犯罪が増加した場合、または抑止効果を狙って、死刑の適用、懲役・禁錮の年数増加など刑を重くすること(厳罰化)が行われることがある。 つまり、ルールを破った者、罪を犯した者への対応として、教育することと、処罰を加えることのバランスにおいて、後者により重きを置くのである。
厳罰化は立法による場合(法定刑の引き上げ)、行政による場合(求刑の引き上げ)、司法による場合(量刑の引き上げ)によってなされる。厳罰化には、犯罪に対するより厳格な報復を望む被害者・遺族および世論の要望に応える目的や、社会感情を鎮めること、社会秩序の維持、国家や警察・検察機関の体面の維持などが挙げられる、さまざまな社会的要因が関係する。
厳罰化の長所としては
罪をより深く自覚させる
再犯を防止する
威嚇により犯罪を抑止する
被害者がいる場合は被害者感情、遺族感情を鎮める
社会感情を鎮める
統治権力・警察・検察等の威厳を高める
社会的結束を強化する
社会的規範を再確認する
低コストで即効性がある(小さな政府・ネオリベラリズム)
などが挙げられる。
一方、短所としては、
悪質な交通死亡事故の厳罰化のように犯罪全体の厳罰化が進むと、殺人や傷害などの凶悪犯罪との量刑のバランスが取れなくなってくる。
教育や矯正のためのプログラムに予算や人が割り振られなくなる
犯罪者個人の極悪非道性ばかりが強調され犯罪のおこった社会背景の分析や反省が行われない
被害者や被害者遺族に対する応報感情の沈静のみが強調され、実質的な保障や情報公開の必要性が隠れてしまう
国際基準に照らして、釣り合いがとれなくなる(現在日本と犯罪者引き渡し条約に締結しているのは米、韓二国のみ。参考:仏96、英115、米69、韓25)
社会の不寛容が固定化する
犯罪者の自首に対するインセンティブが薄れる(捕まりたくない)
警察や検察の威圧力が必要以上に増す
冤罪のダメージが増す
国連の調査によれば厳罰化による犯罪抑止効果が統計上認められたのは軽犯罪と性犯罪(強姦殺人を除く)のみであるが、日本では軽犯罪は刑務所を溢れさせるため罰金刑導入などによる軽罰化が行われた。
などが挙げられる。
厳罰化には以上に列挙したように、長所だけでなくさまざまな短所・弊害をもつ。
過剰な厳罰化は、凶悪犯罪を増やすとの意見もある。精神的・生活的に追い詰められた人間は、「死刑になるのであれば、思いっきりやってしまえ!」「1人殺して死刑になるなら、もっと多く殺しても同罪だろう」という安易な思考をして、より重大な犯罪に発展するいう発想である。中国では、窃盗罪の刑罰に死刑を設けたため、かえって事件を隠蔽するため「窃盗の目撃者」を殺害してしまう事例がみられるとの指摘がある。
また、突発的な犯罪を犯した際に、厳罰化の社会では「逃走」を選択させる事も少なくない。そして、それは「逃走時の犯罪」を誘引することになる。たとえば、日本において、交通事故を起こした運転者が危険運転致死傷罪による厳罰を恐れたためにひき逃げや「飲み直し」による飲酒運転の証拠隠滅が増加したという指摘がある。
厳罰化が進むと、無意識化の内に「心理的な脅迫」を受け続ける状態になる。この心理的脅迫は、何気ない日常を送っている間には、ほとんど気付くことはない。しかし、何不自由ない日常から一転、突如ストレスを受ける事態になり、周囲に助けてくれる人間がいなかった場合などに、これらの「無意識の脅迫」は我々を襲うことになる。
金銭トラブル・怨恨など、様々な理由から追い詰められた人間にとって、法律は自身を守るものではなく、精神的に追い詰めるものになりつつあるのである。
このため、犯罪抑止のためには、単純に厳罰化を推し進めるだけでは、不十分であって、追い詰められた人間が犯罪に走る前に、未然に救済する法律・組織などが必要であるという指摘がなされる。また、犯罪者の自首・反省を促し、犯罪を犯した人間を再教育し、更生を助ける社会を築かなければならないだろうとする指摘もある。
最近の日本の状況も厳罰化傾向にあると指摘される。少年犯罪や凶悪犯罪(殺人・強姦など)、悪質交通事故に対する厳罰化(2001年少年法改正、2004年刑法改正、2001年危険運転致死傷罪新設)が根拠として挙げられる。しかし、警察白書などの犯罪統計によれば、日本では少年犯罪や凶悪犯罪は統計上は減少傾向にある。
犯罪報道の過熱化と厳罰化とは密接な関係が指摘されている。1995年のオウム真理教事件、1997年の神戸連続児童殺傷事件を発端にして、ワイドショー番組でも盛んに事件報道が行われるようになった。
ワイドショーで視聴率の取りやすい報道は、あからさまに恐怖を煽ったり、犯人の残虐性を強調したり、被害者の悲しみや怒りを情緒的に伝える報道であり、これまでの報道番組の事実解明重視型の報道とは大きく異なるものとなった。このことにより、データとはかけ離れた治安に対する社会不安が高まった(モラル・パニック[1]、体感治安の悪化)。モラルパニックでなくても刑法を、シンガポールのような厳しいレベルの内容へ改正し、また、少年法を廃止し、少年の犯罪者を成年と同様の条件で裁くことを主張する識者(犯罪心理学者に多いとされる)の存在も指摘される。これは、報道機関が、警視庁記者クラブでの報道の優位性を確保したいために、警察発表が一方的に行われることとの関連も指摘されている。
厳罰化は刑務所の過剰収容につながり、犯罪者の更生を困難にするという批判もある。生活困窮者の場合、一般社会で生活するよりも衣食住が保障される刑務所で生活した方が楽と感じる場合があり、長引く不況による経済犯罪の増加も過剰収容の原因と言われている。万引きなどの軽犯罪に関しては罰金刑の導入などの軽罰化が行われているのもこのためであるが、罰金刑でも、フィンランドのように年収の多少により金額が上下するように[2]罰金を科すべきという、罰金刑の枠内における厳罰化要求の声がある。
参考文献
石井良助著『江戸の刑罰』中央公論新社[中公新書]。ISBN 4121000315
冨谷至著『古代中国の刑罰――髑髏が語るもの』中公新書。ISBN 4121012526
脚注^ 「 ⇒治安の悪化は本当か?――つくられたモラルパニック」『「NO!監視」ニュース 【第6号】』、 ⇒監視社会を拒否する会、2004年1月30日。
^ フィンランドではスピード違反で高所得者が日本円で200万円以上の罰金を科せられた事例がある。
関連項目
私刑
刑罰の一覧(日本の現行法で規定されていない刑についてはこちらを参照)
行政罰
三振法
求刑