どのような立入りを「侵入」とするのか、住居侵入罪の保護法益とも関係して、見解が対立している。
まず、住居権者・管理者の意思に反する立入りを「侵入」であるとする立場(意思侵害説)がある。これは通常、住居侵入罪の保護法益を住居権と解する立場からの帰結であると言われる。他方、住居の平穏を害する立入りが「侵入」であるとする立場(平穏侵害説)があり、これは住居侵入罪の保護法益を住居の平穏と解する立場からの帰結であるとされている。
両説の違いが生じる典型事例は、住居の住人(住居権者)又は建造物等の管理者が立入りを禁止している場合に、平穏を害さないよう静かに立ち入ったときである。管理者等の意思に反した立ち入りをもって「侵入」と解する立場によれば、住居侵入罪が成立しうる。他方、平穏を害するような立入りをもって「侵入」とする立場によれば、こうした立入り行為は「侵入」といえず、住居侵入罪は成立しないことになる。
判例は、住居権者等の意思に反する立入りをもって「侵入」と解している(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)。このことをもって判例は、住居侵入罪の保護法益を住居権と考える立場に立っているとされている。
最高裁判決が「侵入」を肯定した事例には以下がある。
全逓信労働組合が郵便局内へ立ち入り、ビラ1000枚を貼付した事例
税務署庁舎内にセメント袋に入れた人糞を投げ込むため、夜間に、人が自由に通行できる税務署構内へ立ち入った事例
強盗の目的を隠しつつ「今晩は」と声をかけ家人が「おはいり」と応じた後に住居へ立ち入った事例
ATM利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、営業中の銀行支店出張所(無人)へ立ち入った事例(平成19年7月2日)
自衛隊の宿舎に反戦ビラを新聞受けに入れるために、宿舎の敷地及び1階出入口から各戸玄関前まで立ち入った行為(平成20年4月11日)
住居侵入罪は未遂も処罰される(刑法132条)。例えば、他人の家の塀を乗り越えようとした時点で、住居侵入罪の未遂となる。
たとえ立入り行為が「侵入」ではないなどとして住居侵入罪の成立が否定されたとしても、管理者等から退去するよう要求されてこれに応じない場合には不退去罪が成立する。住居侵入罪と不退去罪とどちらの犯罪成立要件とも満たす場合には、住居侵入罪のみを成立させるのが判例の立場である。
例えば窃盗目的で人の家に忍び込んだ場合には、窃盗罪と住居侵入罪の2罪が成立し、両罪は手段と目的の関係にあるといえるため牽連犯(刑法54条1項後段)となり、科刑上一罪として最も重い罪の法定刑の範囲で処罰される。窃盗罪のほかにも、強盗罪、放火罪、強姦罪、殺人罪などが牽連犯の関係にあるとされる。
立川反戦ビラ配布事件や葛飾政党ビラ配布事件など、政治団体や政党の活動の一環としてビラやチラシの配布を行うために、住民の了解なく、もしくは住民から立入らないよう求められている部外者が住居(共用部分)に立ち入る行為が住居侵入罪となるかどうかが争われる事例が生じている。
そこでは、まず、物理的には常時誰でも立ち入ることができる場所に立ち入ったに過ぎず、住居侵入罪の客体である「住居」等への侵入に該当しないのではないか、という議論がなされている。
また、平穏を害しないような態様で立ち入ったに過ぎず、立入りの目的も憲法21条によって保護された表現の自由の範疇に属する行為であるため、「侵入」に該当しないのではないか、「正当な理由」に基づく立入りであって処罰すべきではないのではないか(可罰的違法性の問題)、といった議論がある。そこでは、宅配ピザなどの商業用のビラを配布する行為とは異なり、上記のような政治的なビラを配布する行為は表現の自由の中でも特に尊重すべきであり、居住者のプライバシー権を超越すると言う意見もある。
また、逮捕・起訴された者が配布していたビラは反戦運動や共産党その他左翼団体の政治活動として配布されているものであり、一方で、商業的なビラの配布行為が住居侵入罪を構成するとして逮捕・起訴されたことがない(少なくとも社会的に大きな問題として取り扱われてはいない)ということに基づく不満も背景にある。
裁判例でも有罪とするものと無罪とするものとが混在しており、それぞれの理由も異なっている。なお、2008年4月11日、最高裁第二小法廷は立川反戦ビラ配布事件について、住居侵入罪の成立を認めるとともに、管理権者の意思に反する行為であり、住民の私生活の平穏を害する行為であるとして憲法21条1項に反しないとした。
関連項目
不退去罪
所有権
囲繞地通行権
相隣関係
営業の自由
表現の自由
立川反戦ビラ配布事件
葛飾政党ビラ配布事件
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往来を妨害する罪
刑法「第二編 罪」
130条〜132条
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更新日時:2008年4月12日(土)01:16
取得日時:2008/07/25 12:22