材料の毛は、剛毛(馬やイタチ、狸)、柔毛(羊や猫、リス)の毛などが用いられている。生産地は、いずれもそうした動物がまだ生息している地方が多い。最近は、胎毛筆と言って赤ちゃんの成長を願って、赤ちゃんの髪の毛でも記念に筆を作ることもある。剛毛の弾力と柔毛の墨含み、双方の利点を併せ持つ二種の毛を配合したものを「兼毫」と言う。 また、毛質の中でも羊毛は特に重宝され、その中でも良質のものを細光峰・細微光峰などと言い、数万円〜数百万円に至るものもあるが、その柔らかさ故、初心者が扱うのは困難である。
筒の部分を持ち、毛の部分に墨や顔料をつけ、書く対象にその毛をなすり付けることにより、文字を書いたり、絵を描いたり、化粧を行ったりできる。
日本で現存している最古の筆は「天平筆(雀頭筆)」であるとされている。正倉院に残されている。
毛はウロコ状の表皮に包まれた物体である。ウロコ状の部分をcuticle(キューティクル:表皮構成物質)と呼ぶ。 人毛の場合、このキューティクルの隙間は0.1ミクロンであり、水などがこの隙間から進入すると毛全体が膨らみ反る。 そのため、作られてすぐの筆は膨らんだり毛が反るので、毛や筆の性能を活かしきることができない。 筆のキューティクルの隙間に墨のスス成分が沈着し、水分が入れない状態を作ると、膨らんだり反ったりしなくなる。 このスス成分が沈着すると、筆のコシが出て、墨の含みも良くなり、毛の乱れもなくなって、最も良い状態で筆の性能を活かすことができる。
そのため、筆は使うほどに本来筆の持つ能力が出てくるが、それには墨の選び方や洗い方も大事になってくる。
墨の成分は、主にススと膠(ニカワ:コラーゲン・ゼラチン成分)から作られている。 品質の劣悪なものは、ニカワの成分が毛に対してストレスを与え、キューティクルを傷める。 人によってはリンスやコンディショナーなどを塗布してキューティクルを守ろうとすることがあるが、前述の通り筆の毛はキューティクルの隙間にススを入れることが大事であって、リンスやコンディショナーなどは隙間に入り込んでススを入れなくしてしまうので、筆の毛にコシを与えず逆に寿命を縮めることになる。
穂先に墨が残らないようによく水洗いする。 筆の根元については、よくすすぎ、根元にニカワ分が残らないようにする。ニカワ分が溜まると、筆管が割れる。 ニカワは、ぬるめの湯に一番溶けやすいので、湯で洗うのが毛に最も良い。
毛の根元の墨を口で吸ったりして吸い出すことがよく行われているが、品質の良い墨ではよいが、墨汁など品質の悪い墨を口に入れるのは体に悪いこともある。 但しスス成分が溜まると筆は逆に長持ちするのでニカワの成分だけをよく落とすのが大事である。
作られてすぐの筆を水に長時間浸しておくと、毛に水が入り込み膨らんでキューティクルの隙間が大きく開き、毛が切れやすくなる。
筆の産地としては、広島県の熊野町(熊野筆)、呉市(川尻筆)、奈良県(奈良筆)、愛知県の豊橋市(豊橋筆)、宮城県の仙台市(仙台御筆)、東京都などが有名。いずれも職人仕事なので、特定の町内に職人の職住一致の仕事場が点在している、のが実態。
特に伝統工芸品として経済産業省に認定されているのは、
豊橋筆 愛知県豊橋市
奈良筆 奈良県奈良市、大和郡山市
熊野筆 広島県熊野町
川尻筆 広島県呉市川尻町(旧豊田郡川尻町)
である。
筆にまつわる言葉
弘法筆を選ばず(こうぼうふでをえらばず)
弘法も筆の誤り(こうぼうもふでのあやまり)
椽大の筆(てんだいのふで)
意到随筆(いとうずいひつ)
燕頷投筆(えんがんとうひつ)
口誅筆伐(こうちゅうひつばつ)
関係項目
毛、竹、糸
硯、墨、墨汁、文鎮
書道、習字、漢字
筆洗
絵筆、ブラシ、刷毛
日本画、洋画。水墨画、水彩画、油彩画。絵画