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満州語の語彙集(まんしゅうごのごいしゅう)では、満州語のいくつかの語彙を紹介する。
注意: 満州語の/e/は日本語の「エ」というよりも、「エ」と「オ」の中間の様な、朝鮮語の/e/(ハングルでは?)や中国普通話の/e/に近い音である。また、満州語の/s/は、特に語頭に於いては、[s]よりも[ts]の様に発音される傾向が強かったようである。これを考慮に入れれば、満州語と日本語の間に幾つか借用語らしい単語が見出される。例えば、日本語の「つな(綱)」と満州語のsuna(スナ、またはツナ = 「動物を繋ぎとめるための綱や縄」)<借用語だとしたら恐らく日本語から満州語へ;日本語の「しる(汁)」と満州語のsile(シレ・シロ、またはツィレ・ツィロ = 「汁; スープ」)<借用語だとしたら恐らく満州語から日本語へ、また日本語の「つゆ(汁)」を参照。しかし満州語のsile「汁」がモンゴル語との借用関係にある可能性がかなり高いようである(なお日本語のサ行は、古くは[ts]で発音されていた)。なお、十八世紀末頃、清朝支配下の中国に接触した西洋人が満州語を研究したところによれば、当時の満州語に於ける/b/, /d/, /g/は語頭では無声・無気の[p], [t], [k]の様に発音され、有声音(母音や有声子音)の間では有声・無気の[b], [d], [g]の様に発音された。この有気・無気による破裂音の対立も朝鮮語に通ずる現象で興味深いところである。
葉
abdaha(アブダハ)(現代トルコ語「yaprak ヤプラク」(葉)や後期中世朝鮮語「niph(-i) ニピ」および現代朝鮮語「iph(-i) イピ」(葉)参照。漢語の「葉」(古代には「イェプ」と「ヨプ」の中間の様な音)も妙に似ているが、他人の空似なのだろうか。それとも、何らかの借用関係にあるのだろうか。)
葉のある、葉の生い茂った; 扇子の如く幾重に折り畳んだ様子の
abdangga(アブダンガ)
阿弥陀仏
abida(アビダ)
天、空、天気、皇帝
abka(アブカ)
雨
古語ではabka(アブカ)、もっと近代の満州語ではagaまたはaha(アガ、アハ)
雨傘
agangga sara(アガンガ サラ)
(わざと)会う、集まる; 合う、一つになる; 一致する、同意する、調和する; 仲が良い、仲直りする; 性交する、交尾する; 相当する、そぐう; 似合う、ふさわしい
aca(-mbi)(アチャンビ)
微動する、揺れる
aci(-mbi)(アチンビ)(不規則活用なので過去・完了形は「acika アチカ」となる。)
(荷を)積む
aci(-mbi)(アチンビ)(後期中世朝鮮語「jenc-e イェンジェ」及び現代朝鮮語「?nc-? オンジョ」(「(何かの上に掛けて)置く」の意)を参照。)
荷
acin(アチン)
イタッ!、アツッ!、熱い物に触れて痛く感じた時に発する感嘆詞
acu(アチュ)
誹謗、そしり
acuhiyan
板; 筏(いかだ)
ada(アダ)
伴う、お供をする; 付く、附く、近くにある、隣にある、隣り合う; (集団で狩猟をする時に狩人たちが)輪をつくる; 縫い合わせる、縫い付ける
ada(-mbi)(アダンビ)
お隣さん、隣の家や人; 隣の、隣接する
adaki(アダキ)
(〜の)如く、同じ(く)、〜みたいな、〜の様な、〜に似た
adali(アダリ)(モンゴル語にも全く同じ語形があって、モンゴル語から借用されたと考えられる。)
何となく〜の様である、けっこう似ている
adalikan(アダリカン)或いはadaliliyan(アダリリヤン)
折り襟
adasun(アダスン)
衣(ころも)
adu(アドゥ)(清朝の時代には既に古臭い単語となっていたらしくて、一般的に現代日本語の様に「服」と言う時には/etuku/(動詞/etu(-mbi)/「着る」から)という別の単語を使った。中世前期、女真語では*/hadu/(ハドゥ)と言った模様。この語の語頭の子音の喪失に関しては、下記の「amdun」の項を参照せよ。)
群れ、動物の数多く集まっているもの
adun(アドゥン)(モンゴル語からの借用語とも言われる)
