一般的に、ニクバエの成虫は卵胎生で、孵化寸前の幼虫の入った卵を動物の死体に産みつけ、すぐさま孵化した幼虫はそこで発育する。幼虫は典型的なウジで、肉の中で5?10日過ごし、その後土にもぐり、成虫になる。成虫になってからの寿命は多くの場合1ヶ月余りと考えられるが、成虫越冬する種などではずっと長くなる。
ニクバエのウジには同所的に見られる他の幼虫を捕食したり捕殺するものが知られているが、これは捕食される側の幼虫が小さくて競争者になったときが多いようである。
ニクバエの幼虫にはクロバエ科の幼虫と同様、様々な無脊椎動物の捕食寄生者となるものも多い。例えばカスミニクバエ類はバッタに寄生する。甲虫、陸貝、鱗翅目の幼虫(ことにテンマクケムシ)といった大型無脊椎動物を食べて育つものもある。日本産のものでは、クサニクバエが茨城県のマツカレハの幼虫によく寄生していることが報告されている。これらは生物学的防除に有用であると考えられている。最近、マングローブに生息する小型の巻貝類に非常に高頻度に寄生し、個体群胴体に大きな影響を与えている種も報告されている。また、南米産の種の中にはカメの卵に捕食寄生する種さえ知られている。
ニクバエと幼虫は上記のように死肉や生きた動物組織のような動物質を食べるものが多いが、他にも動物の糞のような腐敗した排泄物を食べるものも知られている。例えば汲み取り式便所の便池はセンチニクバエなどの好発生地であり、センチニクバエのようにこうした環境に深く依存してきた種の中には便所の水洗化が進んだ地域で著しく減少しているものも知られている。また、糞食の種の中にはきわめて狭食性のものもあり、中南米のヘリコニアなどの茎の先端の漏斗状の葉の筒を毎日日替わりでねぐらにするスイツキコウモリが昼の休息時に排泄した糞のみを発生源にしているニクバエが知られている。
ニクバエは、膨張するまで腐敗の進んだヒトや動物の死体に幼虫を好んで産みつける。多くの場合、ニクバエはかなり腐敗の進んだ状態を好むが、冷たくなってすらいない死体を好むものもいる。遺体上のニクバエは警察の捜査に用いられる。
ニクバエの生活史は予測可能である。この事を用いて、法医昆虫学者はニクバエが食べている死体がいつ死んだかを決定することができる。老熟幼虫を採集して死んだ可能性の最も早い日付を逆算して推定するのである。そうやって、おおよその死亡日時がわかる。この事は、法医昆虫学者が遺体の条件と一致する人物が死亡日時近辺で失踪していたかどうか確かめることができるので、その遺体の身元が誰かを決定するのに有効である。
特定の昆虫は特定の状態の死体を好む。あるものはかなり分解の進んだ死体、さらには乾燥した死体ですら好む。このことによって法医昆虫学者の死亡日時推定が可能になる。全ての昆虫の生活史は予測可能なので、実際法医昆虫学者は全ての異なるタイプの昆虫の平均齢を逆算して死亡推定日時を得ているのである。
以下に日本産ニクバエ科相を概観できるようリストを掲げた。しかし、本科の分類は時代や研究者などによってしばしば異なり、亜科の分け方では、4亜科に分ける考え方や2亜科しか認めない考え方などがある。属の扱いについてはさらに種々の立場があり、一例をあげるなら、シリアカニクバエなどが属する Parasarcophaga を独立の属として扱う場合もあれば、Sarcophaga属の亜属とする場合もある。このような研究者や文献間での食い違いは、一般の者には不便なものであり将来的には一致を見るべきだが、それぞれに根拠があっての不一致であると理解すべきである。
ここに示したリストはスウェーデン自然史博物館のニクバエ研究者 Tomas Pape の世界全体のリスト(外部リンク参照)に従った。3亜科に分けてあり、属の扱いも上記概説部と合致しない部分があるが、上述のような状況であるための便宜上の措置である。亜科ごとに学名のアルファベット順で配列してある。
日本のニクバエ相は、衛生昆虫という側面から比較的よく調べられており、他のハエ目昆虫に比べると相当詳しくわかっている。したがってリストは日本のニクバエ相の凡そを示していると言えるが、死体で繁殖しない捕食寄生性、あるいは労働寄生性の種の解明率はまだ十分ではないと考えられ、新種や新記録種が現在も追加されつつある。
日本産昆虫目録データベース(外部リンク参照)をもとに、いくつかの種を加えたうえ、各種に分布の概略を示した。「北、本、四、九、奄、沖」はそれぞれ北海道、本州、四国、九州、奄美、沖縄(八重山も含む)で、「中、韓、台、ロ極東」はそれぞれ中国、韓国、台湾、ロシア極東部の略である。
日本産ニクバエ科のリスト
Miltogramminae
ドロバチヤドリニクバエ Amobia distorta (Allen,1926) 本、台、旧北区、北米、アルジェリア
