受訴裁判所(起訴を受けた裁判所)は、職権で、被告人の勾留をすることができる(刑事訴訟法60条1項)。検察官に請求権はない。ただし、第1回公判期日前は、受訴裁判所が記録を見て犯罪の嫌疑等について審査・判断することは予断排除の原則に反するおそれがあるので、裁判官が行う(同法280条1項)。
もっとも、在宅の被疑者が起訴された場合は、起訴後も在宅のままで審理が行われ、裁判官ないし裁判所が職権で勾留を行うことはしないのが通常である。
しかし、主に次のような場合には、検察官が、起訴の際、起訴状に「求令状」との記載をし、それを契機に、裁判官が職権で勾留するか否かを判断するのが実務上の取扱いである(いわゆる「求令状起訴」、「求令起訴」)。
逮捕中求令状
逮捕された被疑者が、まだ勾留されていない段階で起訴された場合は、検察官は、起訴状に「逮捕中求令状」との記載をする。この場合、裁判官は、勾留質問を行い、職権で勾留するか判断し、勾留しないときは直ちに釈放を命じる(同法280条2項)。
勾留中求令状(令状差替え)
A事実で勾留中の被疑者を、これとは別のB事実で起訴し、B事実について被告人勾留を求める場合、検察官は、起訴状に「勾留中求令状」の記載をする。なぜなら、勾留は公訴事実(被疑事実)ごとに行われるので、A事実とB事実に同一性がない場合、A事実についての勾留はB事実についての勾留として引き継がれず、改めてB事実について勾留するか否かを判断する必要があるからである。裁判官は、勾留質問でB事実について被告人の陳述を聴いた後でなければ勾留することができない(同法61条)。
被疑者勾留から被告人勾留に当然に移行する場合は、勾留期間は起訴の日から2か月である(刑事訴訟法60条2項)。起訴後に裁判官ないし裁判所が職権で勾留した場合は、勾留期間は勾留の日から2か月である。
裁判所(第1回公判期日前は裁判官。刑事訴訟法280条1項)は、特に継続の必要があるときは、勾留期間を1か月ごとに更新することができる(勾留更新)。更新の回数は、次の場合には制限がないが、それ以外の場合は1回に限られる(刑事訴訟法60条2項ただし書)。
被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したものであるとき(89条1号)
被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮にあたる罪を犯したものであるとき(89条3号)
被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(89条4号)
被告人の氏名又は住居が分からないとき(89条6号)
保釈
保釈を参照。なお、日本においては、保釈は被告人についてのみ認められ、逮捕中や勾留中の被疑者については認められていない。
勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる(憲法34条後段、刑事訴訟法82条)。勾留されている被疑者は、勾留状を発付した裁判所の裁判官に、同様の請求をすることができる(刑事訴訟法207条による82条の準用)。
請求は被告人・被疑者自身が行うことができるし(刑事訴訟法82条1項)、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、請求することができる(刑事訴訟法82条2項)。勾留の理由の開示の請求は、請求をする者ごとに、各別の書面で、これをしなければならない(刑事訴訟規則81条1項)。被告人以外の者が請求をする場合には、その書面に「弁護人」「配偶者」などと記載する必要がある(刑事訴訟法81条2項参照)。なお、同一の勾留について、勾留理由開示の請求が2つ以上ある場合には、勾留の理由の開示は、最初の請求についてこれを行い、その他の請求は、勾留の理由の開示が終った後、決定でこれを却下しなければならないものとされている(刑事訴訟法86条)。そこで、実務上は、弁護人が2名以上いる場合でも、形式上、請求はそのうち1名のみが行うことが多い。
勾留の理由の開示の請求があったときは、裁判長・裁判官は、開示期日を定めなければならない(刑事訴訟規則82条1項)。勾留の理由の開示をすべき期日とその請求があつた日との間には、やむをえない事情がある場合を除き、5日以上を置くことはできない(刑事訴訟規則84条)。たとえば、弁護人が月曜日に請求書を出した場合、期日は、当日(月曜日)から土曜日までの間で定めなければならないことになる。したがって、実務上、弁護人が勾留理由開示請求書を提出した場合、ただちに裁判所との間で日程調整を行うのが通常である。
