テロメア
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末端複製問題と細胞老化末端複製問題とテロメア:左)DNAはDNAポリメラーゼ(青丸)によって複製されるが、最末端のプライマー(赤線)部分は複製されない。このため、複製のたびにDNAは短縮し、最後にはなくなってしまうはず。これが「末端複製問題」である。右)生殖細胞やがん細胞ではテロメラーゼによって末端部分の複製が行われる。テロメラーゼ活性がない体細胞では分裂ごとに短縮がおこり、一定以上短くなると分裂を停止し細胞老化が起こる。

1970年代初期になると、分子生物学の発展とともにDNA複製の分子機構が明らかになりはじめる。DNAの合成はDNAポリメラーゼによって行われるが、この酵素によるDNAの生合成には方向性があり、複製を開始するために核酸の断片(プライマー)を必要とすることがわかった。つまり、この酵素は既にある核酸断片を一方向に延長することしかできない。生体内ではプライマーは別の酵素(DNAプライマーゼ)によって作られるRNA断片が用いられ、この断片は複製後に除去されるため、真核生物の直鎖状染色体DNAの末端は一度複製される毎にプライマーの長さだけ短くなると推測された。したがって世代を経るうちに染色体はなくなってしまうことになるが、これまで実際に染色体は維持され続けてきたのであり、矛盾が生じる。このことはジェームズ・ワトソン(1973年)やオロヴニコフ(1972年)によって提示され、「テロメア問題」や「末端複製問題」と呼ばれた。なお、真正細菌のゲノムやプラスミドなど、末端のない環状DNAではこの問題は起こらない。一部のウイルスも直鎖状ゲノムをもつが、ゲノムDNAを直線的に連結させたり、感染したのちに環状構造をとることで末端複製問題を回避している。

一方、1960年代にはヒトの培養細胞を用いた研究で、体細胞組織から取り出した細胞には分裂回数に制限があり、それを越えると細胞は増殖を停止することが報告された。この現象は発見者の名前をとって「ヘイフリック限界」と呼ばれる。また、細胞分裂が停止したこの状態を、個体の老化になぞらえ「細胞老化」と呼ぶようになった。その後の研究で、細胞老化状態にある細胞ではテロメアが短くなっていることが観察され、テロメアの長さが細胞の分裂回数を制限している可能性が示唆されていた。


テロメア配列とテロメラーゼの同定

テロメアの塩基配列は、1978年にブラックバーンらにより、単細胞真核生物のテトラヒメナを用いた研究で最初に明らかにされた。テトラヒメナは大核と小核をもち、大核では染色体の増幅が起きているため、一つの細胞あたり4万を超えるテロメアが存在しており、テロメア解析のモデル生物として適していた。抽出したDNAを電気泳動すると、テロメアは他の染色体領域とは異なる挙動を示すことを手がかりに単離され、配列決定が行われた。この生物のテロメア配列は TTGGGG(T: チミン、G: グアニン)が反復したものだった。この配列をもつ人工染色体は、異なるテロメア配列をもつ出芽酵母でも機能することがわかった。

その後テロメアを合成する酵素テロメラーゼ (Telomerase) が、ブラックバーンの研究室においてテトラヒメナを用いた研究で発見されたことにより、染色体の古典的な「末端複製問題」が解決された(1985年)。テロメラーゼについては#テロメラーゼとテロメアの複製を参照。

[要出典]


テロメアの構造と構成因子テロメアの構造:哺乳類染色体の最末端部位はT-ループ構造をとっていると考えられている。テロメアDNAの3'末端はオーバーハングしており、これは二重らせんに潜り込み、D-ループ構造をとっている(赤線部分)。

テロメアはDNAの特徴的な反復配列(テロメアDNA)とそこに局在する種々のタンパク質からなっている。人工的に構築した哺乳類のテロメアはT-ループと呼ばれる特徴的な構造をしていることが電子顕微鏡を用いて観察されている。実際にこの構造が生体内において形成されている直接的な証拠はまだないが、分子生物学および遺伝学的な研究結果もこのモデルを支持している。出芽酵母ではT-ループではなく、ヘアピン状におり曲がった構造をしていると考えられている。


テロメアDNA

ゲノムDNAは二本鎖からなる二重らせん構造をしているが、テロメアの最末端部位ではDNAの3'末端が突出(オーバーハング)して一本鎖になっている。オーバーハングした配列の長さは種によって異なり、繊毛虫の Oxytricha では16塩基、ヒトやマウスでは50-100塩基である。哺乳類のテロメアDNAはおり曲がってT-ループと呼ばれる構造をとる。突出した部分は二本鎖DNAの間に潜り込み、D-ループと呼ばれる三重鎖構造を形成している(図の赤い線)。この構造はエキソヌクレアーゼなどによるDNA分解を回避し、末端の安定性を維持していると考えられている。T-ループを形成できなくなり、DNA末端が露出すると、DNA修復機構がこれらを切断されたDNAと認識し細胞周期を停止させる他、染色体末端同士を結合させ、染色体融合が生じると考えられている。

テロメアDNAの配列は生物によって多少異なるが、多くのモデル生物ではグアニン (G) とチミン (T) に富んだ反復配列となっている。哺乳類キイロタマホコリカビでは TTAGGG の6塩基が反復したものである。線虫C. elegans では TTAGGC、昆虫カイコでは TTAGG、植物シロイヌナズナでは TTTAGGG、出芽酵母では TG、TGG、TGGGがランダムに繰り返した配列である。これは突出した側の配列(図のオレンジ色の線)であり、その相補鎖(図の青色の線)はシトシン (C) とアデニン (A) が多くなる。ただし、一部の昆虫では異なる様式がみられる。ショウジョウバエではこのような高 GT 配列はなく、トランスポゾンの一種であるレトロポゾンがたくさん見られる。ショウジョウバエでは後述するテロメラーゼよりも、これらの外来性配列の転移によってテロメアが維持されている。カイコは弱いテロメラーゼ活性が見られるものの、レトロポゾンによる染色体末端の維持が行われている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki