ギリシア神話
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口承

今日、ギリシア神話として知られる神々と英雄たちの物語は、およそ紀元前15世紀頃に遡るその濫觴においては、口承形式でうたわれ伝えられてきた。紀元前9世紀または8世紀頃に属すると考えられるホメーロスの二大叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』は、この口承形式の神話の頂点に位置する傑作である。当時のヘレネス(古代ギリシア人は、自分たちをこう呼んだ)の世界には、神話としての基本的骨格を備えた物語の原型が存在していた。

しかし人々は、この地上世界の至る処に神々精霊が存在し、オリュンポスの雪なす山々や天の彼方に偉大な神格が存在することは知っていたが、それらの神々や精霊が、いかなる名前を持ち、いかなる存在者なのかは知らなかった。どのような神が天に、そして大地や森に存在するかを教えたのは吟遊詩人たちであり、詩人は姿の見えない神々に関する知識を人間に解き明かす存在であった。神の霊が詩人の心に宿り、不死なる神々の世界の真実を伝えてくれるのであった。この故に、ホメーロスにおいては、ムーサ女神への祈りの言葉が、朗誦の最初に置かれた。


口承から文字記録へオリュンポス十二神

口承でのみ伝わっていた神話を、文字の形で記録に留め、神々や英雄たちの関係や秩序を、体系的に纏めたのは、ホメーロスより少し時代をくだる紀元前8世紀の詩人ヘーシオドスである。彼が歌った『テオゴニア』においても、その冒頭には、ヘリコーン山に宮敷き居ます詩神(ムーサ)への祈りが入っているが、ヘーシオドスは初めて系統的に神々の系譜と、英雄たちの物語を伝えた。このようにして、彼らの時代、すなわち紀元前9世紀から8世紀頃に、「体系的なギリシア神話」がヘレネスの世界において成立したと考えられる。

無論、それは地域ごとで食い違いや差異があり、伝承の系譜ごとで様々なものが未だ渾然として混ざり合っていた状態であるが、しかし、オリュンポスを支配する神々が誰であるのか、代表的な神々の相互関係はどのようなものであるのか、また世界や人間の始源に関し、どのような物語が語られていたのか、それらは、ヘレネスにおいてほぼ共通した了解のある、或るシステムとなって確立したのである。

しかし、個々の神や英雄は具体的にどのようなことを為し、古代ヘレネスの国々にどのような事件が起こり、それはどういう神々や人々・英雄と関連して、どのように展開し、どのような結果となったのか。これらの詳細や細部の説明・描写などは、後世の詩人や物語作者などの想像力が、その詳細を明らかにし、ギリシア神話の壮麗な物語の殿堂を飾ると共に、陰翳に満ちた複雑で精妙な形姿を構成したのだと言える。

ギリシア悲劇の作者たちが、ギリシア神話に奥行きを与えると共に、人間的な深みをもたらし、神話をより体系的に、かつ強固な輪郭を持つ世界として築き上げて行った。ヘレニズム期においては、アレクサンドリア図書館の学者で詩人でもあったカルリマコスが膨大な記録を編集して神話を敷衍し、ロードスのアポローニオスなどが新しい構想で神話物語を描いた。ローマ帝政期に入って後も、ギリシア神話に対する創造的創作は継続して行き、紀元1世紀の詩人オウィディウス・ナーソの『変身物語』が新しい物語を生み出しあるいは再構成し、パウサニアスの歴史的地理的記録やアプレイウスの作品などがギリシア神話に更に詳細を加えていった。


体系的記述

ギリシア神話を体系的に記述する試みは、既に述べた通り紀元前8世紀のヘーシオドスの『テオゴニア(神統記)』が嚆矢である。ホメーロスの叙事詩などでは、すでに聴衆にとっては既知のものとして、詳細が説明されることなく言及されている神々や、古代の逸話などを、ヘーシオドスは系統的に記述した。『テオゴニア』において神々の系譜を述べ、『仕事と日々』において人間の起源を記し、そして現在は断片でしか残っていない『女傑伝』において英雄たちの誕生を語った。

このような試みは、紀元前6世紀から5世紀頃のアルゴスのアクーシラーオスやレーロスのペレキューデースなどの記述にも存在し、現在はすでに湮滅して僅かな断片しか残っていない彼らの「系統誌」は、古代ギリシアの詩人や劇作家、あるいはローマ時代の物語作家などに大きな影響を与えた。

古代におけるもっとも体系的なギリシア神話の記述は、紀元1世紀頃と考えられるアポロドーロスの筆になる『ビブリオテーケ(3巻16章+摘要7章)』である。この体系的系統本は、紀元前5世紀以前の古典ギリシアの筆者の文献等を元にギリシア神話が纏められており、オウィディウスなどに見られる、ヘレニズム化した甘美な趣もある神話とは、まったく異質で荒々しく古雅な神話系譜を記述していることが特徴である。


典拠著作・作者

古代ギリシア詩

ホメーロス Ομηρο? (紀元前9世紀頃): 英雄叙事詩 『イーリアス』『オデュッセイア

作者不詳(紀元前8世紀 - 紀元前5世紀頃): 『ホメーロス風讃歌』群(33篇)

ヘーシオドス Ησιοδο? (紀元前8世紀): 『テオゴニア(神統記)』『仕事と日々


系譜学者たち(紀元前6世紀 - 紀元前5世紀頃)

アルゴスのアクーシラーオス [著作は湮滅]

レーロスのペレキューデース [著作は湮滅]


古典劇作家詩人

ピンダロス Πινδαρο? (紀元前522年頃 - 紀元前443年): 『オリュンピア祝勝歌』他多数・合唱詩(コロス


古典悲劇詩人

アイスキュロス Αισχυλο? (紀元前525年頃 - 紀元前456年): 『ペルシア人』『縛られたプロメーテウス』『テーベに向かう七人』『オレステイアー三部作』。

ソポクレース Σοφοκλη? (紀元前496年頃 - 紀元前406年): 『アイアス』『アンティゴネー』『オイディプス王』『エレクトラ』『コロノスのオイディプス』

エウリピデース Ευριπιδη? (紀元前480年頃 - 紀元前406年): 『メデイア』『ヒッポリュトス』『アンドロマケー』『トロイエの女』『ヘカベー』『バッコスに憑かれた女たち』『イオン』『オレステース』。


古典喜劇詩人

アリストパネース Αριστοφανη? (紀元前448年頃 - 紀元前380年): 『アカルナイの人々』『騎士』『蜂』『鳥』『女の平和』『蛙』『ウンモフ』


ヘレニズム期

カルリマコス Καλλιμαχο? (紀元前310年頃 - 紀元前240年頃): 詩人・アレクサンドリア図書館の学者

ロドスのアポローニオス Απολλωνιο? Ροδιο? (紀元前295年?/270年頃 - 紀元前215年): 『アルゴナウティカ(4巻)』


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki