放射性降下物(ほうしゃせいこうかぶつ、英:Nuclear fallout)とは、核爆発や原子力事故で生じた爆発で生じた放射性の塵のことを指す。爆発で生じた物質がいったん上空に舞い上がった後、地上に「降下する」ことからフォールアウトと名づけられた。一般には死の灰として知られる。これは放射能汚染を引き起こす原因である。大量に発生した放射性降下物が大気中に拡散し、太陽光線を遮る影響で「核の冬」が起きると言われている。日本では第五福竜丸の原水爆事件が有名である。
本稿では主に核兵器の使用に伴う放射性降下物について記述しているが、核兵器以外の要因で生じる放射性降下物も本質的に変わる所がない。
目次
1 降下物の発生源
2 降下物の種類
2.1 世界規模の降下物
2.2 局地的な降下物
3 降下物に影響する因子
3.1 場所
3.2 気象
4 降下物の影響
4.1 長期的影響
5 軍事的考察
6 予防と除去
7 関連項目
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核爆発は、火球の中のすべての物質を気化・プラズマ化させる。核爆発が地表に近かった場合には火球に触れた大地も同様になり、これが残留電離放射線に結合して降下物を生む。その残留電離放射線の発生源は以下の通りである。
核分裂生成物(fission product)
核分裂生成物は、中程度の質量数を持つ核種からなり、重いウラン235やプルトニウム239の原子核が核分裂反応で分裂したときに生じる。核分裂では300を越える種類の核分裂生成物が生じる。これらの多くは、それぞれ大きく異なる半減期を持った放射性同位体である。半減期が非常に短い(1秒以下)核種もあるが、数ヶ月から数年間におよぶ半減期を持つ核種もある。これら核種の崩壊モードは主にベータ崩壊とガンマ崩壊である。核爆発では核出力1キロトンにつきおよそ60gの核分裂生成物が生じる。爆発から1分後のこれら核分裂生成物の推定放射能は、1.1×1021Bqであり、子孫核種と平衡状態にあるラジウム3万トン分の放射能と等しい。半減期の短い核種ほど、無害な核種に落ち着くまでの時間は短いが、短時間に多量の放射線を放つため単位量あたりの危険度は高い。
核分裂に寄与しなかった核物質
核兵器は核分裂性物質をすべて分裂させるわけではない。連鎖反応によって爆発的に生じるエネルギーは反応中心の周辺にある核分裂性物質に連鎖反応が伝播する以前にこれらを吹き飛ばしてしまうからである。このため多くのウランやプルトニウムは核分裂せずに爆発で分散される。このような核分裂に寄与しなかった核物質は主にアルファ粒子を放射して崩壊する。アルファ粒子は空気中では数センチメートルから数メートル程度の飛程しかなく、物質を通り抜ける力が小さいため、その発生源が環境中にある場合の危険度は低い。しかしこれらが生命体の中に取り込まれると、アルファ粒子が体内組織を直撃するために重篤な症状を招くことになる。これを内部被曝という。なお、ウラン・プルトニウムは、放射毒性はあるものの、砒素や青酸化合物といった代表的な毒物と比較して生化学的毒性はそれほど強くないといわれている。これらは空気中の酸素と速やかに反応し、粉末状になって周囲を汚染する。この粉末がひとたび気流に乗れば、何千キロメートル先までも拡散しつつ汚染範囲を広げる。核分裂生成物と異なり、これらの半減期は非常に長く、また最終的に放射線を放たない鉛に落ち着くまでには数千億年を超える期間を要する。その期間の長さは地球の歴史(約46億年)をも凌駕しており、人類の感覚でいうと「永遠」である。
中性子による放射化
原子核が中性子束に曝露され、中性子を捕獲して中性子過剰核となった場合、放射能を持つ核種に転換される。これを放射化という。それは安定同位体になるまで様々な放射性崩壊を繰り返する。初期の核反応の放射線の一部として放射された中性子は、核兵器を構成する物質の残余を放射化する。その組成と中性子線バーストからの距離にもよるが、核爆発周辺の環境中に存在する物質の原子(例えば土壌、大気、水)が放射化される。例えば、爆心地周辺の狭い地域は、地中の鉱物が初期の中性子線に曝露することにより放射化する。これは、地中のナトリウム、マンガン、アルミニウム、珪素が中性子を捕獲することに起因する。影響される範囲が狭いが、核爆発直後に爆心地に外部から入った者は、放射化された物質から被曝する。
核爆発のあと、火球の熱で蒸発した核分裂生成物、未反応の核物質、および兵器の残留物は、凝縮して、直径10nmから20μmの懸濁物となる。これらの粒子はすぐに成層圏へ上昇し、特に爆発規模が10キロトンを超える場合は、気流によって拡散し、数週間、数ヶ月ないし数年後に地表へ漸次沈降する。これが世界規模の降下物となるのである。
地表に沈降した放射性物質は降雨などにより地下水へ移動し、これらを汚染する他、植物に栄養素の一部として取りこまれてこれらを汚染し、汚染された植物を食べた草食動物、及びこれらを捕食する肉食動物を汚染する。