替えだけでなく、CDを発売したり写真集を出版したり、携帯電話の着声を提供する者もいる。また、自分がパーソナリティを務めるラジオ番組(アニラジ)を持つ場合も多い。このような幅広い活動を行う声優は俗にアイドル声優と呼ばれている。
ただしこれはあくまで俗称であるため明確な定義はなく、声優自身が「自分はアイドル声優だ」と自称しているわけでもない。またアイドル的な活動の度合いも、「歌手活動を多く行っている者」「本人名義での歌手活動はほとんど行わないが、アニメ・ゲームの声あてやラジオのパーソナリティを多く行っている者」「主に声優専門誌のグラビアによく登場している者」など様々である。このためアイドル声優とそうでない声優を明確に区別することは難しい。
このアイドル声優というのは、『タッチ』や『らんま1/2』のヒロイン役を務めた日高のり子と、同じく『らんま1/2』に声をあてた林原めぐみが先駆けとなり、その他、國府田マリ子、椎名へきるなどの活躍で1990年代中期からブームに火がつき、現在に至る。
ちなみに、女性声優がアイドル声優と称される例はよくあるが、男性声優がアイドル声優と称される例はほとんどない。
現代の声優には、演技力のほか、ルックスの良さや歌唱力、声優自身が独特のキャラクターを持つことなど、様々な能力が求められるようになっている。とりわけアイドル声優の場合は演技力よりもスタイル、ルックスの方を重視されることが多く、また最近は一部の事務所の養成所で「声優はエンタテインメント」と銘打って、アニメ関連メディアへの露出を積極的に行う例も出ている。野川さくらなどを擁する事務所であるラムズの社長が「アイドル声優にとって重要なのはルックス、そしてトークのうまさであり、演技だけうまくてもデビュー出来ない」とインタビューで述べたことがある[27]。
また、最近ではメディアミックス展開の一環としてアニメ番組関連のインターネットラジオなども多く制作され、聴取数アップのためにもアイドル声優は特に出演を多く求められる傾向があることから、これら音声媒体向けのトーク術もアイドル声優として成功するために要求される重要なスキルの一つになっている。ただし、インターネットラジオのトーク中の出来事などが元で、アイドル声優としてのキャラクター性が変わってしまったり、個性派声優にも通じるタレント要素が付いてしまう者も見られている[28]。
アイドル声優には『夢の国の住人』『永遠のXX歳』などを自称し、生年を全く公表しない者も珍しくはない。雑誌などで広範に年齢を明らかにすることについては事実上のタブーとしているという者も多い[29]。ただし、これはアイドル声優に限ったことでなく、ベテラン声優の中にも声優がアニメなどを通じて「子供達に夢を与える仕事」であることを重視して、年齢の公表がキャラクターのイメージを壊すことを危惧する考え方が根強く、プロダクションサイドとしても顔出しをする仕事ではなく演じるのが声のみという利点が、年齢を公表することにより失われることもあり、声優業界全般に年齢を伏せたがる傾向がある。もっとも、最近の声優はアニメでの声だけではなく、アニメ関連のイベントのトークショーや、インターネットラジオなどへの出演も多いことから、そのような場で年齢を連想させるような言葉[30]をうっかり漏らしてしまい、これにより年齢が明らかとなるケースも見られる。
当然ではあるが、アイドル声優としていつまでも活動できる訳はなく、年齢を重ねればアイドル声優路線の脱却が必要になる。また、声優本人や所属事務所にとっても、アイドル路線から実力派路線へのイメージチェンジが重要な課題になることも多い。一般の芸能アイドルが20代に入ると古株と言われるのに対して、アイドル声優は30歳前後でもまだ通用する点などから前者よりは長いという説もあるが、養成所出身者の場合にはデビュー自体が20代に入ってからになってしまうので一概に長いとは言えないという反論もある。また、アイドル声優路線の脱却と実力派声優へのイメージ転換が順調にいかなかった場合、声優としての『商品価値』が中途半端なものになってしまうケースも見られ[31]、さらには人材が次々に登場してくる新陳代謝の激しい業界であるため、アイドル声優として一時期は一世を風靡したものの、ほどなくして次の若い世代に取って代わられ仕事量が激減してしまったというケースも少なくない。
