グランゼコール
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グランゼコール(Grandes Ecoles)は、フランスにおいて創設より現在に至るまでテクノクラート養成校として認識されている高等教育機関。フランスの高等教育機関には、グランゼコールの他に入学試験がない一般大学のユニヴェルシテ(Universites)がある。例えばリベラルアーツ教育を行うパリ大学は一般大学でありグランゼコールではない。

ルイ14世絶対王制以降に中央政府が多くの専門的技術者を必要としてきたため、主に理工系専門技術者の養成校として設立された。一般教養の涵養ではなく、社会発展に直接寄与するテクノクラートの養成を目指す。

現在、グランゼコールが加盟するグランゼコール会議には229校が加盟している。
概略パリ高等師範学校(ENS Ulm)国立行政学院(ENA)国立土木学校(ENPC)

グランゼコールの大半は理工系の技師学校(ecole d’ingenieurs)である。商業、教育、行政、司法、軍事を専門とするグランゼコールは理工系に比較的少数であり、新設校も多い。例外として、高等師範学校高等研究実習院は自然科学、人文科学、社会科学の全てを含むグランゼコールとして設立された古い歴史を有している。

フランスでは、一般的にグランゼコールはエリート養成機関であると認識されているため、注目が高く、様々なランキングが出されている[1][2]。評価は、学校により難易度は大きく異なり、ランキングを算出する機関や雑誌により異なるが、いわゆる上位のグランゼコールは、行政系では国立公務学院パリ政治学院、理工系ではパリ高等師範学校エコール・ポリテクニーク国立土木学校パリ国立高等鉱業学校国立先端技術学校、商業系ではパリ経営大学院ESSEC経営大学院などが一般的に知られている。特に行政分野に関しては、パリ政治学院を卒業後、国立公務学院(旧・国立行政学院)に進学するパターンがその分野におけるエリートコースとされている。

MBAや課程博士号などを取得できるグランゼコールも存在する[3][4]

卒業生は近代以降のフランス社会での支配階層を占めており、一例を挙げれば行政系のグランゼコールである国立公務学院(旧・国立行政学院)はこれまで数十名の大統領首相を輩出している。しかし卒業生が少数であることや、特定の専門分野について理論を把握した上で実践的教育を行うというフランス独自の教育形態であることもあって、ヨーロッパおよびフランス文化圏以外の者にはその存在や影響力が詳しく知られていないこともある。

法学医学分野の専門教育を行うグランゼコールは存在しない。そのため、フランスで法律家医師を志望する者は大学の法学部・医学部に進学する。
歴史

最古のグランゼコールは国立土木学校であり、1747年ルイ15世の勅令によって、国家建設に不可欠な土木・建築領域におけるテクノクラート養成を目的として創立された。現在名門とされるグランゼコールの多くは18世紀に設立された。これらの歴史の古いグランゼコールの殆どが理工系技術者の専門職養成学校である。これは、フランス革命によって貴族制が否定され、新国家再建のために高度な専門知識・技術を有する人材が求められたのに対して、フランスの大学はリベラルアーツ教育を目的としており、実学の職業教育を行う機関が存在せず、それを国家が用意する必要があったためである。その後、理工系グランゼコールを卒業した者は、フランスの富国強兵政策の技官として、また富国強兵政策の立案者としての役割を担ってきた。

理工系のグランゼコールが充実すると、商業系のグランゼコールも設立され始める。しかし、この時期に設立されたグランゼコールが現在のような専門分野での地位が高まるのは、第二次世界大戦後になって、現在国際的にも知られている国立行政学院が設立されて以降のことである。
進学キャリア

グランゼコールへの入学および進級・卒業はいずれも難度が高い。グランゼコールの志望者は、リセ卒業後すなわちバカロレア取得後に、グランゼコール準備級で2?3年間の入学準備を行い、受験するのが一般的である。準備学校卒業者は、ボローニャ・プロセスにおける大学2年?3年の修了者と見做される資格が授与される。
グランゼコール準備級(CPGE)リセ・ルイ=ル=グランは有名なCPGE詳細は「グランゼコール準備級」を参照

