勾留
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被疑者の勾留


要件

被疑者の勾留の要件は、犯罪の嫌疑、勾留の理由、勾留の必要性である(刑事訴訟法207条1項、60条)。

犯罪の嫌疑
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(刑事訴訟法207条1項、60条1項柱書)を、犯罪の嫌疑という。被疑者の勾留の要件としての犯罪の嫌疑は、逮捕状による逮捕の要件としての嫌疑(同法199条1項本文)よりも高度な嫌疑が必要であるが,緊急逮捕の要件としての「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由」(同法210条1項前段)よりその程度は低くてよいとされる。なお、第一審で無罪判決を受けた場合において、控訴裁判所が勾留する場合は、無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず、嫌疑の程度としては、第一審段階におけるものよりも強いものが要求される(最決2007年12月13日)。

勾留の理由
刑事訴訟法60条1項各号所定の事由を、勾留の理由という(犯罪の嫌疑を含めて「勾留の理由」ということもある)。

住居不定
被疑者が定まった住居を有しない(同項1号)ことを、住居不定という。刑法暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪については30万円以下の罰金拘留又は科料に当たる事件(過失傷害(刑法209条)など)については、住居不定でなければ、被疑者を勾留することができない(刑事訴訟法207条1項、60条3項)。これら以外の法令の罪については、2万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪(軽犯罪法1条各号所定の罪など)についても、同様である(刑事訴訟法207条1項、60条3項かっこ書)。

罪証隠滅のおそれ
被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある(同項2号)ことを、罪証隠滅のおそれという。これが広く用いられている。

逃亡のおそれ
被疑者が現に逃亡したときだけでなく、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときにも、勾留の理由があるとされる(同項3号)。この後者の場合を、逃亡のおそれという。

勾留の必要性
嫌疑及び勾留の理由がある場合でも、被疑者を勾留することにより得られる利益とこれにより生ずる不利益とを比較して、権衡(バランス)を失するときは、被疑者を勾留することは許されないと解するのが通説、判例である。このような意味において被疑者の拘禁を相当と評価すべき実質的な理由を、講学上、勾留の必要性という(刑事訴訟法87条1項参照)。


手続
逮捕前置

勾留請求

勾留質問

勾留通知

勾留場所(刑事施設)


勾留期間

被疑者に対する勾留の期間は、勾留請求の日から(勾留請求の当日を含め)10日間である(刑事訴訟法208条1項)。


勾留延長

裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、10日間を限度に勾留期間を延長することができ(刑事訴訟法208条2項前段)、これを勾留延長という。

ここにいう「やむを得ない事由」とは、事件の複雑困難、証拠収集の遅延又は困難等により、勾留期間を延長して更に捜査をするのでなければ起訴又は不起訴の決定をすることが困難な場合をいう(最高裁昭和37年7月3日判決民集16巻7号1408頁)。また、同判決は、牽連(けんれん)する他の事件との関係も相当な限度で考慮に入れることができるとしているが、ここにいう「牽連する他の事件」とは、勾留事実と同時期に敢行された同一・類似の手口の余罪など、勾留事実の犯情を判断するために必要な犯罪事実をいうと考えられている。

延長期間は、通じて10日間を超えることができないが(同項後段)、これを超えない限り、何度でも延長できる。このため、請求より短い期間しか延長が認められなくても、検察官は、準抗告により不服を申し立てることができないとされている(前橋地裁昭和59年12月15日決定刑裁月報16巻11=12合併号756頁)。


接見交通

弁護人等との接見交通
勾留されている被疑者は、弁護人又は弁護人選任権者(刑事訴訟法30条)の依頼により弁護人となろうとする者(以下、本稿において「弁護人等」という。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる(同法39条1項)。検察官、検察事務官又は司法警察職員は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、この接見又は授受に関し、日時、場所及び時間を指定することができる(同条3項本文、接見指定権)。しかし、この接見指定権の行使のあり方については、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなもの」(同項ただし書)となっている場合が多いとの批判が絶えない。

弁護人等以外の者との接見交通
勾留されている被疑者は、弁護人等以外の者とも、法令の範囲内(具体的には、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律115及び116条、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則67条?75条)で、接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる(刑事訴訟法207条、80条)。しかし、裁判官は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被疑者と弁護人等以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、若しくはこれを差し押さえる(差押を参照)ことができる(接見等禁止)。ただし、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押さえることはできない(同法207条、81条)。実際の接見等禁止においては、弁護人等以外の者との接見及び物の授受を禁じる例が多いが、その場合でも、糧食、現金、衣類、寝具、公刊物などの授受を禁じないのが通例のようである。


被告人の勾留


要件

被告人の勾留の要件(犯罪の嫌疑、勾留理由、勾留の必要性)は、前記被疑者の勾留と同様である(刑事訴訟法60条)。


手続


勾留中の被疑者が起訴された場合

勾留中の被疑者について、これと同一の事実によって起訴(公訴提起)がされたときは、起訴の日から、何らの手続を経ることなく、当然に被告人の勾留(2か月)が開始する(刑事訴訟法208条1項、60条2項)。

したがって、被疑者勾留から被告人勾留に移行する際、裁判官が改めて勾留理由や勾留の必要性について審査・判断するわけではなく、勾留質問も行われない。


勾留されていない被疑者が起訴された場合

受訴裁判所(起訴を受けた裁判所)は、職権で、被告人の勾留をすることができる(刑事訴訟法60条1項)。検察官に請求権はない。ただし、第1回公判期日前は、受訴裁判所が記録を見て犯罪の嫌疑等について審査・判断することは予断排除の原則に反するおそれがあるので、裁判官が行う(同法280条1項)。

もっとも、在宅の被疑者が起訴された場合は、起訴後も在宅のままで審理が行われ、裁判官ないし裁判所が職権で勾留を行うことはしないのが通常である。

しかし、主に次のような場合には、検察官が、起訴の際、起訴状に「求令状」との記載をし、それを契機に、裁判官が職権で勾留するか否かを判断するのが実務上の取扱いである(いわゆる「求令状起訴」、「求令起訴」)。
逮捕中求令状
逮捕された被疑者が、まだ勾留されていない段階で起訴された場合は、検察官は、起訴状に「逮捕中求令状」との記載をする。この場合、裁判官は、勾留質問を行い、職権で勾留するか判断し、勾留しないときは直ちに釈放を命じる(同法280条2項)。
勾留中求令状(令状差替え)
A事実で勾留中の被疑者を、これとは別のB事実で起訴し、B事実について被告人勾留を求める場合、検察官は、起訴状に「勾留中求令状」の記載をする。なぜなら、勾留は公訴事実(被疑事実)ごとに行われるので、A事実とB事実に同一性がない場合、A事実についての勾留はB事実についての勾留として引き継がれず、改めてB事実について勾留するか否かを判断する必要があるからである。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki