自然選択説(しぜんせんたくせつ、natural selection)とは、進化を説明するうえでの根幹をなす理論。厳しい自然環境が、生物に無目的に起きる変異(突然変異)を選別し、進化に方向性を与えるという説。1859年にチャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスによってはじめて体系化された。自然淘汰説(しぜんとうたせつ)ともいう。日本では時間の流れで自然と淘汰されていくという意味の「自然淘汰」が一般的であるが、本項では原語に従って「自然選択」で統一する。
目次
1 成り立ち
2 概要
2.1 選択圧
2.2 累積選択
2.3 適応
2.4 進化的軍拡競争
2.5 群選択
2.6 最適戦略選択説
2.7 頻度依存選択
3 自然選択の例
4 脚注
5 関連項目
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チャールズ・ダーウィンはロンドンでハトの品種改良を観察し、様々な品種の多様な形質に驚いた。またマルサスの人口論を読み、限られた資源を争うのは人間だけでなく全ての生物に当てはまるのではないか、そして人間に優劣があるように、生物も全て平等ではなく、生存と繁殖に有利さの差があるのではないかと考えた。それよりやや遅れてアルフレッド・ウォレスもアマゾンとマレー半島での動植物の観察とやはり『人口論』から同じような概念を持つに至った。この概念は1858年に二人の共同発見という形で発表された。ウォレスは自然選択を万能なものと考えたが、ダーウィンは後年、クジャクの求愛行動などからもう一つのメカニズムである性選択を提唱した。
自然選択は生命の誕生以来、全ての生物に働いてきたと考えられる。そのためしばしば自然選択説は循環論的であると批判される。しかし実際に観察された現象から導き出された理論である。19世紀以前は「神の思し召しである」としか説明できなかった生物が持つ様々な性質の由来について、自然選択説に基づく観察は、それぞれ異なった説明を可能にした。
総合説に代表される「ネオ・ダーウィニズム」では自然選択を重視しているが、木村資生の中立進化説などの分子進化論では、自然選択にかかからない中立な突然変異を起こした遺伝子が集団内に広がることも、進化にとって重要であるとしている。
概要薬剤耐性菌の増殖。上段から
・抗生物質に暴露する前
・抗生物質に晒されたあと
・生き残った菌の増殖
を表す。最下段はバクテリアの持つ耐性の強さを示す。
生物の進化を要約すると次の通りである:
生物がもつ性質が次の3つの条件を満たすとき、生物集団の伝達的性質が累積的に変化する。
生物の個体には、同じ種に属していても、さまざまな変異が見られる。(変異)
そのような変異の中には、親から子へ伝えられるものがある。(遺伝)
変異の中には、自身の生存確率や次世代に残せる子の数に差を与えるものがある。(選択)
上記のメカニズムのうち、3番目に関わるのが自然選択である。生存と繁殖に有利な性質を持った個体が生き延び、より多くの子を残し、逆に不利な性質を持った個体は長生きできず多くの子供を残せない。このような差がもたらされる要因は、生物が本来備える繁殖力がふつう環境の収容力(生物が利用できる資源は有限である)を超えるため、子ども同士や他の生物との間で生存競争が起きるからである。生存競争を経てどの個体が生き延び、どの個体がどれだけ子を残せるか、篩い分けの役割を自然環境が果たすことを自然選択という。これを人為的に行うことを人為選択という。
自然選択が直接働くのは生物の個体に対してである。しかし実際に選択されるのは生物の性質を決める遺伝子である。その結果が一般的に見られるのは種(あるいは群)においてである。自然選択は同じ種内でもっとも強く働くと考えられる。それは同種の他の個体が、限られた資源(食料、配偶者)を直接に奪い合う第一の競争相手だからである。
また自然選択が働くのは表現型の形質と行動のみである。中立進化は自然選択によって選別されない。そのため、中立的進化が前適応(ある機能、ある性質がのちに他の用途に転用されること)をもたらすのではないかという説もある。一方で獲得形質(後天的に得られた性質)は自然選択の網にかかるが、それは遺伝によって受け継がれないため、生物の進化には寄与しない。
自然環境は急激に変化することはまれであるため、特定の方向に選択を偏らせることがある。例えば砂漠では砂色の体が保護色となる 、発汗が抑えられわずかな水分を有効利用する、あるいは夜行性となるなどが生存に有利に働く。このように実際に生存率に差をもたらす自然環境の力を選択圧と言う。生息する環境が異なれば、生物は異なる選択圧を受ける。生物は常に様々な選択圧に晒されており、また一つの性質に対して複数の選択圧が働くのが普通である。
例えばホタルやカエルは音や光などの信号を発して配偶者を求める。配偶者の密度が薄ければ、強い信号を発する個体が有利である、つまり配偶者密度は一つの選択圧であるといえる。同時に、強い信号は捕食者を呼び寄せるリスクを伴う。つまり捕食者密度は、「信号の強さ 」という性質に対してそれとは逆方向に働くもう一つの選択圧である。どの程度の信号の強さが最適かは、捕食者・配偶者の密度の他に、信号を発する時間帯(日中か、夕暮れか、夜か)、食料の量(信号を発するのに多大なエネルギーが必要)など、様々な要因に左右される。
進化論の反対者は「不完全な眼、不完全な翼などは役に立たない」と述べる。これを説明するのが累積的選択である。原始的な状態と比べてわずかでもその形質を持つことが生存と繁殖に有利さをもたらすのであれば、その形質は種内に広がる。