とりわけ、「20代後半に差し掛かった辺りで更なる成長を遂げられるか否か」「主役・準主役級の大きな役をどれだけ取れるか」「主役級キャラクターを担当する作品がヒットしたか」などといった要素が、アイドル声優と呼ばれる者たちのその後の命運を左右すると言っても過言ではなく、実際、過去にそれに成功した者の多くが中堅ないしベテランとして活躍を続けている。
こうしたアイドル声優がアニメイベントのメインゲストとして登場する場合は、参加客の多くが声優を目当てとするため、客寄せの目玉とされることが多い。アイドル声優の中には、後述の武道館コンサートを成功させるように、音楽活動で全国ツアーを組み、発売したCDをオリコン上位に食い込ませることもある。こうした現象は、CDの売り上げが減少する音楽業界にとって、マーケットの一例として認識され注目を集めている。また、声優のイベントやライブコンサートによく通うファン層のことを「声優イベンター」と称される。
ただし、こういった声優のアイドルタレント的活動に対して好感を持てないという者も少なくない。ベテランの声優や声優ファンの一部からは、こういうアイドル声優に対して「容姿は良いが、声優にとって重要であるはずの演技がうまくない」「露骨過ぎる」「アイドル声優に仕事が集中していくようになったせいで、演技がうまく実力のある声優の仕事量(特にアニメ・ゲーム関連での)が減ってしまっている」などといった非難の声が出ている。
現在では、1990年代中期に起こったアイドル声優ブームの絶頂期は過ぎ去ったような感じになっているものの、アイドル声優自体は毎年新しい人物が登場している。
日本武道館は、職業として音楽活動を行う者の多くが「ここで観客席を満員にしてコンサートを行う」ということを長期的な大目標にする、歌手たちにとってのある意味では聖地的な存在である。
日本武道館ほどの規模の施設でコンサートを成功させるには、単純な知名度、歌唱力のみならず、歌手・エンターテイナーとして総合的な高い能力が要求される[32]。そのため、長いキャリアを持ちビッグネームとして認知される一般芸能人や大手芸能事務所に所属するアイドルタレントでさえ、武道館公演を興行として成功させるのは容易なことではないとされる。よって、日本武道館でコンサートを何度も成功させることは、単純な収益以上に、集客力や興行力などの歌手としての能力が『本物』であることを芸能業界の内外に誇示する意味を現在でも持っている。
声優業界で最初に武道館コンサートを成功させたのは、1990年代のアイドル声優の代表的存在であった椎名へきるである(1997年)。上述したような背景があるだけに、椎名の声優としての初の武道館コンサートの成功は、声優界・芸能界の両方に驚きと衝撃を与えた(2002年・2003年・2004年にも開催)。特に声優界ではこの椎名へきるの成功もあってか、歌唱力をセールスポイントとするアイドル声優が次々と登場し、中でも水樹奈々は、声優として2人目の武道館単独ライブを2005年・2006年の2年連続で実施した。2008年3月には田村ゆかりが声優として3人目となる武道館単独公演を行った。
逆に芸能界では、日本武道館コンサートを成功させることは依然として難しく、歌手にとってはステータスシンボルともいえるイベントであり、場合によっては歌手自身のみならず所属する芸能事務所の後援会やファンクラブの動員力さえ必要とする状況である。このため反応は様々に分かれ、「一般のアーティストよりも発声がしっかりしている」「意外と歌が上手い」「声優業界の販売戦略を謙虚に学ぼう」と言う人々から、「たかが声優、たかがアニメ音楽」と反発する人々[33]まで様々な意味で芸能界に衝撃を与えることになった。