1954年2月にロスアラモス国立研究所のゴディバ実験装置で起きた臨界事故の前後の写真。臨界事故で生じた衝撃波によって装置の支柱が折れ曲がっている。
臨界事故(りんかいじこ、 criticality accident )とは、濃縮ウランやプルトニウムのような核分裂性物質の内部で核分裂連鎖反応が想定外の状況下で偶発的に起こった事象を指す。臨界事故によって放出される中性子線は発生場所の付近にいる人間にとって極めて危険であり、またこの中性子線によって発生場所周囲の物体が放射能を帯びる原因となる。
核分裂反応の発生を前提として作られている原子炉の炉心や実験施設の外で臨界事故が発生すると、発生場所から数十メートル以内にいる作業員は重傷または死亡に至る高い危険性にさらされ、また発生場所の付近には放射性物質が放出される危険が生じる。ただし、臨界事故は危険ではあるが、こういった事故では核分裂性物質の密度が比較的小さいことや核物質が臨界量に達するまでの挿入時間 (insertion time) が長いため、核分裂収率や最大出力が抑えられ、核爆発に至ることはない。
目次
1 原因
2 解説
2.1 青い光
2.2 熱効果
3 事例
4 関連項目
5 注
6 外部リンク
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原因60インチサイクロトロンによって加速されたイオン(おそらく陽子か重陽子)のビームが周囲の空気を電離して青く発光する様子(1939年頃撮影)。臨界事故の目撃者によって報告されている青い光はこれと全く同じ過程で生じたものと考えられる。この光はチェレンコフ放射とは別の現象である。
核分裂反応の臨界状態は金属のウランやプルトニウム、あるいはこれらの元素の化合物や溶液で起こりうる。物質の同位体組成や形状、化学組成、溶液か化合物か合金か複合材料か、また周囲を取り囲む物質の種類などあらゆる条件が、その物質が臨界に達する、すなわち連鎖反応を起こすかどうかに影響する。臨界量の計算は複雑になるため、核分裂性物質を取り扱う施設は民間でも軍事施設でも、特別に訓練された臨界管理者 (criticality officer) を置いて機器を監視し、臨界事故を防いでいる。
2007年現在までに確認されている臨界事故は、核物質処理施設における事故と研究用原子炉で起きた事故に分けられる。前者は一般に臨界が決して起きないように管理された環境で起きた事故であるのに対して、後者の場合には臨界状態自体は物理実験として原子炉内で人為的に常時起こされているものの、何らかの理由でこの臨界状態が制御されない状態に陥ったものである。またこれらとは別に、2007年には、日本の商業用原子力発電所で1978年[1]と1999年[2][3]に臨界事故が起きていた可能性が高いことが明らかになっている。
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ほとんどの臨界事故ではいわゆる「青い閃光」が観察されている。これは臨界状態に達した核物質の周囲の空気が強いX線またはガンマ線(または水中などの特殊な物質の中ではベータ粒子など)のパルスによって電離されるために生じるものである。この「青い光」についてはしばしばチェレンコフ放射であると誤って認識されることがあるが、実際には別の物理現象である。
チェレンコフ放射は荷電粒子が誘電体の内部をその物質内での光速よりも速く進む時に放射される光である。臨界事故(すなわち核分裂反応)の過程で生成される荷電粒子はアルファ粒子、ベータ粒子、陽電子と高エネルギーのイオンに限られる。前三者は全て核分裂反応で生成された不安定な「娘核種」の放射性崩壊によって生じるものであり、後者の高エネルギーイオンは娘核種そのものである。これらの粒子のうち、空気中を数cm以上にわたって進むことができるのはベータ粒子だけである。空気は非常に密度が小さい物質であるため、その屈折率(およそ n=1.0002926)は真空の屈折率 (n=1) に比べてごくわずかしか大きくない。従って空気中の光速度は真空中の光速度 c に比べて約0.03%小さいだけに過ぎない。ゆえに、核分裂生成物の崩壊によって放出されるベータ粒子がチェレンコフ放射を生じるためには、ベータ粒子は真空中の光速度の 99.97% 以上の速度を持たなければならない。放射性崩壊によって放出されるベータ粒子のエネルギーは約 20MeV を超えることはなく(14B の崩壊で生じるベータ粒子が 20.6MeV で最もエネルギーが高く、次いで 32Na の 17.9MeV が続く[4])、またベータ粒子が c の 99.97% まで達するのに必要なエネルギーは 20.3 MeV なので、核分裂の臨界によって空気中でチェレンコフ放射が起きる可能性は実質的にはない。青い閃光の大部分をチェレンコフ光が占めるような唯一のケースは、臨界が水中または完全に溶液(再処理プラントの硝酸ウラニルなど)の中で起きた場合で、このような光を見ることができるのは溶液の容器が開いていたか透明だった場合のみである。
実際には、臨界事故で見られる青い光は空気(ほとんどは酸素と窒素)に含まれる電離した原子(または励起された分子)が基底状態に戻る際に放出する青いスペクトルの光によるものである。