尊大語が通常の尊敬語と謙譲語を逆用することによって話題中の人物が下位であることを示すものであるのに対し、尊敬語とは逆の機能をもち、話題中の人物が話し手よりも下位であることを示すために用いられる語彙や言語形式がある。これを侮蔑語あるいは軽卑語という。ある種の下品な表現のためあまり注目されないが、日本語の待遇表現の一角を成すものではある。
謙譲語とは動作の主を低めるという機能は同じだが、謙譲語が動作の受け手を相対的に高めることに主眼があるのに対し、侮蔑語はもっぱら動作主を低めるために用いられる。
動詞には「?やがる」「?くさる」「?よる」など侮蔑の助動詞を接続するほか、「死ぬ-くたばる」「食べる-食らう」「言う-ぬかす/ほざく/こく」など、特別の形をもつものもある。
名詞には「糞」「腐れ」などを前置する。
人名に関しては、呼び捨てにすること自体が軽蔑表現になる他、「?の野郎」「?のガキ」のような表現がある。
参考文献
菊地康人著『敬語』講談社[講談社学術文庫]。ISBN 4061592688
大阪市立大学インターネット講座2004年度 日本語文法の基礎
朝鮮語にも日本語と同様に尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類が用言の文法範疇として存在する。
用言の尊敬語は語幹に尊敬を表す接尾辞(日本語の助動詞に相当する要素) -?- -si- を付けることによって形づくられる。また、?- it-(いる)、?- meok-(食べる)、?- ja-(寝る)など一部の用言は語彙自体を尊敬語彙に入れ替えて尊敬語を作り、日本語とよく似ている。ただし、語彙自体を入れ替える尊敬語の場合にも、尊敬を表す接尾辞 -?- -si- を語形内部に含んでいる。
?- bo- 「見る」― ??- bosi- 「ご覧になる」
?- it- 「いる」― ??- gyesi- 「いらっしゃる」(語彙を入れ替える例)
朝鮮語では日本語のようにウチとソトで尊敬語の使用を変えるということはなく、親や兄姉・先輩など身内の動作・状態に言及する場合も尊敬語を使う(絶対敬語)。
???? ?? ? ???? abeojineun jigeum an gyesimnida 「父は今いません」(逐語訳:父は今いらっしゃいません)
ただし、上下関係に関して相対的な敬語も用いられうる。例えば、父親に関する話を祖父にするときには父親が主語となる動作であっても尊敬語を用いない。
一部の助詞に尊敬形がある。
??? dongsaengi 「弟が」 ― ????? abeojiggeseo 「父が」
???? dongsaengege 「弟に」 ― ???? abeojigge 「父に」
名詞の中には尊敬形を持つものもあるが、名詞の尊敬形は文法化されておらず、一部の語彙に散発的に見られるのみである。
? bap 「ご飯」 ― ?? jinji 「お食事」
?? nai 「とし」 ― ?? yeonse 「ご年齢」
? mom 「体」 ― ?? okche 「お体」
もともと朝鮮語には謙譲を表す接尾辞 -?- -op-、-?- -sap-、-?- -jap- があったが、現代においては老人がいかめしい文語調の手紙文などで稀に用いるだけで、日常生活ではほとんど用いられない。
??? ??? sosigeul deutjapgo 「知らせをお聞きし」
現代朝鮮語では、いくつかの用言に謙譲語が存在するだけで、文法的な手段で個々の用言から謙譲形を作ることはない。
?- ju- 「やる」 ― ??- deuri- 「差し上げる」
?- mut- 「尋ねる」 ― ??- yeojjup- 「伺う」
?- bo- 「会う」 ― ?- boep- 「お会いする」
上記の謙譲語の例のうち、??- deuri-(差し上げる)は補助動詞「(…して)差し上げる」としても用いられる。この場合の謙譲形は極めて生産的である。
? ??- bwa deuri- 「見て差し上げる」
?? ??- irgeo deuri- 「読んで差し上げる」
朝鮮語学では待遇法あるいは階称と呼ぶ場合が多い。丁寧―ぞんざいのレベルは上称・中称・等称・下称・略待上称(親しい上称)・略待(半言)の6種類があり、日本語より複雑である。6種類の待遇表現は話し手と聞き手の社会的関係などによって使い分けられる。?- ha- (する)を例にとると、以下のように使い分けられる。
??? hamnida(上称):主に演説・放送のアナウンスなど公的な場で用いるいかめしい丁寧語。
?? hao(中称):老年層の夫婦間などで用い、若い世代では用いられない。本来は丁寧語であったようだが、現代の語感では非丁寧語として扱われる。
?? hane(等称):主に大学教授などの年配者が学生などの若者に対して用いる非丁寧語。近年、使用が減りつつある。
?? handa(下称):目下に対して用いる非丁寧語。新聞・雑誌などの書き言葉としても用いる。
?? haeyo(略待上称):日常生活で一般的に用いる丁寧語。
? hae(略待):主に親しい間柄で用いる非丁寧語。
中国語における敬語表現
用言の丁寧形があるのはアルタイ語族的特徴である。アルタイ語族ではなく漢・蔵語に属し、孤立語である中国語は、丁寧語は発達しておらず、「です・ます」に相当する丁寧形の体系は存在しない。しかし、名詞における敬語が発達しており、尊敬表現としての貴・尊・令と謙譲表現としての敝・拙などの接頭辞がある。例としては、貴姓(お名前)、貴庚(ご年齢)、貴體(お体)、尊号(お名前)、尊府(お宅)、尊夫人(奥方)、令尊(お父様)、令堂(お母様)、令郎(お子さん)、敝國(自分の国の謙称)、敝眷(自分の家族の謙称)、敝公司(弊社)、拙作(自分の作品の謙称)、拙見(自分の意見の謙称)、拙夫(自分の夫の謙称)、寒舍(自分の家の謙称)などがある。
他には、「?貴姓?」(あなたの)の「?」[1]、「歓迎光臨」(いらっしゃいませ)の「光臨」(「来」の尊敬語)などがある。また、市場経済導入後の大陸において、「何かを依頼する/働きかける」ときに「…してください/したい」よりも「…することができますか/してもいいですか」という丁寧なニュアンスをもたせるために、英語の"Can you ? ?"または"May I ? ?"に相当する「能不能」(neng bu neng)、可不可以(ke bu ke yi)を使った疑問文を用いることが多くなっている。
#概要でも述べられているように、体系だった敬語はない。つまり、その場に相応しい話し方をするには、日本語のように尊敬語・謙譲語・丁寧語などと分類してしまえるような単純化・形式化されたもので済ますわけにはいかず、抑揚や態度、話の運び方を含めた総合的な配慮が重要である。
注釈^ 「?好」(ニイハオ)で使われる二人称の?(ni3)(ニイ)の敬語形が?(nin2)(ニン)。なお、「?好??」という挨拶は英語の"How are you?"に由来し、米中・日中の国交回復以前には常用されていない。(典拠:司馬遼太郎・陳舜臣『対談 中国を考える』文春文庫)
外部リンク
⇒ことばのレシピ語楽 敬語と敬意表現の考え方を詳しく解説。練習問題もある。
⇒敬語表現の指導 教師が小学生に敬語表現を教えた際の授業内容を紹介