分析心理学(ぶんせきしんりがく、独語:Analytische Psychologie,英語:Analytical Psychology)は、スイスの精神医学者・心理療法家であったカール・グスタフ・ユングが創始した深層心理学理論で、心理療法理論でもある。通称ユング心理学とも呼ばれる。
コンプレックス(感情複合)の現象を研究したユングは、言語連想実験等を通じて深層心理の解明を志向し、当時、精神分析を提唱していたウィーンのジークムント・フロイトより大きな影響を受けた。しかし、ユングは「リビドー」の概念を、従来よりはるかに幅の広い意味で定義し直してフロイトと訣別し、「集合的無意識」の存在を提唱し、元型の概念において、神話学、民俗学、文化人類学等の研究に通底する深層心理理論を構成した。
目次
1 ユング心理学の基本概念
1.1 連想実験とコンプレックス概念
1.2 集合的無意識と神話
1.3 意識の階層理論と元型
1.4 心的エネルギーの方向性と性格類型
1.5 因果性と共時性
2 魂の意味と分析心理学の成立
2.1 精神医学者としてのユングと精神医学
2.2 精神分裂病における意味の発見
2.3 無意識の研究とフロイトとの交流
2.4 目標喪失と新しい理論の構成
2.5 分析心理学の成立
3 ユング心理学の影響
4 ユング心理学年表
5 脚注
6 関連項目
7 参考文献
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言語連想実験
初期のユングの研究のなかで、もっとも代表的で、深層心理学の研究者としてのユングを世に周知のものとしたのは、1904年に公刊された「連想実験」[1]に関する論文であった。
言語の連想により無意識の内容を意識化し、理解する試みはフロイトの自由連想にすでに見られるが、ユングは一連のごく簡単な単語を用意し、被験者に連想してもらい、あわせて応答にかかる時間を測定、さらに再び最初から最後までチェックして、平均的な応答と「特殊な応答」の違いを浮彫りにした。[2]ユングは後者の反応を無意識のコンプレックスと関連づけたが、「連想実験」は単語や時間の測定数値、再現性の有無という具体的なデータが提示され、かつ統計的な比較が成されており、客観的で科学的な価値を持っている。
コンプレックスの概念
応答の時間のずれが生じたり、スムーズな再生が見られない刺激語を詳細に調べて行くうちに、ユングは、刺激語が、被験者自身にとっても意識されていない、何かの感情的意味を持っていることを見出した。綿密な研究の後、ユングは、被験者の心には、意識されていない感情と観念の複合体が存在し、この複合体に抵触する刺激語が提示されたとき、応答の時間のずれが生じることを確認した。
ユングは、このような、無意識にある観念と感情の複合体を「コンプレックス(Complex)」と名づけた。分析心理学は、別名、コンプレックス心理学(独語:Komplexe Psychologie)とも呼ぶが、それは、コンプレックス概念が、ユングの分析心理学の基本となるからである。
元型の発見
ユングは個人のコンプレックスが単一ではなく多数存在し、コンプレックス相互の関係を研究する過程で、更に深層に、自我のありようとは独立した性格を持つ、いわば「普遍的コンプレックス」とも呼べる作用体を見出した。
それは、男性であれば、自我を魅惑してやまない「理想の女性」の原像であり、また困難に出逢ったとき、智慧を開示してくれる「賢者」の原像でもあった。ユングは、このような「原像」が、個人の夢や空想のなかで、イメージとして出現することを見出したが、個人の無意識に存在するこのような原像が、また、民族の神話や、人類の諸神話にも共通して現れることを見出した。
集合的無意識と古態型
それらの原像は、「乙女」の理想像であり、「年老いた賢者」の像であり、あるいは無限の愛で自我を抱きしめる「大いなる母」の像でもあった。
これらの像は、フロイトの学説にある「抑圧」等が起こる無意識層よりも更に深い位置にあり、民族や人類に共通する原像であった。ユングは、このような像は、個人の体験に基づいて構成されたのではなく、人類の極めて長い時間の経験の蓄積の結果、構成されたもので、遺伝的に心に継承されると考え、これらの像を生み出す性向を、「古態型(Arche-Typ,元型)」と名づけた。