テロメア (Telomere) は真核生物の染色体の末端部にある構造。染色体末端を保護する役目をもつ。Telomere はギリシア語で「末端」を意味するτ?λο? (telos) と「部分」を意味する μ?ρο? (meros) から作られた語である。末端小粒(まったんしょうりゅう)とも訳される。染色体(左)とテロメア(右・拡大):詳細は本文を参照
目次
1 概要
2 テロメア研究の略史
2.1 細胞遺伝学による定義
2.2 末端複製問題と細胞老化
2.3 テロメア配列とテロメラーゼの同定
3 テロメアの構造と構成因子
3.1 テロメアDNA
3.2 テロメアに結合するタンパク質
3.3 クロマチン構造
4 テロメラーゼとテロメアの複製
5 細胞の老化と不死化、がん化への関与
5.1 細胞老化
5.2 細胞の不死化とがん化
6 関連項目
7 参考文献
8 外部リンク
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テロメアは特徴的な繰り返し配列をもつDNAと、様々なタンパク質からなる構造である。真核生物の染色体は線状であるため末端が存在し、この部位はDNA分解酵素や不適切なDNA修復から保護される必要がある。テロメアはその特異な構造により、染色体の安定性を保つ働きをする。原核生物の染色体は環状で末端がないためテロメアも存在しない。また、テロメアは細胞分裂における染色体の正常な分配に必要とされる。
テロメアを欠いた染色体は不安定になり、分解や末端どうしの異常な融合がおこる。このような染色体の不安定化は発ガンの原因となる。テロメアの伸長はテロメラーゼと呼ばれる酵素によって行われる。この酵素はヒトの体細胞では発現していないか、弱い活性しかもたない。そのため、ヒトの体細胞を取り出して培養すると、細胞分裂のたびにテロメアが短くなる。テロメアが短くなると、細胞は増殖を止めた細胞老化と呼ばれる状態になる。細胞老化は細胞分裂を止めることで、テロメア欠失による染色体の不安定化を阻止し、発ガンなどから細胞を守る働きがあると考えられている。また老化した動物やクローン羊ドリーではテロメアが短かったことが報告されており、テロメア短縮による細胞の老化が、個体の老化の原因となることが示唆されているが、個体老化とテロメア短縮による細胞老化との関連性は現段階では明らかではない。
なお、テロメアの構造・長さ・配列・維持機構などは生物種によって多様であり、本項目では主にヒト、マウス、出芽酵母について述べる。
テロメアは1930年代に細胞遺伝学的研究から発見、定義された。分子生物学の発展によりDNAの複製機構が明らかになると、直鎖状DNAの複製問題が浮上したが、これはテロメア合成酵素であるテロメラーゼの発見によって1985年に解決をみた。現在ではより詳細な分子機構の研究が行われている。
テロメアはバーバラ・マクリントック(1939年)とハーマン・J・マラー(1938年)によって報告された。マクリントックはトウモロコシを用いた遺伝学的研究から、染色体の末端にはキャップ構造があることを推測した。マラーはショウジョウバエに対するX線照射によって生じる染色体逆位の細胞学的研究から、染色体は末端を欠くと末端同士の融合などがおこることを発見し、テロメアを「染色体の末端を保護する染色体の要素」と定義した。当時はモーガンらの研究により染色体が遺伝子の担体であることは分かっていたが、DNAが遺伝物質であることはまだ明らかにされていなかった。
末端複製問題と細胞老化末端複製問題とテロメア:左)DNAはDNAポリメラーゼ(青丸)によって複製されるが、最末端のプライマー(赤線)部分は複製されない。このため、複製のたびにDNAは短縮し、最後にはなくなってしまうはず。これが「末端複製問題」である。右)生殖細胞やがん細胞ではテロメラーゼによって末端部分の複製が行われる。テロメラーゼ活性がない体細胞では分裂ごとに短縮がおこり、一定以上短くなると分裂を停止し細胞老化が起こる。
1970年代初期になると、分子生物学の発展とともにDNA複製の分子機構が明らかになりはじめる。