歴史的仮名遣(れきしてきかなづかい)とは仮名遣の一種である。復古仮名遣いとも呼ばれ、また現代仮名遣いと対比し旧仮名遣もしくは正仮名遣とも呼ばれる。契沖仮名遣を発展させ、明治期以降、第二次世界大戦後の国語国字改革による「現代かなづかい」の発表までのほとんどの期間で公教育の場で仮名遣いとして教えられてきたものである。主として平安前期の発音・仮名遣を基盤として、奈良時代ごろまで遡及することのできる古代の用字・発音を加味したものであり、現代仮名遣いに対してより語源主義・文法主義である。
発音に対して変化しにくい、あるいは変化することのない語源、文法を基準とするため、歴史的変化による影響を受けにくい利点があり、そのことを理由にあるいは「日本語の伝統に鑑みて最も正統な書記法である」という信念の下に現在でも使用する人もいる。
目次
1 内容
1.1 字音仮名遣など
2 歴史
2.1 背景
2.2 制定
2.3 明治以降
3 参考文献
4 関連項目
5 外部リンク
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現代仮名遣と比べて以下の様な特徴がある。
「ゐ」(ヰ)、「ゑ」(ヱ)を使用する。
連濁・複合語以外でも「ぢ・づ」を使用する。
助詞以外でも「を」を使用する。
拗音・促音を小字で表記しない(外来語は別)。
語中語尾の「はひふへほ」は「ワイウエオ」に発音が変化(ハ行転呼)したが、歴史的仮名遣では発音の変化に関係なく「はひふへほ」と表記する。
「イ」の発音に対し「い / ひ / ゐ」の三通りの表記がある。
「エ」の発音に対し「え / へ / ゑ」の三通りの表記がある。
「オ」の発音に対し「お / ほ / を」の三通りの表記がある。
長音の表記に独自の規則がある。
活用語の活用語尾の仮名遣は歴史的な形態の表現を発音より優先する。 - 例:「笑オー」(「笑う」の未然形+助詞「う」。歴史的には、「笑はむ」→「笑ワウ」→「笑オー」のように変化したもの)を現代仮名遣では「笑おう」と表記し、これに合致させるために「笑う」の未然形は「笑わ/笑お」の二種類であるとした。一方、歴史的仮名遣では元来の形「笑は」を尊重し、「む」のかわりに「う」を使っていることのみ表記に現わし、それ以外の音変化(は→ワ、ワウ→オー)はあえて反映していないのである。
発音に対する仮名遣の候補が複数ある場合、どれを選択するかは語源や古くからの慣例によって決められる。語源研究の進歩により、正しいとされる仮名遣が変る事もある。 - 例:山路は「やまぢ」。小路は「こうぢ」。道のチと同根だから。また、紫陽花は「あぢさゐ」となる。語源は諸説あって不明だが、「あぢさゐ」の表記を用いる。
歴史的仮名遣の中にも揺れのあるものが存在し、これを疑問仮名遣とする事がある。 - 現在では訓点語学や上代語研究の発達により、大半は正しい表記(より古い時代に使用=語源に近いと考察される)が判明している。ただし誤用による仮名遣のうち、特に広く一般に使用されるものを許容仮名遣とすることがある。例:「或いは / 或ひは / 或ゐは」→「或いは」。「用ゐる / 用ひる」→「用ゐる」。「つくえ / つくゑ」(机)→「つくえ」。
「泥鰌」を「どぜう」としたり、「知らねえ」を「知らねへ」としたりするのは歴史的仮名遣ではなく江戸時代の俗用表記法であり、特にその根拠はない。
漢字音の古い発音を表記するためにつくられた仮名遣いを字音仮名遣と呼び、広義の歴史的仮名遣にはこれも含む。ただし字音仮名遣は時代によってその乱れが激しく定見を得ないものも多いうえ、和語における歴史的仮名遣とは体系を別にするものであるから同列に論ずることはできない。
歴史的仮名遣における字音仮名遣の体系的な成立はきわめて遅く、江戸期に入って本居宣長がこれを集大成するまで正しい表記の定められないものが多かった。明治以降、現代仮名遣いの施行まで行われた仮名遣ではもっぱらこれによっている。
以上のような成りたちから、歴史的仮名遣の正当性を主張する論者にも字音仮名遣を含める人(三島由紀夫)と含めない人(福田恒存・丸谷才一)とがいる。
「くわ」「ぐわ」という表記は、現在では「カ」「ガ」の発音を表す。
ア段+「う」「ふ」という表記は、現在では「オー」の発音を表す。
イ段+「う」「ふ」という表記は、現在では「ユー」の発音を表す。
エ段+「う」「ふ」という表記は、現在では「ヨー」の発音を表す。
エ段+「い」という表記は、現在では「エー」「エイ」の発音を表す。
オ段+「う」「ふ」という表記は、現在では「オー」の発音を表す。
明治以降、外来語の特殊表記として以下の方法が考え出された。
「うぃ」「うぇ」を「ウヰ」「ウヱ」等と表記する。
「うぃ」「うぇ」を「ヰ」「ヱ」等と表記する。
「ヴァ」を「ワ゛」(ワに濁点)と表記する。
歴史的仮名遣は契沖が和字正濫抄(1695年)以降の諸著作で、日本書紀・古事記・万葉集からだいたい平安時代中期以前の仮名遣い用例に即した仮名遣いを標榜したのにはじまる。この立場は楫取魚彦や本居宣長などの国学者に受けつがれ、理論づけがなされていった。また明治維新後、政府は法案に歴史的仮名遣いをもちいるようになり、公教育にも導入されたことにより、それまで国学者の間でのみもちいられていたこの仮名遣いは公的なものとされていく。しかし、その非表音的立場は幾度となく批判され、ついに1946年にハ行音転呼などを反映させた「現代かなづかい」が公教育にもちいられるようになったことで、再び特殊な層が用いる仮名遣いとなっていった。
時代の変化に伴い日本語の発音は変化する。そのため、語の表記と発音とにはしばしばずれが生じ、同音でも異なる表記がありうるようになった。そのとき、厳密を重んずる上である一つの表記を正しいものと看做し、それとは別の表記を誤りと決定する必要が生じ、仮名遣が考えられるようになった。
鎌倉時代初期には発音と表記とにずれが生じ、既に表記が混乱した状態にあった。そのため、藤原定家は古い文献を渉猟した上で「を・お」「え・ゑ・へ」「い・ゐ・ひ」の区別に就いて論じた。これに行阿が補正・増補を行って定家仮名遣が成立した。