戦う、闘争する; 抵抗する、もがく、騒動する; ばったり会う、遭遇する; 受け持つ、赴任する、(責任や義務などを)負う
afa(-mbi)(アファンビ)
リスト、章、頁、(紙などの)一枚、(湯葉などの様な)液体の上面に生ずる薄い膜
afaha(アファハ)(古くは上記の「アブダハ(葉)」と同源か? ツングース諸語の語末の「−ハ」は大概「集結性を表す接尾辞」の様なものだと思うので除外すれば、どうなのでしょうか。。。)
皇子、皇帝の息子; 御主、殿様、貴方様、人に対する敬称
age(アゲ)
器、道具、武器(つわもの); 豹の尾を取り付けた槍(皇宮の警備官が常時手に持っていた)
ag?ra, ah?ra(アグラ、アフラ)
奴、使用人、奴隷
aha(アハ)(中世朝鮮語「ah@y アハイ、アホイ」および現代朝鮮語「ai アイ」または「?: エー」(「子供」の意)参照。)
兄; 年上の者(接頭辞的にも使われる)
ah?n(アフン)(複数形は/ah?ta アフタ/「兄たち;年上の者たち」)(古典モンゴル語「aqa アカ」(兄)、現代ハルハ方言/axay アハイ/(伯母に対する敬称)、現代トルコ語「a?a アア、(古くは)アガ」(殿、主、地主、上司; (人名の後に付けて)〜さん)などを参照。)
何
ai(アイ)
どう、如何; どう(ですか?)、(何々をして)如何でしょうか?
anta(アンタ)またはanta-ka(アンタカ)またはanta-i(アンタイ)
金、黄金
aisin(アイシン)(古典モンゴル語「altan アルタン」、現代ハルハ方言「alt アルト」、現代トルコ語「alt?n アルトゥィン」(以上皆「黄金; 金貨; 黄金の、黄金で出来た」などの意)と同源の単語であることはほぼ確実だろう。いずれ借用語にせよ満州語に於ける本来の*/ti/または*/lti/またはひょっとしたら*/(l)ty/が何時の時代にか/si/に変化してしまったのだろうという事を暗示してくれます。女真語の時代には*alcuhuアルチュフという何者かの接尾辞の付いた語形でも用いられた様です。黄金という金属の採掘・鋳造などは白色人種系の民族(おそらくインドヨーロッパ語族に属すどれかの言語の使用者たち)によって東アジアにもたらされたのはほぼ確実の様なので、トルコ語・モンゴル語・満州語の「アルト」系の語彙はインドヨーロッパ系の言語に由来する可能性も考慮すべきであろう。英語の「gold」(黄金)、「golden」(黄金の、黄金で出来た、黄金の様な)など参照。)
ムササビ、ももんがあ
akjambulu(アクジャンブル)
雷
akjan(アクジャン)
ない、なく、なし(否定詞)
ak?(アク)(動詞の様々な活用形と融合して使われることが多かった様です。例えば、/-ra/ ~ /-re/ ~ /-ro/(未然分詞をつくる活用語尾の、母音調和による三通りの交替形)に後続した場合には、融合して/-rak?/となった。また、ak? o-ho(なく なっ-た、すなわち「亡くなった、死んだ」の意)という様に、様々な慣用表現の中にあらわれた。)
告げる、報告する
ala(-mbi)(アランビ)
粗い; 粗雑、あらっぽい、大雑把; 粗野、低俗
albatu(アルバトゥ)
(鶉を捕らえるための)網
algan(アルガン)
受ける、受け取る、受け入れる; 引き受ける; 耐える、こらえる、持つ; 支える; (漏れなどを)ふさぎ止める; (狩猟用の鷹を)手に受ける、手に乗せる
ali(-mbi)(アリンビ)(現代朝鮮語「ar-a アラ」(知る、わかる、心得る; 悟る、気付く; 覚える、念頭に置く; 与る、関与する; 経験する、感じる、感受する)や日本語「える(得る)」などを参照。)
山
alin(アリン)(「山茶花(さざんか)」は「alin-i cai ilha」、即ち「山の茶花」。「アリン」は韓国南方海上の済州島の方言「orim オリム」(「山」の意)を参照。元々は中期朝鮮語の動詞「or@- オロ、オラ」及び現代朝鮮語の「or?- オル」(oll-a オッラと言った風に活用、「上がる、登る」の意)と同源か。祖形は*/aγla- アグラ/の様な動詞語幹だろうと推測される。極東ロシアのシホテアリニ山脈(シホテ=アリンとも、Sikhote-Alin)などの地名にも残っている)