電子を放出したり、受け取ったりして正または負の電荷を帯びた錯体を錯イオン(さくイオン、complex ion)と呼ぶ。
電荷を帯びたクラスターをクラスターイオン(cluster ion)と呼ぶ。
化学式の右肩に価数を記す。ただし、1価の場合は符号のみ記す。
水素イオン(1価の陽イオン) - H+
硫酸イオン(2価の陰イオン) - SO42−
イオンの名称は、陽イオンについては「元素名+イオン」(例:水素イオン)、陰イオンについては「元素名 − 「素」 + 化物イオン」(例:硫化物イオン)と表す。ただし、どちらも例外が多い。原子1個のイオンを単原子イオン、複数の原子で構成されるイオンを多原子イオンと呼ぶ。
また、主なイオンの名称とイオン式を覚えておけば、物質名から化学式がある程度推測が可能である。
硝酸ナトリウム ⇒ ナトリウムイオン + 硝酸イオンNaNO3 → Na+ + NO3−
水酸化マグネシウム ⇒ マグネシウムイオン + 水酸化物イオンMg(OH)2 → Mg2+ + 2OH−
電荷的に中性な物質が、正または負の電荷をもつ原子あるいは原子団に変化する物理現象をイオン化 (ionization)、または電離と呼ぶ。正と負のイオンから構成される電解質(塩)の結晶が溶液中で溶解したり、融解したりして正または負のイオンとして個々に振舞うことも電離という。
中性原子がイオン化する場合、原子に属していた1個あるいは数個の電子が他の原子または原子団に移る。このとき、イオンの持つ電荷量は電気素量(すなわち電子の持つ電荷量)の整数倍に等しい。電子を受け取った原子または原子団は負電荷に帯電して陰イオンとなり、電子を放出した方は正電荷に帯電して陽イオンとなる。電子を放出する際には原子核からのクーロン力の束縛から解放される為に、電子は光子を吸収したり、原子同士の衝突によりエネルギーを受け取って励起される必要がある。逆に電子を受け取る場合は、励起エネルギーの分を放出して安定化する。
一方、原子の方は電子構造により安定化の度合いが異なるので、励起に必要なイオン化エネルギーの値や、電子を受けとる際の安定化エネルギーである電子親和力の値は、元素の種類やイオン化の進行状況の違いによってそれぞれ異なるエネルギー値をとる。一般的には、電子構造が閉殻やオクテットの構造をとるとき原子は安定化されるので、典型元素においては価電子が閉殻やオクテットの構造をとることで電子配置的に安定なイオンとなる。例えば、アルカリ金属はイオン化エネルギーが小さいため陽イオンになりやすく、反対にハロゲンやカルコゲンは陰イオンになりやすい。
また、個々のイオンは物質の高次構造においては正負の電荷が対(電気的に中性)を形成することで安定化する機構を有する。例えばイオン結晶の中では、イオンはクーロン力によってイオン結合し規則正しい結晶構造を形成することで、巨視的な電荷の偏りが中和され安定化している。代表例である塩化ナトリウムでは、ナトリウムと塩素が両者ともイオン化し、それらが静電的相互作用によってイオン結合している。
あるいは、極性溶媒ではイオンの電荷は溶媒分子を配向させるので(溶媒和)、気相や非極性溶媒よりも安定化される。あるいは溶媒分子を配位する場合はより安定化する。
おもな陽イオン価数イオン名イオン式
1単原子イオン
水素イオンH+
リチウムイオンLi+
ナトリウムイオンNa+
カリウムイオンK+
銀イオンAg+
銅(I) イオンCu+
水銀(I) イオンHg+
多原子イオン
オキソニウムイオンH3O+
アンモニウムイオンNH4+
錯イオン
ジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+
ビオレオ[CoCl2(NH3)4]+
2単原子イオン
マグネシウムイオンMg2+
カルシウムイオンCa2+
ストロンチウムイオンSr2+
バリウムイオンBa2+
カドミウムイオンCd2+
ニッケル(II) イオンNi2+
亜鉛イオンZn2+
銅(II) イオンCu2+
水銀(II) イオンHg2+
鉄(II) イオンFe2+
コバルト(II) イオンCo2+
スズ(II) イオンSn2+
鉛(II) イオンPb2+
マンガン(II) イオンMn2+
錯イオン
テトラアンミン亜鉛(II) イオン[Zn(NH3)4]2+
テトラアンミン銅(II) イオン[Cu(NH3)4]2+
テトラアクア銅(II) イオン[Cu(H2O)4]2+
チオシアノ鉄(III) イオン[Fe(SCN)]2+
ヘキサアンミンニッケル(II) イオン[Ni(NH3)6]2+
プルプレオ[CoCl(NH3)5]2+
3単原子イオン
アルミニウムイオンAl3+
鉄(III) イオンFe3+
クロム(III) イオンCr3+
錯イオン
ヘキサアンミンコバルト(III) イオン[Co(NH3)6]3+
ヘキサアクアコバルト(III) イオン[Co(H2O)6]3+
ヘキサアンミンクロム(III) イオン[Cr(NH3)6]3+
ローゼオ[Co(NH3)4(H2O)2]3+
4単原子イオン
スズ(IV) イオンSn4+
おもな陰イオン価数イオン名イオン式
1単原子イオン
水素化物イオンH−
フッ化物イオンF−
塩化物イオンCl−
臭化物イオンBr−
ヨウ化物イオンI−
多原子イオン
水酸化物イオンOH−
シアン化物イオンCN−
硝酸イオンNO3−
亜硝酸イオンNO2−
次亜塩素酸イオンClO−
亜塩素酸イオンClO2−
塩素酸イオンClO3−
過塩素酸イオンClO4−
過マンガン酸イオンMnO4−
酢酸イオンCH3COO−
炭酸水素イオンHCO3−
リン酸二水素イオンH2PO4−
硫酸水素イオンHSO4−
硫化水素イオンHS−
チオシアン酸イオンSCN−
錯イオン
テトラヒドロキソアルミン酸イオン[Al(OH)4]−
[Al(OH)4(H2O)2]−
ジシアノ銀(I) 酸イオン[Ag(CN)2]−
テトラヒドロキソクロム(III) 酸イオン[Cr(OH)4]−
テトラクロロ金(III) 酸イオン[AuCl4]−
2単原子イオン
酸化物イオンO2-
硫化物イオンS2-
多原子イオン
過酸化物イオンO22-
硫酸イオンSO42-
亜硫酸イオンSO32-
チオ硫酸イオンS2O32-
炭酸イオンCO32-
クロム酸イオンCrO42-
二クロム酸イオンCr2O72-
リン酸一水素イオンHPO42-
錯イオン
テトラヒドロキソ亜鉛(II) 酸イオン[Zn(OH)4]2-
テトラシアノ亜鉛(II) 酸イオン[Zn(CN)4]2-
テトラクロロ銅(II) 酸イオン[CuCl4]2-
3多原子イオン
リン酸イオンPO43-
錯イオン
ヘキサシアノ鉄(III) 酸イオン[Fe(CN)6]3-
ビス(チオスルファト)銀(I) 酸イオン[Ag(S2O3)2]3-
4錯イオン
ヘキサシアノ鉄(II) 酸イオン[Fe(CN)6]4-