ジャイアント・インパクト説
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ジャイアント・インパクト説(ジャイアント・インパクトせつ、Giant Impact Theory)とは、地球衛星であるがどのように形成されたかを説明する、現在最も有力な説である。衝突起源説とも呼ばれる。

この説では、月は原始地球と、火星ほどの大きさの天体が激突した結果形成されたとされ、この衝突はジャイアント・インパクト(Giant Impact 、大衝突)と呼ばれる。概念図

また、英語ではBig Splash や Big Whack と呼ばれることもある。原始地球に激突したとされる仮想の天体は、テイア(Theia)と呼ばれることもある。この説は、1975年に科学雑誌『Icarus 』に掲載された、ウィリアム・ハートマン (William Hartmann) とドナルド・デービス (Donald Davis) による論文で初めて提唱された。
目次

1 内容

2 証拠

3 問題の解決

4 他の惑星での例

5 外部リンク

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内容ジャイアント・インパクト

ジャイアント・インパクト説によると、地球が46億年前に形成されてから間もなく、火星とほぼ同じ大きさ(直径が地球の約半分)の微惑星が、斜めに衝突したと考えられている。

微惑星は破壊され、その天体の破片の大部分は、無色鉱物に富んだ地球のマントルの大量の破片とともに宇宙空間へ飛び散った。破片の一部は再び地球へと落下したが、正面衝突ではなく斜めに衝突したためにかなりの量の破片が地球の周囲を回る軌道上に残った。軌道上の破片は、一時的に土星の環のような円盤を形成したが、やがて破片同士が合体していき月が形成されたと考えられている。

現在、コンピュータシミュレーションによる推定では、このような場合では1年から100年ほどで球形の月が完成するとされている。また、最近のシミュレーションでは、月が一つにまとまるまでの時間は早ければ1ヶ月ほどだとする結果が出ている。誕生したばかりの月は地球から僅か2万kmから4万kmほどのところにあり、それが徐々に地球との間の潮汐力の影響で、地球から角速度を得て遠ざかり、現在のように地球から平均38万km離れた軌道まで移動したと考えられている。

また、この影響で、月が誕生した当初は1日5時間から8時間ほどだった地球の自転速度が、現在のような1日24時間の速度になったとされる。現在でも、地球と月は1年に3.8cmずつ遠ざかり、地球の自転速度も少しずつ遅くなっていることが実測されている。


証拠

このような衝突があったとする証拠は、アポロ計画で採取された月の岩石の酸素同位体比が、地球のマントルのものとほとんど同一だったことである。化学的な調査の結果、採取された岩石には揮発性物質や軽元素がほとんど含まれていないことが分かり、それらが気化してしまうほどの極端な高温状態で形成されたという結論が導かれた。月面に置かれた地震計(月震計)から、ニッケルでできた核の大きさが測定され、地球と月が同時に形成されたと考えた場合に予測される大きさに比べて、実際の核の大きさが非常に小さいことが分かった。核が小さいということは、衝突により月が形成されたとする説の予測と一致する。それは、この説では、月は大部分が地球のマントル、一部が衝突した天体のマントルから形成され、衝突した天体の核から形成されたわけではないと考えられるからである。ジャイアント・インパクト直後には、地球は全体が高熱になりマグマの海(マグマオーシャン)が形成されたと考えられており、衝突した天体の核は、融けた地球の深部へ沈んでいき、地球の核と合体したと考えられている。

月が存在するということ自体以外の、この事件の主な痕跡は、研究者によると、地球が明るい色の無色鉱物や、中間的な岩石のタイプを、地球表面全体を覆うほど十分には持っていないという事実である。このために、地球には無色鉱物に富んだ花崗岩などの岩石からできている大陸と、大陸より暗い色で、より金属に富んだ、有色鉱物に属する玄武岩などの岩石からできている、という窪地があるのである。この構成の違いに加えて、の存在が、地球に広範囲に渡る活発なプレートテクトニクスを存在させることになった。さらに、地球の自転軸の傾きと、初期の自転の速さも、いわゆるジャイアント・インパクトによって決まったと考えられている。

ジャイアント・インパクトのような出来事があった場合に、本当に月のような天体ができるのかどうかは、コンピュータシミュレーションにより検証されている。ジャイアント・インパクトの計算は、重力多体問題と呼ばれる計算の一種で、破片が相互に重力的影響を及ぼしあうことから非常に計算量が多く、コンピュータには高い性能が要求される。しかし、コンピュータの技術の進展により、1980年代後半から、重力計算専用のスーパーコンピュータにより、シミュレーションでのジャイアント・インパクトの実証ができるようになってきた。その結果、パラメータを上手く設定すると、実際に月のような衛星の形成が起こりうることや、地球の自転軸の傾きなどを再現できることが示された。現在では、扱う破片の数を増やすなどして、さらに精度の高いシミュレーションの試みが続けられている。


問題の解決

ジャイアント・インパクト説が提唱される以前は、月の形成理論として有名な説が3つあった。原始地球は高速で回転していて、その一部がちぎれて月になったとする「分裂説」(「親子説」とも)、太陽系形成時に塵の円盤から地球と一緒に月が出来たとする「兄弟説」(「双子説」とも)、月は地球とは別の場所ででき、それが後に地球の引力に捕らえられ地球の衛星となったとする「捕獲説」(「他人説」とも)である。

しかし、兄弟説や捕獲説では、地球のマントルと月の化学組成が似ていることの説明ができなかった。分裂説では、本当に分裂が起こるほどの力学的なエネルギーがあったのかという点に疑問があった。兄弟説では、地球と月の平均密度の違い(地球は5.52g/cm3、月は3.34g/cm3)を説明できず、捕獲説では、月のような大きな天体が地球に捕らえられるような確率が非常に低いと指摘されていた。さらに、アポロ計画で採取された岩石から、月の形成初期には、月全体がマグマの海(マグマオーシャン)で覆われていたことも分かっており、兄弟説や捕獲説ではこれを説明できなかった。

このように、どの説もそれぞれ重大な問題を抱えていた。このため、1970年代中頃にはどの説も行き詰まってしまい、困惑した天文学者のアーウィン・シャピーロ (Irwin Shapiro) は、「もはや満足できる(自然に思える)説明は無い。最善の説明は、月が見えるのは目の錯覚だと考える事である。」という冗談を言うほどであった。

一方、ジャイアント・インパクト説では、月と地球のマントルの化学組成が似ているのは、月が主に地球のマントルの破片からできたためであるとされる。平均密度の違いも、破片に地球のマントル(岩石が主成分のため比較的低密度)が多く含まれ、核(鉄が主成分のため高密度)はほとんど含まれないことで説明できる。また、形成直後の月は破片が多数衝突したため高温になり表面が融解していると考えられることから、月がマグマの海で覆われていたとする証拠との整合性も高い。このように、ジャイアント・インパクト説は、以前の説が抱えていた問題の多くを解決できると言われている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Smilegreen