勾留の理由の開示は、公開の法廷でこれをしなければならない(憲法34条後段、刑事訴訟法83条1項)。法廷は、裁判官及び裁判所書記官が列席してこれを開く(刑事訴訟法83条2項)。被告人・被疑者及びその弁護人が出頭しないときは、原則として開廷することはできない(憲法34条後段、刑事訴訟法83条3項本文)。なお、検察官の出席は必要とされていないため、実務上は検察官が出席することはほとんどないが、一部の重大事件などでは検察官が出席することもある。
法廷においては、裁判長・裁判官は、勾留の理由を告げなければならないものとされている(刑事訴訟法84条1項)。実務上、裁判官は「刑事訴訟法60条○号に該当する事由がある」とか、「一件記録によれば、関係者に働きかけるなどして罪証を隠滅するおそれがある」など、抽象的な内容を述べるにとどまることが多い。そのため、弁護人が裁判官に「求釈明」を行い、より詳しい勾留理由の説明を求めることが多い。もっとも、弁護人の求釈明に対しても、「捜査の密行性を確保する必要がある」などとして回答しない裁判官も多く、「これでは勾留の理由を開示したことにならない。手続は形骸化している」との指摘もある。
法廷では、検察官又は被告人及び弁護人並びにこれらの者以外の請求者は、意見を述べることができるが(刑事訴訟法84条2項本文)、裁判長・裁判官は、相当と認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を差し出すべきことを命ずることができる(刑事訴訟法84条2項ただし書)。なお、意見を述べる時間は、各10分を超えることができないが、意見陳述に代えて、または意見陳述を補うため、書面を提出することができる(刑事訴訟規則85条の3)。意見陳述の内容は自由であるが、被告人・弁護人の意見陳述は「勾留は不当であるから、ただちに釈放されるべきである」とする内容であることが多い。
開示期日における手続については、裁判所書記官が調書を作成しなければならない(刑事訴訟規則86条)。
裁判官のした勾留に関する裁判(勾留や勾留請求却下、第1回公判期日前の保釈や保釈請求の却下、接見禁止や接見禁止請求の却下など)に不服がある者(被告人・弁護人又は検察官)は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所に、その裁判の取消し又は変更を請求することができる(刑事訴訟法429条1項2号)。これを、準抗告(じゅんこうこく)の申立てという。
もっとも、勾留の裁判に対しては、犯罪の嫌疑がないことを理由として準抗告をすることはできない(同条2項、同法420条3項)。これは、犯罪の嫌疑がないことは、刑事訴訟の本案(公判手続)において主張すべき事柄であるからと説明されている。ただ、準抗告裁判所(準抗告の申立てを受けた地方裁判所又は家庭裁判所(同法429条3項))は、職権で犯罪の嫌疑の有無を審理し、これがないことを理由に勾留の裁判を取り消すことができると解されている。
過料又は費用の賠償を命ずる裁判に対する準抗告の申立ては、原裁判(準抗告によりその当否が争われている裁判)のあった日から3日以内に(同条4項)、申立書を管轄裁判所に差し出して(同法431条)しなければならない。準抗告の申立てがあっても、裁判の執行を停止する効力を有しない(同法432条、424条本文。例えば、被告人が勾留に対する準抗告を申し立てても、当然に釈放されるわけではない。逆に保釈の裁判に対して検察官が準抗告を申し立てた場合、準抗告審の決定があるまでの間被告人の身柄を留め置くためには、検察官は別途執行停止の申立てをする必要がある。)。
審理は合議体でなされ(同法429条3項)、申立ての日の内に決定がなされるのが通例である。準抗告裁判所の決定に対しては、抗告や準抗告をすることができない(同法432条、427条)が、特別抗告はできる。
裁判所がした勾留に関する裁判(被告人に対する勾留)に対しては、抗告をすることができる(刑事訴訟法420条1項、2項)。
勾留の理由又は勾留の必要性がなくなったときは、裁判所(裁判官)は、検察官、勾留されている被告人(被疑者)若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定をもって勾留を取消さなければならない(87条1項)。
裁判所(裁判官)は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人(被疑者)を親族、保護団体その他のものに委託し、又は被告人(被疑者)の住所を制限して、勾留の執行を停止することができる(95条)。
主に、被告人が病気になった場合に入院させるため用いられる場合が多い。