ギリシア神話は、大きく分けると、三つの部分または主題から構成される。
世界の起源
神々の物語
英雄たちの物語
第一の「世界の起源」を主題とする神話物語は、分量的には短く、アルカイクな素朴な神話という趣がある。それは、後述するように、主に二つの系統が存在する。(ヘシオドスが『テオゴニア』で記したのは、主として、この「世界の起源」に関する物語である)。
第二の「神々の物語」は、世界の起源の神話と、その前半において密接な関連を持ち、後半では、英雄たちの物語と絡み合っている。英雄たちの物語で、人間の運命の背後にあって神々の様々な思惑があり、活動が行われ、それが英雄たちの物語にギリシア的な奥行きと躍動を与えている。
第三の「英雄たちの物語」は、分量的にはもっとも大きく、いわゆるギリシア神話として知られる物語や逸話は、大部分がこのカテゴリーに入る。この第三のカテゴリーが膨大な分量を持ち、夥しい登場人物から成るのは、日本における神話の系統的記述ともある意味で言える『古事記』や、それに並行しつつ歴史時代にまで記録が続く『日本書紀』がそうであるように、古代ギリシアの歴史時代における王族や豪族、名家と呼ばれる人々が、自分たちの家系に権威を与えるため、神々や、その子である「半神」としての英雄や、古代の伝説的英雄を祖先として系図作成を試みたからだとも言える。
ギリシア神話では人間の時代を「金の時代」、「銀の時代」、「青銅の時代」、「鉄の時代」に分けている。
金の時代では、人間は仏教でいうところの天人に近く、百年近い寿命を持って神を敬い平安に過ごしたとされ、穏やかに死んだとされる。
銀の時代では、神を敬わなくなったためやがて神々に滅ぼされたとされる。
青銅の時代は、戦いに明け暮れる時代であり、人びとは殺しあって滅んだとされる。
鉄の時代が現代で、人間は仏教で言うところの修羅に近い存在とされ、愚かで戦いを好み欲望に苦しめられていると考えられた。
神話的英雄や伝説的な王などは、膨大な数の子孫を持っていることがあり、樹木の枝状に子孫の数が増えて行く例は珍しいことではない。末端の子孫となると、ほとんど具体的エピソードがなく、単なる名前の羅列になっていることも少なくない。
しかし、このように由来不明な多数の名前と人物の羅列があるので、歴史時代のギリシアにおける多少とも名前のある家柄の市民は、自分は神話に記載されている誰それの子孫であると主張できたとも言える。ウェルギリウスの『アイネーイス』が、ローマ人の先祖をトロイエー戦争にまで遡らせているのは明らかに神話的系譜の捏造であるが、これもまた、広義にはギリシア神話だとも言える(正確には、ギリシア神話に接続させ、分岐させた「ローマ神話」である)。ウェルギリウスは、ギリシア人自身が、古代より行って来たことを、紀元前1世紀後半に、ラテン語で行ったのである。
参考文献
原典翻訳
ホメーロス 『イーリアス・上中下』 岩波書店
ホメーロス 『オデュッセイア・上下』 岩波書店
ヘーシオドス 『神統記』 岩波書店
ヘーシオドス 『仕事と日』 岩波書店
ホメーロス 『ホメーロスの諸神讃歌』 ちくま学芸文庫
アポロドーロス 『ギリシア神話』 岩波書店
オウィディウス 『変身物語・上下』 岩波書店
アプレイウス 『黄金の驢馬』 岩波書店
ギリシア神話体系記述本
呉茂一 『ギリシア神話』 新潮社
ロバート・グレーヴス 『ギリシア神話・上下』 紀伊國屋書店
ロバート・グレイヴス 『ギリシア神話』 (一巻本・決定版) 紀伊國屋書店
カール・ケレーニー 『ギリシア神話-神々の時代』 中央公論社
カール・ケレーニー 『ギリシア神話-英雄の時代』 中央公論社
参考書
高津春繁・斎藤忍随 『ギリシア・ローマ古典文学案内』 岩波書店
藤縄謙三 『ギリシア神話の世界観』 新潮社