ヨコジマコバネヤドリニクバエ Cylindrothecum angustifrons (Townsend,1932) 本、沖、中国
シロオビギンガクニクバエ Eumetopiella (Asiaraba) matsumurai (Rohdendorf,1967) 北、本、中
カノウハナバチノスヤドリニクバエ Macronychia (Macronychia) kanoi Kurahashi,1972 本、ロシア
エゾハナバチノスヤドリニクバエ Macronychia (Macronychia) striginervis (Zetterstedt,1844) 北、本、旧北区
ハチノスヤドリニクバエ Macronychia (Moshusa) polydon (Meigen,1824) 日本、中、旧北区、イスラエル
ミカワヤドリニクバエ Metopia (Anicia) campestris (Fallen,1820) 日本、全北区
和名不詳 Metopia (Anicia) grandii Venturi,1953 日本、ロ極東、シベリア
ヤドリニクバエ Metopia (Anicia) inermis Allen,1926 日本、北米
ミナミヤドリニクバエ Metopia (Australoanicia) nudibasis (Malloch,1930) 日本、中国、東洋区、豪州
ギンガクヤドリニクバエ Metopia (Metopia) argyocephala (Meigen,1824) 九?沖、台、中、韓、旧北区、東洋区、中東、北米、ペルー
タイワンヤドリニクバエ Metopia sauteri (Townsend,1932,Chaetoanicia) 本?奄、ロ極東、中、韓、台、ネパール
ゼニゴギンガクニクバエ Metopia (Metopia) stackeibergi Rohdendorf,1955 日本、中、旧北区、
ヒコサンギンガクニクバエ Metopia (Metopia) suifenhoensis Fan,1965 日本、ロ極東、中、韓
トガシヤドリニクバエ Metopia togashii Kurahashi,2004 本
コバネニクバエ Miltogramma (Miltogramma) punctatum Meigen,1824 日本、中、韓、旧北区、中東、アフリカ、カナリー
和名不詳 Oebalia (Ptychoneura) minuta (Fallen,1810) 日本、旧北区
ハネボシスナニクバエ Phylloteles formosana (Townsend,1933) 日本、ロ極東、中、モンゴル
アナバチヤドリニクバエ Protomiltogramma fasciata (Meigen,1824) 日本、中、旧北区、中東、アフリカ、カナリー
カオジロヤドリニクバエ Senotainia (Sphixapata) japonensis Kurahashi,1970 奄
タカサゴヤドリニクバエ Synorbitomyia linearis (Villneuve,1929) 沖、台、東洋区
Paramacronychiinae
ヤチニクバエAgria moanchae(Kramer,1908) 北、本、旧北区
ヒグラシヤチニクバエ(ヒグラシヤドリバエ) Angiometopa cicadina (Kato,1943) 本
ヒコサンニクバエ Angiometopa hikosana Kurahashi,1975 九
シノナガニクバエ Angiometopa shinonagai Kurahashi,1975 本
ハナバチノスヤドリニクバエ Brachicoma devia (Fallen,1820) 北、本、中、旧北区、北米
オガサワラホソニクバエ Goniophyto boninensis Lopes,1958 小笠原
ホンシュウホソニクバエ Goniophyto honshuensis Rohdendorf,1962 本?沖、ロ極東、中
ホリホソニクバエ Goniophyto horii Kurahashi et Suenaga,1994 九
リュウキュウホソニクバエ Goniophyto yaeyamaensis Kano et Shinonaga,1964 奄?沖
ゴヘイニクバエ Sarcophila japonica (Rohdendorf,1965) 本、ロ極東、韓
Sarcophaginae
サンベカスミニクバエBlaeoxipha ampliforceps Shinonaga et Matsudaira,1970 本
和名不詳Blaeoxipha dupuisi Leonide J. et Leonide J.-C.,1973 日本、旧北区