イスラム教はアラビア語を母語とするアラブ人の間で生まれ、神がアラビア語をもって人類に下したとされるクルアーンを啓典とする宗教であり、教えの名称を含め、宗教上のほとんどの用語はアラビア語を起源とする語である[2]。
イスラム教に帰依する者(イスラム教徒)は、アラビア語起源の言葉でムスリム(???? muslim)といい、ムスリムは、自らの教えの名を、アラビア語で「身を委ねること」「神に帰依すること」を意味するイスラーム (??????? al-Isl?m) の名で呼ぶ[3]。「イスラーム」は「神への帰依」を意味すると解されており、「ムスリム」(イスラム教徒)は「神に帰依する者」を意味する[4]。
また、「イスラム」という名称は、他の主要な宗教のように創始者(または民族)の名称を宗教名に冠していない(即ち、ムハンマド教とならない[5])。この理由には諸説あるが、主な宗教学者[6]の解説によれば、イスラムが特定の人間の意志によって始められたものではないこと、及び国籍や血筋に関係なく全ての人々に信仰が開かれていることを明示するためであるとしている。
今日、この宗教を呼ぶ際に日本で一般的に用いられているイスラム教とは、アラビア語の???????(イスラーム)という言葉が英訳表記された「Islam」に由来するものである。一方、近年、研究者を中心に、アラビア語の長母音をより厳密に反映した「イスラーム」という言葉が好んで使われるようになってきた。高等学校世界史教科書や参考書、あるいは書店に並ぶ本や雑誌においても「イスラーム」の表記が用いられることが増え、一般にも定着しつつあるといえる。[7]
なお、日本を含む東アジアの漢字文化圏では、古くは「回教」と呼ばれることが多かったが、現在はどの国でもイスラームの名に基づく呼称が一般的であり、あまり用いられていない。中国語では現在も一般名称としてムスリムを“回民”と呼ぶ。
今日、ムスリムは世界のいたるところでみられる。異論はあるが、11億人の信徒があると推定されていて、世界で2番目に多くの信者を持つ宗教である。ムスリムが居住する地域は現在ではほぼ世界中に広がっているが、そのうち西アジア・北アフリカ・中央アジア・南アジア・東南アジアが最もムスリムの多い地域とされる。特にイスラム教圏の伝統的な中心である西アジア・中東諸国では国民の大多数がムスリムであり、中にはイスラム教を国教と定め、他宗教の崇拝を禁じている国もある。もっとも、世界的に見ればムスリム人口の大部分は中東諸国以外の人々であり、世界のムスリムに占める中東諸国出身者の割合は20%に留まっている。
世界のムスリム人口は、多子化やアフリカ内陸部などでの布教の浸透によって、現在も拡大を続けているとされる。また、移民として欧米諸国など他宗教が多数派を占める地域への浸透も広まっており、イギリスではすでに国内第2位の信者数を有する宗教である。また、現在の勢いがそのままだと、まもなくアメリカ合衆国で2番目の宗教になると推測されている。
しかしながら、近年はわずかながら他宗教への改宗によりムスリム人口が減少している国も存在する。特にタジキスタンやウズベキスタンといったCIS諸国(旧ソ連諸国)では、ムスリムの正教など他宗教への改宗が目立ってきている。ただ、現在では他宗教への改宗及び棄教行為はリベラルな法学者や信徒の間では自由とされているものの、クルアーンやシャリーア、ハーディスなどに書かれているように歴史的には死罪となるのが建前であり、現在でもこの立場を取っている法学者も多い。
なお日本人ムスリムの総数は、大規模な調査が行われていない事もあり、はっきりしていない。過去に行われた調査では数千〜数万程度のばらつきのある数字が提示されているため、最大に見積もっても信徒数は5万名に届かないのではないかと推測されている。
イスラム教の教典(聖典)は、アラビア語で「朗唱されるもの」という意味をもつクルアーン(コーラン)である。 クルアーン(コーラン)はムハンマドが最後の予言者として語った内容が、ムハンマドおよび後継者の代によって編集され、書物となったものである。
アダム・ノア・アブラハム・モーセなどの預言者たちが説いた教えを、最後の預言者であるムハンマドが完全な形にしたとされている。
なお、クルアーン(コーラン)は極めて簡潔で、知識のないものには簡潔すぎて理解できない。後継者の代によって記述されたハディースをクルアーン(コーラン)のあとに読むと理解が深まる。
クルアーン自身の語るところによれば、唯一なる神が、人類に遣わした最後にして最高の預言者であるムハンマドを通じて、ムスリムの共同体(アラビア語でウンマ)に遣わした啓典(キターブ)であり、ムスリムにとっては、神の言葉そのものとして社会生活のすべてを律する最も重要な行動の指針となる。
イスラム教では、神(アッラーフ)が、預言者を通じて人類に下した啓典が、人類にとって正しい信仰の拠りどころになると考えている。
ムハンマド以前から、神は様々な共同体に預言者を遣わして、啓典を下してきた。しかしそれらのうちでもクルアーンは、神が人類に啓典を伝えるために選んだ最後にして最高の預言者であるムハンマドに対し、最も明瞭な言語であるアラビア語を用いて人々に与えた啓典であり、アラビア語で書かれたクルアーンの言葉は神の言葉そのもので、最も真正な啓典であるとされている。
このようなアラビア語に対する認識から、イスラム教は少なくともその成立当初はアラビア語を解するアラブ人のための民族宗教という一面を持っていたと指摘されることもある。しかし一方で、クルアーンは全人類のために下された啓典といわれており、現実にイスラーム教徒は民族を超えて世界中に存在していることから、イスラームは普遍宗教であるというのが通説である。
イスラム教の信仰の根幹は、六信と五行、すなわち、6つの信仰箇条と、5つの信仰行為から成り立っている。
六信は、次の6つである。
神(アッラー)
天使(マラーイカ)
啓典(クトゥブ)
使徒(ルスル)
来世(アーヒラ)