グランゼコールへの入学を希望する生徒は、Classes preparatoires aux grandes ecoles(CPGE、グランゼコール準備級リスト学校)に所属する必要がある。CPGEは独立した学校ではなく、主に、名門リセ(日本の高等学校に相当)に設置されるバカロレア取得後の進学コースのようなものであり、ISCED-5Aに位置づけられる[5]。準備校はフランス各地に多くあるが、名門とされる準備学校は、パリ市内には多数、それぞれの地域圏に1校が政府に指定されている。

以下は首都圏・地域圏の名門準備校リスト:

パリ(Lycee Henri IV, Lycee Louis Le Grand, Lycee Stanislas, Lycee Saint-Louis, Lycee Janson de Sailly, Lycee Fenelon)

ヴェルサイユ (Lycee prive Sainte-Genevieve)

マルセイユ (Lycee Thiers)

リヨン(Lycee du Parc)

ストラスブール (Lycee Kleber)

ボルドー (Lycee Michel-Montaigne)

ディジョン (Lycee Carnot)

ニース (Lycee Massena)

リール (Lycee Faidherbe)

トゥールーズ (Lycee Pierre-de-Fermat)

レンヌ (Lycee Chateaubriand)

グルノーブル (Lycee Champollion)

CPGEに進学できる子女の数は限られており、そこからさらにグランゼコールに進学できる学生数も制限されている。人文系最難関の高等師範学校文系専攻の場合は合格率は1%から3%程度。理系は専門が細分化されており、定員枠も文系よりも遙かに多いため、合格率は過半を越える。なお、かつてはCPGEの選抜試験は学校単位で実施されていたが、現在は試験は全国で一括して実施され志望者が特定の学校を選択することはできず、試験結果に応じて入学する学校が指定され、2年次進級できなかったものは、大学に編入することが多い。なお、名門グランゼコールを受験できる回数は3回までに限られており(合格するまでは「留年生」として準備学級に在籍できる)、3回以内で合格できなかった場合には通常の大学に進学せざるを得ない。また、CPGEの大半は公立で無償であるが、高収入の家庭でなければ授業料を払うことすらも難しい私立校も若干ある。なお、最優秀校として知られるリセ・ルイ=ル=グランアンリ4世校は公立であるため無償である。日本に対応する教育機関はないが、旧制の大学予科旧制高等学校に近い。
入学試験

CPGEを卒業した者は、グランゼコールの選抜試験へと進む。選抜試験は、筆記(論文形式)と面接による試験である。試験内容は、専攻する学問に関連する領域における論文を作成するもの。例えば高等師範学校(文系)の場合には試験は二次に渡って実施される。一次試験では歴史学、哲学、社会学などの領域を対象[注 1]として、「××(歴史的な出来事)のフランスにおける意義」と言った広汎な設問に対して論理的かつ詳細な論述が求められ、同時に数十ページに渡る外国語テキストの翻訳の語学試験(2ヶ国語以上)も実施される。論述試験の場合、試験時間は一領域あたり6時間程度、語学の場合でも4時間程度を要するため、一週間程度の期間に連続して試験を受けることになる。二次試験では、一次試験と同様の論述試験と共に、数時間で論文を読破した後にその内容に関する詳細な説明や討論が求められる面接試験が実施される。したがって、日本における面接試験のような、志望動機や入学するに当たっての希望や心構えなどが尋ねられることはない。
在学中

フランスでは大学も含めて公教育が無償であることが多い。エコール・ポリテクニーク高等師範学校国立古文書学校のみ、聴講官という準国家公務員相当の地位となり給金が支給されるが、卒業後10年間は公務員として働く義務を負い、辞退者にはペナルティ罰金が課される[6]。しかし商業系のグランゼコールには国立であっても有償で、学費の安くないところもある。
文化

上位のグランゼコールの学生や出身者には通称が存在する。例えば、エコール・ポリテクニークはポリテクニシャン、エコール・サントラルはサントラリアン、高等師範学校はノルマリアン、国立行政学院(ENA)はエナルク、国立古文書学校はシャルティストのように呼ばれる。
批判

フランスは圧倒的な学歴社会である[7]。上位グランゼコール出身者は高級官僚あるいは大手企業の幹部として将来を嘱望されることがある。日本と異なり、エリートはグランゼコール卒業後、大学院(大学院大学)に進学する。


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