短い足とずん胴な体に見合わない優れた運動能力を持ち、走る速さは最高で人間が約35km/hに対し、イノシシは約45km/hの速さで走ることが可能である。近畿中国四国農業研究センターの実験によると、70kgの成獣が121cmの高さのバーを助走もなしに跳び越えることができた。しかし立体感のあるものは苦手で、斜めに立てられた柵は越えることができない。扁平になった鼻の力はかなり強く、雄で70kg以上、雌でも50-60kgもある石を動かすことができる。また犬かき程度ではあるが泳ぐこともできる。なお、積極的に前進することや向こう見ずに進むことを「猪突猛進」といい、これはイノシシが真っすぐにしか進めないところからきていると言われているが、イノシシは他の動物と同様前進している際、目の前に危険が迫った時や危険物を発見した時は急停止するなどして方向転換することができ、真っすぐにしか進めないという認識は誤りである。この認識が広がったのは、昔、イノシシ猟で犬などを使いイノシシを追い込んでいく様子を猟師が「イノシシが真っすぐにしか進めない」と勝手に思い込んでしまい、それが噂などで世間に広まっていったと考えられている。追いかけられて前に向かって必死で逃げるのは動物として当然の行動であり、イノシシ特有の行動では決して無い。
日本には、イノシシの亜種であるニホンイノシシとリュウキュウイノシシの2亜種が分布している。縄文時代にシカとともに主要な狩猟対象獣で、北海道や離島からも出土し人為的に持ち込まれたと考えられているほか、大量の幼獣骨の出土から訓化して飼養状態において間引いていたとも考えられている。また、イノシシの生命力は精神世界においても重視され、土器文様としてイノシシ装飾が見られる。
ニホンイノシシ(S. scrofa leucomystax /英:Japanese wild boar)は本州、四国、九州、淡路島に分布する。足が短く雪が苦手なため、日本海側の豪雪地帯には分布しないとされてきたが、積雪が2mを超える福井県の山間部にも出没するようになった。また、近年は分布域は北上傾向にあり、仙台市内の山地での生息や、長野市、須坂市など長野県北部の市街地でも目撃され、人的な被害も報告されている。本種は狩猟対象獣であり、その商品価値は食肉用として高く、他の対象鳥獣と比較しても人気がある。その結果高い狩猟圧がかかるようになり、局所的な個体群の衰退も見受けられるが、逆に分布を拡大させている地域も多い。
体長は雄110-170cm、雌100-150cm、肩高60-90cm、尾長30-40cm、体重80-190kg(岐阜市で約220kgもの雄個体が捕獲されたこともある)で、雌は雄よりも小さく性的二型が見られる。全身茶褐色から黒褐色の剛毛で覆われる。指の数は前後ともに4本で、2個の蹄を持つ。雌雄共に下顎の犬歯が発達して牙状になっており、雄は特に長い。雄の牙は生後1年半ほどで確認できるようになり、半月型に曲がった形で終生成長を続け、最大で15cmほどまでになる。上顎の犬歯も大きく、それが擦り合わさるよう下顎の犬歯が生えているため、常に研磨された状態の牙は非常に鋭い。ただ、この牙は後方に湾曲しているため、攻撃用というよりもむしろ護身用である。
雑食性でクズやヤマノイモなどの根やシイ類の堅果(ドングリ)、小動物(昆虫類やミミズ等)を捕食する。繁殖期は年1回(春頃)であるが、年2回出産することもある。ウリ坊イノシシの授乳
リュウキュウイノシシ(S. scrofa riukiuanus /英:Ryukyu wild boar)は奄美大島、加計呂麻島、請島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島に分布する南方種で、沖縄ではヤマシシとも呼ばれる。生態的な特徴はニホンイノシシと同様であるが、生息域が亜熱帯のためか、春と秋、双方に繁殖期がある。また、各島でその体長・体重には差異があるが、いずれもニホンイノシシと比較するとかなり小さく、体長は90-110cm、体重20-70kg程度である。ニホンイノシシが島嶼化(とうしょか)現象で小型化したとも考えられるが、頭蓋骨の形状の違いなどから別種の原始的なイノシシとする見解もある。また、沖縄本島の個体群は、西表島及び石垣島の個体群と遺伝的に異なる可能性がある。
食性は雑食でスダジイ等の木の実や小動物(昆虫類やミミズ等)を捕食し、夜間に農耕地に出没し、農作物を食害することもある。繁殖期は年に2回(10-12月、4-5月)で、年に1?2回出産すると考えれられている。
また、西表島ではカマイと呼ばれ、その肉は重要なタンパク源としてよく食べられる。
西表島には比較的多くの個体が生息するが、森林開発や狩猟により全体的な個体数は減少傾向にある。特に、徳之島の個体群は、環境省レッドリストで地域個体群に、鹿児島県版レッドデータブックでも絶滅危惧I類で掲載されており、保護の重要性は高い。
絶滅のおそれのある地域個体群(環境省レッドリスト):徳之島の個体群
鹿児島県版レッドデータブック - 亜種:絶滅危惧II類、徳之島の個体群:絶滅危惧I類
沖縄県版レッドデータブック - 情報不足
肉食歌川広重「名所江戸百景」より
獣肉食が禁忌とされた時代も、山間部などでは「山鯨(やまくじら)」(肉の食感が鯨肉に似ているため)と称して細々と、あるいは堂々と食べられており、「薬喰い」の別名からもわかるように、滋養強壮の食材とされていた。白い脂肪に縁どられた赤いイノシシの肉は、切り分けて皿に盛った状態が牡丹の花のようであることから「牡丹肉」とも言われる(日本画でよくある画題の「牡丹に唐獅子、竹に虎」から来た名称との説もある)。
食肉加工
イノシシは、と畜場法に基づく検査(と畜検査)の対象にされておらず、食肉として供給する際の疾病確認や解体時における衛生対策などの法定基準は設けられていない。
捕獲されたイノシシの食肉加工は猟師が自ら行う場合がほとんどであり、野生のイノシシの肉が流通することはまれである。
鳥取県内では2003年より市町村の補助金で県内数箇所にイノシシ専用の食肉加工処理施設が設置、現在も稼動中である。
群馬県内では、捕獲頭数の増加を見込んだ上で、2007年3月を目途にイノシシ専用の加工施設を設置する計画を持っている。
島根県では、イノシシなどの野生獣畜の食肉に起因するE型肝炎などの健康被害の発生もみられることから、2006年9月、猪肉を安全に供給するシステムを構築するため、HACCPの概念など食品安全基本法の趣旨を取入れた「猪肉に係る衛生管理ガイドライン」を独自に作成した。