ジハード
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マーワルディーが述べる戦争捕虜に対する4つの取扱い

マーワルディーが述べる戦争捕虜の処遇としては、預言者ムハンマドがバドルの戦いで身代金を受け取り、ついで味方の捕虜ひとりに対して敵の捕虜ふたりと交換した例を引く。また、改宗を拒んでいる捕虜については、イマームはシャーフィイーのあげた4つの選択肢のうちひとつを選んでも彼らの取扱いについてよくよく調べて決定を再度熟慮することを促している。

また、捕虜のなかで「力があって害をなすことが甚だしいと分かった者、イスラームへの改宗の見込みが全く無い者、その人物を殺害することが敵の人民を弱体化させることが分かった者」は、殺害すべきだが、それ以上の見せしめの罰を科すべきでは無い、とする。

また、「捕虜のなかで丈夫そうな者、働く能力のある者、裏切りや悪行などの点で安心出来る者」はムスリムの助けとするため、奴隷とすべきであるという。

「イスラームに改宗の見込みがある者、自分の部族の人々に良く慕われていて恩赦を与えれば本人がイスラームに改宗するか部族の人々をイスラームへの改宗に導けそうな人物」などは、恩赦を与えて釈放すべきであるという。

また、財産を保有しムスリムにとって必要な物品を保有する捕虜の場合、身代金をとって釈放すべきであるという。このような裕福な捕虜が属す部族に、ムスリムの捕虜が捕らえられている場合、男女に拘わらず、身代金は取らずにその捕虜と引換えにムスリムの捕虜を取り戻すべきであるという。

イマームは最大限に慎重さをもって以上の4つの選択肢を選ぶべきである、とマーワルディーは述べる。しかし、「多神教徒の捕虜のなかでも、害をなすことが大きく、悪意が強い故に殺すことが認められた者でも、イマームは恩赦を与えて釈放することができる」と述べている。


婦女子の捕虜に対する取扱い

女性や子供の捕虜の場合、ムハンマドの慣行に従い死刑は免除される。また奴隷にされたときも母子が離されることはない。但しこれはハナフィー学派の場合であり、シャーフィイー学派によれば、啓典の民以外の異教徒なら女子供であろうと殺してよいとしている。[12]


また、女性の捕虜が兵士たちの「戦利品」として分配され、分配を受けた兵士はその女性を強姦して自分のものとする権利が与えられることもあった。これについてはスンナ派のハディース集「真正集」(ブハーリー著)に記述があり、そこでは預言者ムハンマド在世中のイエメンへの遠征の際アリーが他の兵士の取り分であった女性を横取りして強姦したため、自分の権利を侵害された兵士がムハンマドに直訴し、逆に諭されている[13]

また戦争捕虜となった女性の中には奴隷化される人も少なくなかったが、女性奴隷は性的欲求を処理する「道具」としてとらえられることもあり、イスラーム世界の上流階級のハレムの人員の供給源となった[14]


成人男子の民間人捕虜への取り扱い

現代の戦時国際法が実際に戦闘に従事した捕虜であっても、正当な理由があり、かつ裁判などの正当な手続きを踏まなければ処刑してはならないと定めているのと違い、イスラーム戦争法ではたとえ戦闘にまったく従事していない民間人の捕虜であっても、健康な成人男子である場合は戦闘員の捕虜と同様に扱われ、司令官の一存で処刑することが認められる。ただしこれは処刑する権利があるというだけであり、上にも述べたように処刑しなければならない訳ではない。2004年のイラク日本人青年人質殺害事件で、人質を殺害したイスラーム武装組織の行動もこの規定を踏まえたものとされ、実際に日本のイスラーム専門家である中田考はイスラーム法上当該青年の殺害は合法であると認めた[15]


外へのジハードの実際

歴史的に見れば、全イスラーム共同体がジハードの意識を高め、異教徒との戦いにあたったのは、初期イスラームの時代の侵略と征服活動の時期、およびイスラーム世界を侵略し、多くのムスリムを虐殺した十字軍中東に出現した時代に限られている。それ以外では現在までジハードの語は非宗教的な動機によって引き起こされた個々の戦争やテロリズムをイスラムの名のもとに正当化するための論理として用いられる。

近代においても大筋においてはその傾向は変わらず、第一次世界大戦のときオスマン帝国が発したジハードの宣言も、インドのムスリムの対英協力やアラブ人の反乱を押し留めることはできなかった。しかしその一方で、19世紀には主にイスラーム世界の辺境である西アフリカマグリブスーダン、インドや東南アジアで、ジハードを宣言する反植民地主義、反帝国主義の戦いが頻発し、防衛のためのジハードの意識は高まっていったことも事実である。20世紀にはイスラエルの拡大と戦うパレスチナハマースソビエト連邦の侵攻と戦うアフガニスタンムジャーヒディーン運動が盛り上がるが、これらの根底には近代ムスリムの侵略に対する抵抗運動としての防衛ジハードの思想との共通性を見出すことができる。


近年には、政治的な動機による戦争の正当化や、過激派のテロリズムを正当化する標語として、ジハードの語がきわめて頻繁に用いられ、本来ジハードの宣言を行う資格のない者がジハードを唱える局面が増えつつある。しかし、ジハードを標榜する政治家やテロリストの言葉がある程度のムスリムの人々をひきつけているのは事実として認められる。これは、欧米が支援する(と少なくともムスリムは考えている)イスラエルが、パレスチナのムスリムたちを追いやり、弾圧していることや、アメリカの空爆がアフガニスタンやイラクの独裁政権のみならず、ムスリム民衆たちまでをも死に追いやっているという現実に対し、侵略される側の者としての怒りの意識を多くのムスリムが共有しているために、「いまこそがイスラーム共同体を防衛するためジハードを行うべきときである」という政治家やテロリストたちの言葉に、彼らが多かれ少なかれ共感を抱くからに他ならない。しかしアメリカ以外の国でもインドネシアやタイ、フィリピンではイスラムの勢力拡大のために利用できる場合はジハードと言う言葉をテロや戦争の正当化に利用している組織もある。そのため反イスラーム主義者から『ムスリムは都合次第で殺戮をジハードとして正当化している』と批判される口実を与える形となっている。


外へのジハードと天国

上述のとおり、ジハードで戦死した者は天国にいけるとされている。イスラームにおける天国はアラビア語で(???? jannah) と呼ばれ、『クルアーン』ではその様子が具体的に綴られているが、『男性は天国で72人の処女(フーリー)とセックスを楽しむことができる。彼女たちは何回セックスを行っても処女膜が再生するため、永遠の処女である。また決して悪酔いすることのない酒や果物、肉などを好きなだけ楽しむことができる。』[16]という一般的な理解から、このような天国での物質的快楽の描写がジハードを推し進める原動力となっているという指摘もある。実際に過激派組織が自爆テロの人員を募集する際にこのような天国の描写を用いている場合が少なくないとされ、問題となっている[17]

しかし、コーランの理性的、近代的解釈を推し進める学者を中心として、これらの描写は比喩的なものに過ぎないという意見も少なくない。また、処女とは間違いで、実際は白い果物という意味だという説もある。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki