菌糸(きんし)とは、菌類の体を構成する、糸状の構造のことである。一般にいうカビやキノコなどは、主に菌糸が寄り集まったもので構成される。単細胞状態の菌類である酵母に対して、このように菌糸を形成した多細胞状態の菌類を糸状菌と総称することがある。また偽菌類や放線菌など、菌類以外の微生物にも菌糸を形成するものがある。
目次
1 概説
2 一般的構造
2.1 大きさ
2.2 細胞性
2.3 細胞壁
2.4 隔壁
2.5 二核菌糸
2.6 細胞の構造
3 菌糸の成長
3.1 菌糸体の形
4 菌糸の分化
4.1 仮根と仮根状菌糸
4.2 生殖に関する構造
5 複数の菌糸からなる構造
6 酵母と菌糸体
7 様々な菌類と菌糸
8 菌類以外の菌糸
8.1 偽菌類の菌糸
8.2 放線菌の菌糸
9 関連事項
10 参考文献
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菌糸(きんし hypha pl. hyphae)というのは、多くの菌類が形成する糸状の構造であり、それらの菌類の栄養体を構成する単位として機能する。栄養体が菌糸から構成されている菌類を糸状菌と呼び、菌糸からなる菌類の体を菌糸体(mycelium pl. mycelia)という。
たとえばシイタケが樹木の茎から生えているのを見たとき、一般の人は樹皮上に出ているものをシイタケと見るが、これは子実体という繁殖のための構造に過ぎず、その本体はむしろ幹の中に広がる菌糸である。種菌として植え付けられたシイタケは、材木の中に菌糸をのばし、その表面から酵素を出して周囲の材を分解し、それを吸収して成長し、やがて子実体を作ることで表面から見合えるようになる。また、子実体そのものも菌糸から構成されている。カビの場合も同様で、たとえば餅の表面に出てくるアオカビは、粉の集まりのように見えるのは胞子の固まりであり、実際にはその下の餅の中に広がっている菌糸が本体なのである。糸状菌においては菌糸が本体であり、菌糸として成長し、菌糸からの分化によって様々な構造が作られ、そこで生殖も行われる。
一般には菌糸はそれぞれ単独で生命維持ができる単位であり、菌糸が分断されても、その一部から再び成長を続けることができる。しかし、生殖などの活動には、ある程度以上の大きさに発達した菌糸体であることが必要である。また、菌糸はそれぞれが遊離して栄養源である基質表面、あるいはその内部に侵入し、それぞれに栄養を分解吸収して成長するが、時にまとまって一定の構造を作る場合がある。菌類に於いては、1列に細胞が並んだ菌糸以上の複雑な組織は存在せず、子実体のような大型の構造も、すべて菌糸が集まって形成される。
一般に菌糸と呼ばれるものは、糸状で、分枝しながら先端成長によって伸長し、その表面で周囲にある基質を分解吸収して自らの栄養とする構造である。多くの菌類は、胞子から発芽するとこのような構造となり、成長や分枝を続け、多数の菌糸の集まりによる体を発達させる。菌糸は細胞からなり、その表面は丈夫な細胞壁で覆われる。
菌糸は先端で伸びるものであるから、長さについては様々である。太さは0.5-100μmまでの幅があり、菌群によって大きく異なる。ごく細いものは後述のツボカビ類の仮根状菌糸や、接合菌類のトリモチカビ目に見られる。これらでは2μm程度の菌糸が普通で、部分的にはさらに細くなっている。特に太いのは菌類ではないが卵菌類のミズカビ類で、20-40μmは普通で、ミズカビやワタカビでは時には100μmを越えることもある。フハイカビで4-6μm、これは一般の子嚢菌、担子菌程度である(椿他,1978:各種の記述から)。
菌糸は基本的には多細胞的なものであるが、菌糸を細胞に区切る隔壁があるものとないものがある。隔壁が全くないか、所々にのみ形成される場合、菌糸の内容は仕切りがなくて多数の核を含む原形質からなる多核体の構造となる。ツボカビ門のサヤミドロモドキ目や接合菌門のケカビ目などにそのようなものが見られる。子嚢菌類や担子菌類では菌糸には規則的に隔壁があって、菌糸は細胞に分かれているが、実際にはその間に連絡があり、多核体的な面が強い。
菌糸の細胞壁の主要な構成成分は多糖類である。ほとんどの菌類に於いては、その大部分はキチンである。他にキトサンやグルカンを同時に含んでいるものが多い。それらは繊維状となり、層をなしているのが普通である。
菌糸を仕切っている板を隔壁(septum)という。接合菌綱のケカビ目などでは菌糸には原則的には隔壁がなく、古くなると作られたり、生殖器官の下に形成される程度であるが、接合菌綱でもキクセラ目などでは規則的な隔壁が形成される。ただし、キクセラ目のものでは、隔壁の中央に、両側の細胞に突き出た特有の管がある。
子嚢菌類、担子菌類(および不完全菌類)の菌糸には、規則的に隔壁があり、それによって菌糸は細胞に分断されている。