危険負担
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この項目は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。

危険負担(きけんふたん、英語:risk taking)とは、双務契約において一方の債務が履行できなくなった場合に、それと対価的関係にある債務(反対債務)も消滅するか否かという法律上の問題である。以下、日本の法律に基づいて説明する。

民法について以下では、条数のみ記載する。

目次

1 危険負担が問題となる場面

2 民法上の原則

2.1 脚注


3 危険の移転時期

4 代替物と危険負担

5 代償請求権

6 履行危険

7 関連項目

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危険負担が問題となる場面

まずは危険負担がどのような場合に問題になるのか、2つの事例に沿って見ていく。
歌手であるAはBが主催するイベントに100万円で出演する契約を結んだ。このときAはBに対してイベントに出演するという債務を負っており、BはAに対して100万円の代金支払債務を負っている。ところがイベント当日になって台風でステージが倒壊し、イベントを行うことができなくなってしまった。

AはBに軽井沢の別荘を3000万円で売却する契約を結んだ。このときAはBに対して別荘の引渡債務を負っており、BはAに対して3000万円の代金支払債務を負っている。ところが、別荘の鍵を渡して登記を移転する(つまり別荘を引き渡す)日の前日、落雷による火事でこの別荘が全焼してしまった。

どちらの場合においてもABの間には双務契約があり、AのBに対する債務が当事者の与り知らない理由で履行することが不可能となってしまっている(なお、当事者に原因がある場合については債務不履行を参照)。債務の履行が不可能であるから債務は消滅することになる。しかし消滅した債務と対価関係にあった債務はどうなるのか、という問題が残る。これをどう処理するのかが危険負担の問題なのである。


民法上の原則

民法上、危険負担は以下のような原則、例外を採用する。

【原則】 債務者主義 …「債務者[1]が危険を負担すべきである。」という考え。

【例外】 債権者主義 …「債権者[1]が危険を負担すべきである。」という考え。

特定物についての物権の設定移転の場合( ⇒534条1項)[2]⇒債権者主義

停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷した場合( ⇒535条2項)⇒債権者主義

債務や物の消滅について債権者に帰責性がある場合( ⇒536条2項)⇒債権者主義

民法は、ある債務が消滅したことのリスク(危険)は、その債務の債務者が負う(危険を負担する)という原則を採用している(536条1項)。これを債務者主義という。
上記1の例のような場合(特定物に関する物権の設定または移転以外を目的とする双務契約)に適用され、歌手Aのイベントに出演するという債務が消滅し、これと対価関係にあるBの代金支払債務も消滅する。これによって消滅した債務の債務者(歌手A)は、本来ならばもらえたはずの出演料(代金)をもらえなかった、という意味でリスクを負担したことになる。

一方、特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約では債権者主義という原則が採用されている。つまり、債務が消滅した場合の危険(リスク)を、消滅した債務の債権者が負担する(534条1項)。
上記2の例でいえば、Aの別荘の引渡債務が消滅するけれども、代金支払債務は存続する。このため、引渡債務の債権者Bは債務者Aから別荘の引渡を受けられないにもかかわらず代金の3000万円は支払わなければならないという結論になる。この場合、消滅した債務の債権者(別荘の買主B)が、目的物が消滅したことによるリスクを負担したということになる。


脚注^ a b 危険負担における「債権者」や「債務者」の判断は、消滅した債務(債権)で判断する事。つまり債権者とは「消滅した債務についての債権者」であり、債務者は「消滅した債務についての債務者」である。
^ 但し、特定物の他人物売買の場合は、債務者主義を採る。確かに一見すると特定物売買であるため、債権者主義が適用されそうである。しかし、他人物売買で特定物が契約後に滅失した場合には、債権者は未だ所有者となっていないため、債権者に対して「所有者が危険を負担すべき」とはいえず、債権者主義の考えに合致しない。この事から特定物の他人物売買の場合は債務者主義を適用することなる。


危険の移転時期

上記のような危険(リスク)は、契約の対象が物の場合、所有権とともに移転すると考えられてきた。そして所有権は契約を結んだときに移転すると考えるのが通説であるから、ローマ法以来"casum senit dominus"(所有者が危険を負担する)などの法格言により認められてきた原則により債権者主義が適用される。しかしこの原則は論理必然というわけではなく、さほど合理性があるわけでもない。しかもあまり妥当とは言えない結果を招くこともあるため(上記の例2がその典型)、契約や条文の解釈によって危険が移転する時期を遅らせようと試みられてきた。すなわち、上記はあくまで民法上の原則であり任意規定であるから、当事者の意思が優先する。危険負担が任意規定であると条文中に明記されてはいないが、危険負担に関する民法の規定自体が買主に不利であるため、特約が許されると考えられるからである。よって特約(契約)で(時には契約を解釈することで黙示的な合意を見出して)危険が移転する時期を遅らせることができる。また、危険が移転するのは目的物の支配可能性が移転したとき(引渡を受けるなどして現実に『自分の物』となったとき)であるというように条文を読み替えてしまうことで債権者主義の適用を回避する法解釈も提案されている。


代替物と危険負担

上記した二つの例では、売買契約の対象となっていた目的物は消滅してしまえば代わりの物を用意することができない不代替物(この場合、特定物と言い換えてもよい)だった。この場合、「その物を引き渡す」ことが引渡債務の内容である以上、目的物が消滅してしまったのだから「その物を引き渡す」ことは不可能となり、引渡債務は当然に消滅してしまう。ところが以下の例では債務の目的物が消滅しても、債務は消滅しない。
酒屋を営むAはBからビール1ダースの注文を受けた。このときAはBに対してビール1ダースを引き渡さなければならないという債務(引渡債務)を負い、BはAに対してビールの代金を支払わなければならないという債務(代金支払債務)を負ったことになる。用意を済ませたAはバイクに乗ってBの家までビールを届けにいった。しかしその途中、事故で転倒してしまい、ビールはすべて粉々に粉砕されてしまった。

この場合、引渡債務の目的物であるビールが事故で粉々になってしまったが、引渡債務それ自体は消滅しないと考えられている。なぜならば、ビールのように代替性のある物は、ほかからまたビール1ダースを調達してくることができるのだから、その引渡債務が履行できなくなる(履行不能になる)ことは理論上あり得ない。よって危険負担の問題にはならない、というのである。もっとも、いつまでも代替物を調達してくる義務があるとされてしまっては債務者にとってあまりにも酷である。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Smilegreen